第一話
青空が広がる海原を一隻の小さな帆船が風の中を疾走していた。船首から水飛沫が上がり小さな波は切裂き大きな波は瞬間的に宙を飛んでいた。
小さな帆船には二人の人影があり船体の中央と船尾に一人ずつ乗っていた。船尾の人影は髪を靡かせ前の人影に指示を出していた。
「風が重くなるわ! 裏に回るのにタックするから用意して」
船尾でティラーラを操作しているのは少女だった。少女の指示に「あいよー」と船体中央で左舷側に乗り出してロープを握る少年だった。
少女は周囲を見ながら「タック」と声を出し舵を押し左に回頭する流れで右舷側にサッと移動した。少年も屈みながらメインシートを引いた。
少年はメインブームを潜り右舷側に入るとメインシートを少し緩めジブシートを引いてジブのクリューを左舷側に引き出した。
「ちょっと重い塊が大きいからもう少し離れる」
少女が声をかけ中央に戻していたティラーを少し引いた。
「リーナ! この先は入港航路だ! 塊を避けるなら入港航路に入るから一度入港しよう。無理して航路妨害になるより良い」
少年は航路に触れ少女に入港を提案した。リーナと呼ばれた少女は頷き「入港航路に入るわ」と短く答えティラーを細かく引いて調整した。
「あの塊は突然出てきたわ。あれに入ったらマストを持っていかれちゃうぐらいの密度だった。あれが入港こう……リーグ! 入港船がいるわ」
周囲監視で沖合いを見たリーナが警告を出した。
「あれは縦帆だね。それほど大きくないけど速度は出てる。追い風なのに……二本マスト? 大きさで一本かと思ってた! 取舵で航路を渡す!」
リーグと呼ばれた少年は勘違いに気が付き試験航行を中断した。リーナは指示を聞いてティラーを一杯に引き進路を急激に変えた。
完全にダウンウィンドになり失速しながら二人の小型帆船は入港航路と平行になったところでティラーを中央に戻した。
リーグはメインマストを左舷側に全部出した。ジブは右舷側に出しダウンウィンドを拾い速度を少しずつ取り戻しつつあった。
後方から入港する中型帆船が接近してきた。横に並ぶと「カーン!」と鐘を鳴らし甲板から手を振る人たちが見えた。
リーグとリーナも二本マストの帆船に手を振った。
「二本マストなんて初めて見た。フェルノート王国旗だけだから王国の商人だね。王国で二本マストが作られてるなんて聞いたことないよ?」
リーグは離れていく帆船を見て独り言のようにリーナに話した。
「造船に関してはリーグが専門なのよ? そこで聞かれても私が分かるわけないでしょ。というか実物見て疑問に思わないでよ!」
リーナはいつもの疑問癖が出たリーグに突っ込みを入れた。
「横に並んだ時には……たぶんメインの方のガフを落とし始めてた。恐らくここに来た南方諸島初心者商人さんだね」
リーグは早い閉帆に港に対する慣れを感じなかった。
「分からないわよ。船舶風壁魔道具の存在を私に教えたのはリーグよ? 確かにここに来る王国船で付いてる船は凄く少ないけど……」
「あー、忘れてた。……あの航跡から見る限り船舶風壁魔道具を積んでる。速度に対して航跡の乱れが多い。あれは自然の航跡ではないね」
リーナの指摘にリーグは目を丸くしたが航跡を見て納得した。
「二本マストなのは驚き何だけどさ……あの帆船のガフ帆は上帆桁も一緒に下ろしてたんだ。王国の造船ってそんな奇天烈だったっけ?」
「だーかーらー、それはリーグの専門でしょ!」
リーナはプンプンと怒りリーグの疑問癖に怒った振りをした。
「あっ……ごめんね。えっと……戻ったら美味しいスープ作るよ? 乾燥果物も出しちゃうよ? でも桟橋に見に行って買い物しないとね!」
リーグはリーナに謝り食べ物作戦を発動した。しかし桟橋に船を見に行くという点は堂々と差し込んでいた。
「ふふ、新鮮な果物が良いかな〜」
機嫌がふわっと浮いたリーナは好物の果物を所望した。
2026/08/22 クリーブをクリューに変更




