第五十七話
リーナが船尾室に戻るとドルナンと船員が集まっていた。リーナが戻るとドルナンもホッとした顔をしたがリーナだけな点に首を傾げた。
「船長さんを上から降ろしましょう。あと操舵手さんも休憩が必要です。ここから環礁まではだいたい半日なのと環礁の傍は海流が乱れてるので休ませます」
リーナが宣言すると操舵の補助を行う船員が手を挙げて操船台に向かった。ロープを補助する船員も動いたので問題ないとリーナは判断した。
船長に関しても連れてくるだけなので命綱のロープと補助を受けて向かった。
「リーグくんは……?」
ドルナンは気になってリーナにリーグの行方を確認した。
「うちの子のところにいなかったので飛ばされたと思います」
「えっ?……飛ばされた?」
リーナは軽い返事にドルナンは蒼白になった。
「何か抜けた事をしたんだと思うわ。うちの子はマストとか括り付けてたけどリーグの一人や二人は入れたはず。たぶん一度は入ったはずです」
リーナは考えられるリーグの行動をトレースした。
「境界を抜ける前の乱流で飛ばされた可能性は低いと思う。境界を抜けて風が落ち着いた時に何かやらかして飛ばされたんでしょうね」
肩を竦めたリーナは「そのうち戻りますよ」と軽くドルナンに伝えた。
「いやいやいや……助けに行かないと!」
「不要ですよ? 戻ったらリリーナ号が沈みます。リリーナ号はこのままとにかく直進! 暴風圏を抜けたら東進して環礁を目指さないと困ります」
ドルナンの救助案を瞬殺しリーナは環礁に向かうと宣言した。あまりの話にドルナンは口をパクパクして言葉が出なかった。
「今回の暴風は海上なので致死性の物体は飛んで来ません。つまり飛ばされただけです。海の上でリーグは死にませんから環礁に駆けてくるでしょう」
リーナは生存を断言した。そしてその理由として水属性のリーグは海での生存率は振り切っていると話した。食料や水や睡眠場所すら確保できると断言した。
「半日ぐらい水壁を展開しながら駆けれます。疲れれば水壁の上で寝ます。お腹が空いたら諦めてシイラでも食べて誤魔化します」
リーナはスラスラとリーグの理不尽さを並べていった。浅瀬を見つけたらハタ類でも食べて過ごすと決めつけた。
「加熱魔道具を持ち出せなかった事を後悔してると思いますよ?」
ドルナンはあまりの情報量に目眩がした。リーナは最悪でも環礁で合流と告げた。むしろリーグがいないので環礁を見つけるのが難しくなった点を嘆いた。
船長と操舵手が船尾室に入ってきた。リーナは二人にスープを飲んで何か軽くお腹に入れて睡眠を取るように指示した。
当然のように反発されたが環礁を見つけるには元気な二人でないと遭難しかねないと突き付けた。東に進むだけなら二人は不要と船尾室から追い出した。
「あと目が良い人も寝る! 半日ぐらいで環礁に近付くわ。環礁は高い場所がないから海面の違和感だけが頼りなの。いいから目の良い人は寝ろ!」
三人ほど船員がとぼとぼと船尾室を出た。
「調理が得意な人って残ってる?……スープとコネ焼きパンを作って。手が空いたら適当に摘めるようにしておいて。鐘半分ぐらいで暴風圏を出るからね」
寝かせた人員分だけ人手が減っているので帆走に入る時は忙しくなると伝えた。とにかく東に向かえば良いので操船は出来る人が持ち回りとなった。
「あっ! ドルナンさん。帆走になっても前のガフ帆は出しちゃダメですよ。リーグがいないから中規模が来たら穴だらけになります」
リーナは帆走時の注意を伝えた。またジブ帆を出すなら警告時点で巻き取るように要求した。下手に損害を出さないよう警告した。
リーナは暴風圏を出るまでは暇になったので編み物を再開した。
リリーナ号は暴風圏を出たので帆走を再開した。フォアマストのガフセイルは畳んであるので人員に余裕があった。ジブセイルも出して速度を稼いだ。
トンガリの襲撃は小規模が数回と中規模が一回あった。小規模はリーナが風刃で蹴散らし中規模は損害が出ないように立ち回った。
リーナは念のためフォアブームを風壁で保護し風刃を物陰から発動させた。風壁を展開している分だけ風刃は減るが危ない場所だけの防衛に徹した。
日も高くなったので船長たちを起こし指揮を頼んだ。船上監視も強化して環礁の発見を優先する体制となった。リーナは引き続き監視を行なっていた。
大海原で周囲に何も見えない中をリリーナ号は東に進んでいた。




