第二話
小型の帆船が湾内にある小さなリーフに滑り込んできた。リーフには小さな木で作られた桟橋と奥には砂浜が広がっていた。
リーナが足元から布の塊を拾い上げるとポイっと船尾から海面に投げ込んだ。無造作に投げ込んだ布は海中で広がり小型帆船は急激に速度を落とした。
「こいつは上げるから桟橋側を頼む」
リーグがジブシートやメインシートを纏めながらリーナに声をかけた。リーナは「はーい」と答え投げ込んだ布に結ばれていたロープを引いた。
手早く布を回収したリーナは固定してあるティラーを確認して立ち上がった。桟橋が近づいてきたので船首側に移動した。
リーグが空いた船尾に陣取りティラーの固定を外して船を桟橋に近づけた。リーナは近づいた桟橋に空中を跳ねて渡った。
船尾の係留索をリーグはリーナに投げ渡した。受け取ったリーナがロープを手繰りテンションを掛けた。それを見たリーグは船首側に駆けた。
船首の係留索を手にすると空中に水色の板を並べ砂浜に向かって駆け抜けた。砂浜も駆け抜け小型のロープ巻上機に取り付いた。
「リーナ! 巻き上げるぞ!」
リーグは返事を待たずロープ巻上機にロープを噛ませ一気にハンドルを回しロープを巻き取り始めた。ピンッと張ったロープが船を引っ張った。
ガリガリと巻き上げたロープは小型帆船を砂浜の上に引きずり上げた。船尾側のロープで波に遊ばれる船を宥めていたリーナが係留索を船に投げ入れた。
リーナはそのまま駆け出し「リサおばちゃんの店ね!」とロープ巻上機と格闘しているリーグの横を駆け抜けた。
「えぇーまた買うの? 確かに入荷してるけど列が長いよー」
リーグは無駄と知りながらいつものように文句を言った。しかし砂浜の奥に建てられた小さな家に飛び込んだリーナの返事はなかった。
リーグは肩を竦め小型帆船に向かった。そして「散水」と呟くと大量の水がシャワーのように船に掛かりリーグはそのまま丸洗いを始めた。
丸洗いしたリーグは当て木を船底に四本刺して船を仮止めした。
リーグはスタスタと奥の建物に向かった。周囲には何隻も小型の船が置かれていた。奥に入るに従って荒さが見え不完全さが強くなった。
リーグはそれを気にするでもなくリーナが待ってる建物の玄関に向かった。まだ明るいが桟橋と青果店で時間を使うので小走りになっていた。
リーグとリーナはリーフから小道を抜けて小さな森を抜けた。住宅街を二人は駆け抜け大きな通りを渡り桟橋区画に向かった。
「リサおばちゃんには声を掛けて確保しておいて貰おうよー」
「ダメよ! ちゃんと並ばないと。どうせ初入港なら確認に時間が掛かるんだから並んだ後でも大丈夫でしょ? 並ぶのは決定事項よ!」
リーグはリーナの強情さに肩を竦めた。リーナは立場を使わない。人の善意を利用しないと『創世の女神』に誓っているので折れる事はなかった。
リサ青果店はやはり盛況だった。この時期にのみ入る『爽快の実』は人気商品だった。常夏な南方諸島でスッキリする果物は長蛇の列だった。
「リサおばちゃん! 二袋!」
順番が回ってきたのでリーナが元気にいつもと同じ注文をした。リサ青果店は来店一名に一袋と決まっていた。
「おやおやリーナはまた買いに来たんか。仕方ないのぉ」
リサおばちゃんと呼ばれた女性は苦笑いを浮かべながら二袋をリーグに渡した。リーグは「いつもすみません」と頭を掻いて受け取った。
リーナは「また来るね〜」と既に桟橋区画に向かい始めていた。リーグは背負い袋に詰め込んで手を振ってリサ青果店を後にした。
桟橋区画に入る入口は軽く手を振りそのまま駆け抜ける。初入港時は手続きが多いため見慣れない船は奥の桟橋に誘導される。
リーグは念のため桟橋の船を確認するがリーナはどんどん奥に向かって進んでいく。恐らく奥にいると確信してるとリーグは苦笑した。
「ほら! あそこにいるよ!」
やはりというか一番奥の桟橋に誘導されていた。桟橋に停船している帆船は見た事がない二本マストだった。
「へー、ウィンドラスも付けてるのか。船舶風壁魔道具に巻上魔道具まで付けてるって凄いな。ジブも巻取式だしジブの前にも静索があるのはなんでだ?」
リーグは立ち止まったリーナの横に並んだ。見れば見るほど不思議な帆船だった。既に二つの魔道具が確認できていた。
チラッと船尾側を見れば推進魔道具も組み込まれていた。フェルノート王国の帆船といっても魔道具が多過ぎるとリーグは思った。




