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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第五十六話

「ドルナンさんは操舵手に声が届く? 推進魔道具は絶対止めず舵も中央固定と伝えて! このまま境界を越えないと波で潰されるわ」


 船尾室に転がり込んできたドルナンにリーナが大きな声で叫んだ。


 ドルナンは頷き操船台の裏側と繋がっている小窓を開けて操舵手に指示を出した。風が邪魔をするが操舵手は小さく頷きを返し舵中央を維持した。


「この暴風は非常識だわ。規模が大きく強すぎる。境界を越えれば普通の暴風になるから進んで! 境界まではあと少しだったからもうひと踏ん張りよ!」


 リーナもドルナンに近寄り小窓に向けて叱咤激励をした。少しでも進路が曲がれば境界に弾かれかねなかった。詠み誤った事の後悔をリーナは押し潰した。


 リリーナ号はギシギシなりながらも進んでいた。推進魔道具は荒れる波の中から海水を取り込み後方に噴出した。ピッチもロールも滅茶苦茶だった。


「オランド号の真似をして良かった」


 ドルナンが室内の手摺に掴まりながら言葉を漏らした。リーナの耳に届いたが問い返す余裕はなかった。リーナも手摺に掴まり身体を保持していた。


「あっ! 境界を越えたわ」


 リーナに境界を越えた感触が届いた。


 荒れ狂う風に感知するものがなかった感触がリーナに戻ってきた。周囲の状況は暴風のただ中だった。だが境界を吹き飛ばした狂乱はこちらにはなかった。


「通常の暴風圏内に戻ったわ! 舵も推進魔道具もそのままで維持して」


 リーナは船尾室の扉の前に移動した。扉の外側に風壁を展開し扉を引いて開けた。風壁の先は強風が吹いていたが常識の範囲内だった。


「マストのとこにいる船員をこっちに呼ぶから船長を引っ張ってくる方法を考えて。あと船員がいそうな場所も考えといて」


 リーナはドルナンに指示を出すとメインマストまで左右に風壁を展開し通路状にした。リーナには展開した風壁は分かるが見た目には正直分からなかった。


「もう! リーグの水壁なら見えるのに!」


 リーナはブツブツと文句を言いながらロープを身体に結んだ。反対の端を船尾室の入口横にあったクリートに掛けて固定した。


「こういうのはリーグのお仕事なのにどこに……小型帆船のとこにいたはずね。ドルナンさん! 船首室は船倉に繋がってましたよね?」


 リーナはロープを纏め始めた。手を動かしていたリリーナ号の構造を思い出した。念のためドルナンに船倉経由で船首室に向かえるか聞いた。


「繋がっている! そっちを見てくるからマストの方は……頼んで良いのか?」


 ドルナンは役割が逆のような気がした。少女が甲板に出て大人が船倉は違うのではと考えてしまった。リーナは「お願いね」と軽く答え外に出た。


 リーナは風壁で作った通路の中を屈んでマストに向かった。通路の上に屋根は付けていないので立ち上がると危なかった。


「リーナちゃん! 危ないよ!」


 リーナが屈んで近付く姿を見た船員が慌てて声を掛けた。動こうとした船員が足を滑らし転がった。リーナはため息を吐いて風壁で転がっていくのを止めた。


「手間増やしちゃダメ!」


 リーナはメインマストに着くと防御用の球形の風壁を展開した。ロープを船員に渡しクリートに掛けてもらった。風壁の通路をロープに沿って展開し直した。


「はいはーい、このロープに沿って移動してねー。風壁から出たら飛ばされるから頭を低くロープを掴んで船尾室に入ってね」


 リーナの指示に大人しく従い船員たちは船尾室に駆け込んでいった。船尾室側のロープを外してもらい扉を閉じるように指示した。


 リーナはロープを身体に結び直し次のフォアマストに向かった。通路を作り屈んで移動しフォアマストまで来ると船員たちがフォアシートにしがみついていた。


 リーナは船員に動かないように手で制止した。また転がられると面倒だった。リーナは通路を作り屈んでフォアマストまで移動し球形の風壁を展開した。


「ここからだと船首室に入るのが良いと思う。風壁で船首室の扉まで通路を作るから屈んで移動して。ドルナンさんも船首室を確認に来てるはずよ」


 リーナは通路を作り船員たちを送り込んだ。全員が船首室に入ったところで扉を閉じるように指示した。後は船首室の上に置いた小型帆船だけだった。


「ここまでリーグがいないのはおかしいわ。風が変わったのは気が付くはずだし……もしかして飛ばされたのかしら」


 リーナはフォアマストの横を抜け船首甲板に上がるルートに通路を展開した。屈んで進み階段の手前で球形の風壁を展開し階段を登った。


「んーリーグいないなぁ……やっぱり飛ばされたのかな。境界の向こうで飛ばされてるとこっちに来るのは……問題ないか。環礁の場所は知ってるし」


 リーナはため息を吐いた。


 何かの拍子でリーグはリリーナ号から落ちたとリーナは判断した。リリーナ号はこのまま環礁に向かう事にしたが環礁が見つかるかはちょっと怪しかった。


 この暴風自体はどんどん境界の向こうに移動している。境界を壊して突破する暴風があるとは思わなかった事で遅れを取った。


 リーナは通路を作りながら船尾室に向かって屈んで移動していった。


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