第五十八話
リリーナ号は環礁を探すため海上の監視を強化した。帆を上げていないフォアマストに登ろうとした船員がいたのでリーナがダメを出した。
はっきりしている事は海の上ではリーグの能力が突出している事だった。海巫女並みの魔法適性があり工作魔法でよく分からない鍛錬をしていた事が大きい。
数回の襲撃を撃退しているとリーナの探知に向かってくる存在が入った。
「やっと戻ってきた」
リーナはホッとした息を吐き北に視線を向けた。最初は小さな黒い点が少しずつ大きくなった。それを見ていたリーナは「あっ!……」と目を見開いた。
「上から見れば良かったのよ……」
リーナも風壁で上空に上がれた。上がれば視界が広がるのでリーグほど目が良くなくても環礁を見つけられた可能性は高かった。
「ううん、リーグのお迎えを待ってたのよ……。待っていればちゃんと迎えに来てくれるんだから。待つのも私の役目よね」
リーナは色々と封印した。北の空を眺めていると「お待たせ~」と呑気なリーグの声が届いた。リーナは「遅いよ〜」と少し口を尖らせた。
ドルナンが船尾室から飛び出してきた。空を見上げて「駆けて来た……」と絶句した。高度を下げて駆け下りてきたリーグはリリーナ号の甲板に降りた。
「いや〜飛ばされちゃったよ〜」
リーグはフワッとリーナを抱きしめた。そして「ごめんね」と小さくリーナに謝った。そしてリーグはニコニコとリーナな頭を撫で始めた。
「こらっ! ニコニコして誤魔化さないの!」
リーナはリーグを睨み「お帰り」とリーグの帰還の言葉をかけ「北?」と聞いた。リーグは頭を掻きながら頷いた。
「環礁にに向かうわよー。進路は北だから……北北西に舵を切って! 前の帆も出していいわ。もう少しだから気合入れて行くわよ〜」
リーナが船長や船員たちに指示を飛ばした。進む方角はリーグの視線で決めた。頬が少し赤くなっていたのは照れなのか口調も少し早口だった。
「北北西に進路を変えまーす」
操舵手が復唱し船員たちが慌ただしくフォアマストのガフセイルを上げる準備を進めた。メインブームは中央に引き寄せられた。
「左舷推進起動しまーす」
左舷側の推進魔道具を起動し右への回頭を補助した。北に向いたところで舵が中央に戻され右舷側の推進魔道具が起動しフォアマストのガフセイルが開いた。
全展帆になった時点で面舵が当たり推進魔道具が停止した。北北西に進路が向くとジブセイルとガフセイルから右舷に出され風に沿い綺麗に張った。
リーグはいそいそとリーナが監視する拠点を再構築した。日陰を作りローチェアとテーブルを組み立て焚き火台を置いた。ココナツに穴を開け渡した。
ココナツ水を美味しそうに堪能したリーナが「で?」と短くリーグに問いかけた。リーグは苦笑いを浮かべ頭を掻いた。
「船の中に隠れて水壁で軽く蓋をしたのね」
リーグはリーナから緊急警報が出た後の行動を苦笑いで話し始めた。
「寝転んで見てたんだけど凄かったよ。風がぶつかり合って複雑に絡み合ってた。あんな風に風が見えるとは思わなかったよ。もうグルグル?」
リーグはわやくちゃに手を動かした。リーナはクスッと笑い「それは空気中の小さな水滴ね」とリーグは風でなく水滴の動きを見たと指摘した。
「そうなの?……でね、すごーいって見るのに乾燥カニの袋を取り出して摘んでたの。で……境界を越える時にかなり揺れたでしょ?」
リーグの目が少し泳ぎリーナは「斜めに入ったもの」と軽く指摘した。
「すこーし身体が傾いて……袋が水壁から出ちゃって……飛んでったの」
「それでつい起き上がったのね。しかも水壁をこの子でなくリーグに紐付けてたのね。そしたら風に水壁が煽られて吹き上がってリーグも飛んだと」
リーナがリーグの行動を言い当てた。水壁が帆のように風に沿い揚力が生まれ吸い出された結果だった。リーナは『予想範囲内ね』と諦めていた。
その後は暴風に巻き取られグルグル回りどんどん高度が上がっていったとリーグは楽しそうに話した。最後はポンッと弾き飛ばされ綺麗だったと説明した。
かなりの速度で打ち出されたが景色は凄く良かったと笑顔でリーグは語った。落ち始めた後は足を進行方向に向けて水壁を踏み割りながら減速していた。
その時に環礁が見えたから環礁に向かったと自白した。その後にリリーナ号に戻った方が良いと気が付き駆け下りてきたと顛末を話した。
リーナは呆れたが「お帰りなさい」と改めてリーグの帰還に言葉を贈った。




