第五話
ドルナンは商人に利益を捨てる気があるか軽く尋ねてきたリーナの存在感に微かな警戒心が生まれた。ニコニコしているところが読み切れなかった。
「うーん、利益……利益かぁ。何ていうか凄く不思議な感覚だよ。ほんとに何ていうか……言葉の使い方なんだろうね」
ドルナンは警戒した事で逆に言葉の違和感に気が付いた。
「リーナちゃんのガラス片に対する熱意は感じ取れた。多くを回って相場を知れというのも正しい指摘だ。そこで利益を得て粉末ミルクを提供?」
ドルナンは最後の鍵が外れないもどかしさで首を傾げた。
リーグはリーナの脇を突いた。
「いきなり席を立たなかった時点でドルナンさんは思慮深く勘をバカにしないと分かります。それほど難しい話ではありません」
リーナは「神殿に原価で売る」という提案をドルナンに持ちかけた。理由は単純に粉末ミルクは妊婦や病人に効果が高く需要が多いと話した。
「市場に流せば金持ちが確保してしまいます。勿論必要だからという可能性はありますが……神殿を頼る人たちは買うことができません」
本当かは分からないが入荷量がとにかく少ないとリーナは話した。王国でも貴重な品と商人が持ちかける。そして高額な値段を提示すると説明した。
「多くの商人がブラナン島とリフールを馬鹿にしてる。ホルンミルクがリューウェンのダンジョンで産出している事ぐらい知っているわ」
リーナは高額で少量の粉末ミルクを持ち込む商人は情報が出回り南方諸島で交易が出来なくなるとドルナンに告げた。
「別に高額でも良いわよ? でも私のお勧めは原価で神殿に卸すこと。ドルナンさんは面白い人だしリーグと話が合うから何回でも来て欲しいかな」
リーナは笑顔で話を終わらせリーグの荷物から袋を取り出した。袋の中から『爽快の実』を取り出し一口食べて満面の笑みになった。
「ふぅ、ここからは俺が話す感じですね。まず売値はドルナンさんが付けるものです。リーナは原価と言いましたけど俺たちは原価を知りません」
リーグの言葉にドルナンは「確かに……」と呟いた。
「そうですねぇ……俺たちは『海の民』なんです」
突然変わった話にドルナンは「えっ?」と目を丸くした。
「南方諸島にはあちこちにいるので珍しくはないですよ? で、海の民にはたまーに風詠みが生まれます。とにかく風の動きを察知するのが上手い子です」
リーグはフェルノート王国では『海の民』に多少の反応が出る事を知っていた。知っていたのでドルナンの反応は無視した。
「リーナは風詠みで風巫女の一人なんです。なのでとっても『創世の女神』を身近に感じ神殿も大好きです。だから――」
リーナが『風詠み』である事を伝えた。そしてリーグは前の話で引っ掛かっていた事に気が付いた。
「丸太を渡したって言ってたよね? もしかして神殿は困ってる?」
「もう大丈夫だよ? 祭壇壊れて作り直す木材がないって困ってただけ。リーグの丸太見て感激して泣いてたけど……大丈夫だよ?」
リーグの質問にリーナが不安しかない返事をした。
「……あれ生木だよ?」
リーグは生木を持って行った点を指摘した。
「えー、リーグは丸太に『早く乾けよ』って話しかけて魔力をながしてたよね? 女神様に見られてたら……うん……乾燥しちゃうよ?」
「……女神様の暇潰しか」
リーグはリーナの答えで『女神様の暇潰し』という南方諸島に伝わる変な話を思い出した。思い出したが役には立たない内容だった。
「そこは置こう。ドルナンさん、つまりは神殿に卸せば女神様が喜ぶからきっとご利益がある……という事をリーナは適当に話しただけです」
リーグは自分で折った話の腰を無理やり繋いだ。甚だしく雑な接骨で繋がらなさそうだがリーグはどうでもよくなっていた。




