第四話
リーグとリーナは招待を受ける事にした。ある程度の自衛ができるのも大きかった。渡し板を上がり甲板に上がった。
甲板は整然としていた。王国から航海し港に入ったばかりと考えると綺麗すぎた。リーグは見える物を見ようと甲板を見渡した。
「へぇー綺麗にしてますね。ロープは綺麗に纏めてあるしぱっと見で塩の塊もないわ。帆も綺麗に畳んでるのも高評価だわ」
リーナは船上の環境をベタ褒めした。そしてチラリとリーグを見て「誰かさんは……」と目を細めて揶揄り始めた。
「そっ……それよりリーナ! 凄いよ! 片舷だけでサップが三枚もあるよ! 三枚も並べたら海上でリーナの好きなベリーが育てられるよ!」
焦ったリーグはなぜか海上で家庭菜園が作れると提案していた。
「海上菜園はリーグが浮き桟橋を広げれば作れるわよ? そういえば……確か去年の夏にも同じような事で約束した気がするわ」
リーナはさらにリーグを追い詰めていった。
「えっ?……あれ?……あっ! 丸太を乾燥させようとして……確か家の裏に……忘れててごめんね」
リーグは惨敗を宣言し無条件降伏をした。
「あの丸太は神殿が困ってたので渡しましたよ。伝えた時には丸太の存在そのものを忘れてましたけど。でも神殿の役に立ったから許します」
リーナはニッコリと微笑みリーグに許しを与えた。
ドルナンはクスッと笑い船尾のこじんまりした船尾楼に誘った。移動しながら船長に声を掛け四人で船主のラウンジでテーブルを囲んだ。
「ドルナンさんに雇われている船長のガンドです」
船長に二人も名乗り挨拶を交わした。ドルナンが淹れた紅茶を飲みながらの雑談を始めた。
「この船はリリーナ号といって妻の名前なんだ。二本マストで王国だとスクーナーと呼ばれてるタイプなんだけど二本のマストは同じ高さにしている」
ドルナンは船の説明を切り出した。リーグは「なぜ同じ高さに?」と切り出した言葉の中に何かを感じて尋ねた。
「三本ならメインマストを一番高くするんだけど二本だろ? 一応は船尾側をメインとして扱ってる。俺は固定する必要はないって考えたんだ」
「正確に言えばどっちをメインにすべきか造船技師も頭を抱えてね。横帆と違って縦帆は帆が風を遮る点を重視しないで済むだろ?」
ドルナンの言葉にリーグは頷いた。横帆はどうしても船尾側の帆が乱流を作ったり風を塞ぎ船首側の帆を十分に生かしきる事はできなかった。
「実はガフの上帆桁を降ろせるようにしたのも苦肉の策なんだ」
ドルナンは言葉を切りリーグの目を見た。
「……縦帆で縮帆ができる?」
試されていると感じたリーグは帆桁を降ろすと考え縮帆に至った。
「そう! やっぱりリーグくんは凄いな。帆は支えがないと張ってくれないからね。本来のガフ帆は縮帆を最初から捨てた艤装だからそれは仕方がない」
ドルナンは短時間で気が付いたリーグを褒めた。縮帆のないガフ帆は常に全展帆となり風に対する自由度が減っていた。
「マストに横帆の帆桁とか艤装がある限り降ろせませんよね」
帆桁そのものや留めるロープなどでマストは混雑している。そこを小さいとはいえ帆桁を上げ下げするのは物理的に無理だった。
「君たちの小型帆船を見た時に驚いたのはメインの帆がガフでない事だった。まさかガフ帆でなく三角の帆を付ける発想があるとは考えもしなかった」
「あれの欠点は帆が小さくなる事です」
ドルナンは並走した小型帆船がガフ帆でない帆をメインマストに付けていて驚いた。ぱっと見て『合理的だ』と直感で感じた。
「それに対するリーグくんの答えはあの小型帆船が付けていた大きなジブ帆だろ?」
ドルナンはニヤリと笑った。
「あれは苦肉の策です。メインの帆が大きくできないからジブ帆を大きくした……メインとは何かという部分に喧嘩を売ってるような帆です」
リーグは苦笑いで肩を竦めた。
「帆の話はそれぐらいでなぜ二本なの?」
リーナが横から帆の談義をぶち切った。リーナは帆の話に飽きていた。
「おぉそうですね。二本なのはあの大きさだからです。恥ずかしい話ですが三本マストの船倉を交易品で埋める自信がなかったんですよ」
ドルナンがぶっちゃけると「商人なのに?」とリーナは突っ込んだ。
「どうしても駆け出しの時は少なくても価値のある物を運ぶしかなくてね。それで資金を貯めるために目利きを鍛えたりしたわけだ」
ドルナンは駆け出しの頃の話を挟んだ。
「いざ建造! と思ったんだけど大商いの経験不足で王国で復路の交易品が思い浮かばなかった。今考えてるのは香辛料と織物ぐらいだ」
そして経験不足で空荷状態と白状した。
「往路で持ち込んだ物は?」
リーグはその状態で何を持ち込んだのか興味が出た。
「今回持ち込んだのは青系のガラス片と粉末ミルクと既存の糸だよ。青は鉱石由来だから珍しさが出せないかと思った。粉末ミルクは王国でも人気だからかな」
ドルナンが持ち込んだ交易品を伝えるとリーナの目が光った。それとない風で粉末ミルクがホルンかさらっと探りを入れるとドルナンは頷いた。
「その交易品は大正解です。青のガラス片は絶対に売れます。安売りしてはいけませんよ? 最低でも三箇所は回って相場を調べて下さい」
リーナの気迫にドルナンは引きながらも頷いた。
「その代わりに粉末ミルクの利益を捨てませんか?」
リーナは商人であるドルナンに利益を捨てるか尋ねた。




