第三話
「ガフの上帆桁がマストの下に来てるよ。やっぱり横帆の帆桁類を取れば降ろせるんだよ。それにしてもガフ帆が綺麗に畳まれてる」
リーグはリーナに二つのガフを指さした。そして気が付いた魔道具を指さしながらリーナに説明し船尾側の推進魔道具で三つの魔道具を紹介した。
「あれ?……舵が二枚?……マジか。王国でも二枚舵ってノルド家のミレーユ号だけって聞いてたのに増えたのか?」
リーグはなぜか少し船尾より前の左舷側にラダーがあるのに気が付いた。端に寄ってる時点で一枚の舵でないと気が付き唖然とした。
「今は何隻か存在するよ。それにしても船首から船尾に歩いて二枚舵に気が付いて驚くとはね。君は造船に関わってるの? 若そうだけど……」
背後から声を掛けられ二人はビクッと肩を揺らし恐る恐る振り返った。目の前に少し年配の男性が立っていた。
二人の訝しげな視線を感じた男性はこの船の持ち主と自己紹介をした。
「フェルノート王国の商人でドルナンだ」
気さくに手を出してきた男性にリーグはスッと前に出て握手をした。そして名を名乗り造船技師ではない事を念のため伝えた。
「凄いな……十三歳で見えてる艤装を全部並べてたよね。中でも船舶風壁魔道具と巻上魔道具は分かり難いと思うんだけど……」
自己紹介を聞きドルナンは目を丸くした。
「船舶風壁魔道具は入港時の航跡が不自然だったので気付きました。巻上魔道具はあの位置に錨を付けたら普通の錨巻上機では上がりませんよ」
リーグは簡単に種明かしをした。
「あぁ! 君たちは入港航路の進路を譲ってくれた小型帆船に乗ってたね。手を振ったら振り返して驚いたよ。小型帆船は忙しいのに随分と余裕があったよね」
ドルナンは入港時に追い越した小型帆船を思い出した。
「君たちの乗っていたあの小型帆船は速度が出てたね。前に入れると思ったのに軽々と前を取られたよ。それにあの回頭もスムーズで速度の調整も凄かったよ」
ドルナンはリーグたちをベタ褒めした。船長や操舵手も目を丸くして全力で手を振ってたのが面白かったとドルナンはバラした。
「えー、あの子は底を磨き過ぎて横滑りが酷かったよ? それこそ傾けないと曲がらないよー。リーグは丁寧に磨き過ぎだよ!」
それまで挨拶以外は静かにしていたリーナがリーグのミスを突っ込んだ。滑り過ぎて重心を普段と逆にしていたぐらいだった。
「それは認める。磨き過ぎた……ツルツルになるのが楽しくなって止まらなかった。ただあの材質だと船底を構造的に変えないと滑りは止まらないよ」
リーグは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「えぇー、あれで不満のある仕上がりだったの? というかあの小型帆船はリーグくんが建造したの? 今日一番の驚きだよ!」
ドルナンは二人のやり取りを唖然とした顔で聞いていたが驚きが増えた。十三歳の少年が作った小型帆船は少しおかしいと思った。
「そうだ! 二人とも俺の船に招待して良いかな? 船長も会いたがると思うからぜひ浮かて欲しいんだけど……どうかな?」
ドルナンはこの機会をみすみす逃がすのはダメだと直感した。
「この帆船はフェルノート王国で唯一の二本マストの帆船なんだ! そしてリーグくんが指摘したガフの上帆桁を降ろせるのもこいつだけだよ!」
リーグとリーナは愕然とした。
フェルノート王国は南部に長い海岸線を持つ国だが海洋国家ではなかった。それでもノルド家を中心に多くの帆船を持っていた。
その王国で唯一の称号を二つ持つ帆船はあり得ないとリーグは思った。




