第六話
リーフの木陰でリーグは木の棒のような物を作っていた。右手の手のひらに付いた水色の板で棒の表面を撫でて形を整えていた。
リーグが使っているのは工作魔法と呼ばれる工作に特化した魔法である。
魔法は十歳の『祝福の儀』という儀式を通して『創世の女神』から魔力の使用が認められ個々人に属性が与えられる。
属性には火水風土の基本属性があり多くの人は一つ与えられる。二属性は稀で三属性は皆無といって良かった。
リーグが与えられたのは水属性である。工作魔法は水編と風編がありリーグは工作魔法水編によって木材を工作していた。
属性の中で火は戦闘にかなり寄り土属性は土木魔法と呼ばれていた。その中で二つの属性に跨る珍しい魔法と言えた。
リーグが使っている工作魔法は削ったり磨いたりする『サンダー』と名付けられ面を整えるのに特化した魔法である。
リーグは『工作魔法大全』というフェルノート王国が出している大全シリーズを船乗りにもらい習得していた。
リーグとリーナが住んでいるリーフの家には他に『水属性大全』と『風属性大全』が置いてあった。どれも王国から来た船乗りに貰っていた。
リーグが貰った『風属性大全』はリーナに贈った。リーナは風属性を与えられた。多くの『海の民』は風と水が与えられるので普通であった。
「リーグ! エビが食べたいから獲って来て。魚は多過ぎるから神殿に持ってくよ。代わりに野菜を貰ってくるねー」
家の玄関からリーナが声をかけてきた。リーグは「あいよー」と答え作業を止めて立ち上がった。お尻の砂を落とし作業小屋に向かった。
「あれ? 海中メガネが見当たらない……。前回潜ったのはいつだったかな。まあなくても後で目を洗えばいいか。リーナに作ってもらおっと」
エビを獲るのに素潜りをするので海中メガネと腰網を取りに来たが海中メガネは行方不明だった。リーナに怒られると思いながら小屋を出て海に向かった。
リーフの出口辺りで潜りエビやカニを少し集めた。魚は獲り過ぎたようなので今回は銛を持たず魚は見逃し海から上がった。
リーグは水球を発動させて全身を丸洗いした。ぐるぐると回る水流を通し歪んだ景色を堪能したリーグは水を操作して水滴を飛ばした。
サクサクとエビとカニを締めて水で丸洗いすると家の台所に向かった。冷却保管箱を開きエビたちを仕舞った。
木陰で再び木の棒を加工し始めたリーグは完成したのか棒を検分した。小さく頷くと置いてあった全く同じ棒を手に取り砂浜で裏返っている船に歩いていった。
「さて……こいつを両舷にくっつけて横滑りが止まるかだな」
リーグは船底に二本の棒を付ける位置を確認した。船底の表面は明らかに木材でなかった。リーグは位置を決めると黒墨でポイントに印を打っていった。
印を打ち終わると棒を横に置き尖った金属の棒を腰布から取り出して船底に傷を付けていった。準備が終わると布で口元を覆い周囲の確認を行った。
「撥水シートを削り取ってダボと樹脂で繋ぐとして忘れてる事は……積層用の樹脂か。タグ叔父さんに頼んだのを取りに行かないとだな」
リーグは作業で忘れている事がないか確認した。積層用の樹脂は棒を付けて乾かす間に取りに行くと砂浜にメモをし作業を再開した。
手に紐付けて発動したサンダーで印に囲まれた範囲を削り取った。木屑は出ず樹脂と撥水シートの粉が周囲に出始めるとリーグは「造水」と呟いた。
作られた水が船底を濡らしサンダーの回転で周囲に飛び散った。リーグは黙々と二本分の取り付け位置の表層を削っていった。
削り終わると船底全体を洗い水を操作して水滴として飛ばした。
棒に接着用の樹脂を塗りたくり船底にも塗って二本の棒を付けた。グイグイ押した後は船体にロープを回しギュッと縛って固定した。
リーグは指先に紐付けたドリルビットを発動し棒を突き抜け船体まで穴を開けた。腰袋から金属のダボを取り出し穴に差し込んでいった。
差し込んだダボを奥まで叩き入れ穴の部分に木屑と樹脂を捏ねてた物を埋め込んだ。別のダボでコンコンと叩きながら木屑を詰める作業を繰り返した。
木屑をぎゅうぎゅうに詰めるとリーグは大きな敷布を持ち出して敷き船体をひっくり返した。そして上空に大きな水球を発動して一気に周囲を水浸しにした。
「一晩ほど置いたら積層し直して……乾燥だな。乾燥待ちの間に環礁に顔を出すか。こいつの作業でちょっとご無沙汰しちゃってるし」
リーグは再び水球で全身を丸洗いし着替えのために家に向かった。




