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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第五十五話

 翌日の朝食は厚切りにした黄色いツナの切身に加熱魔道具で熱を入れ塩を振りパンに挟まれていた。加熱は各自で好きにする食べ放題だった。


「今日は風の境界を抜けるんだけど……あまり状況は良くないの。境界の向こうは感覚が鈍くなるけど騒がしさは伝わってくるわ」


 モグモグとパンからはみ出た切身を食べていたリーナが話し始めた。内容的にはかなり問題を含んでいたが食べる手は止まらずモグモグしていた。


「風が荒れてるって事か……つまりは暴風関連になるんだけど難しいなぁ」


 リーグはモグモグしながら眉を寄せた。騒がしい事は確定していて原因といえば暴風しかなかった。時期的に卵だったとしても直撃すれば単なる暴風だった。


「風の境界の向こうに暴風がいるのかね?」


「暴風にしろ卵にしろ直撃すればかなり痛いです。周辺の場合は風と雨……豪雨です。かする程度なら風向きがおかしいぐらいですね」


 ドルナンの質問にリーグが答えた。境界まで進めばリーナも直撃するかは判断できた。問題は境界前後での出会い頭だった。


 リーグは考えた末に一つの妥協案を出した。


「風の境界付近まで進み直撃するかをリーナが確認します。直撃なら南に転進してそれ以外は帆を畳んで推進魔道具で境界を跨ぐ形でどうかな?」


 リーグの案は無難な妥協案だった。リーナは無難なので了承した。ドルナンと船長は判断できる情報が不足していたのでリーグにいくつか質問した。


「帆を畳むのは突風対策で推進魔道具は確実に前へ進むためなんだね。直撃時に南進というところだけ向かい風になるけど?」


 ドルナンは質問したい中で優先度の低い疑問だけ残ったので質問を加えた。


「ジブ帆はほぼ巻き取りでガフ帆も中央で固定して推進魔道具で進みます。転進したら二段目まで縮帆します。風上に向くので縮帆が可能です」


 リーグの回答に『縮帆のためか』とドルナンは納得した。直撃を回避しても境界を相手が跨げば目の前に出てくる。その時の風対策と理解した。


「船長に異論がなければリーナちゃんも了承しているしリーグくんの案でいこうと思う。……よし! 船長も了承なら航海を再開させよう」


 ドルナンは全員が了承したので行動開始を宣言した。


 船員が甲板を動きフォアマストとメインマストのブームを中央で固定しガフセイルを展帆した。今回は速度は重視しないので風を受ける帆走を予定していた。


 ジブセイルも全て中央に出し固定した。ジブハリヤードとピークハリヤードを少し緩めた。これによりシバリングが強く出始めた。


 錨が完全に上がり船長の「出航!」という掛け声で左舷側の推進魔道具が起動した。左舷後方に白い航跡を作りリリーナ号はゆらっと揺れ動き始めた。


 リリーナ号が南東を向いたところでジブセイルとガフセイルが右舷に押し出された。左舷前方の風に沿わしリリーナ号を前に引き始めた。


 推進魔道具は停止し更に東に向けるため右に回頭した。帆に沿っていた風はいつの間にか帆に受け止められ帆を押し帆が元気に張りを持った。


「リーナは船尾室の前で監視をお願い。監視拠点はいったん仕舞う」


 リーグはリーナの監視位置の変更を伝え忘れたので声をかけ船首区画に駆け出した。日除けやテーブルを畳んで船体中央の収納空間に仕舞った。


 釣り道具も出したままだったので船尾甲板から引き上げてバウの収納空間に仕舞った。小型帆船の係留を確認しマストとメインブームの固定も確認した。


 船員も各所の固定を確認して回り全ての静索も張りを再確認した。ハリヤードやジャックラインなどのロープ類も纏め暴れないようにロープフックに掛けた。


 リーナは船尾室の前に椅子を持ち出し静かに編み物をしていた。


「風の境界までもう少しよ。相手は暴風みたいね。この時期にしては強いから南に落として帆を畳んで。その後は南東の角度で境界を跨いで!」


 編み物を道具入れに仕舞いながらリーナが全体に指示を出した。


 船長が復唱を兼ねて操舵手と船員に矢継ぎ早の指示を出した。リリーナ号はギギギと鳴きながら急激に左へ回頭した。二本のブームは中央に引き込まれた。


 ガフ帆を落とすためにピークとスロートのハリヤードがクリートから外された。ジャックラインも緩められ緊急用のスロートのダウンホールも使われた。


 強制的に帆を畳んだガフセイルに対してジブセイルはファーラーに巻かれるが少し残した。これは全ての帆を閉じた帆船が一番不安定になるためだった。


「左舷推進を起動!」


 操舵手が声を上げた。左舷後方から水流を噴出する音が響き再び東に向くため右に回頭を始めた。操舵手が面舵で更に回頭を早める。


 推進魔道具と面舵でギギギと軋みながらリリーナ号は南東方向に船首を向けた。操舵手が「右舷推進起動!」と声を上げ両舷の推進魔道具が動き出した。


「突風注意! 境界を暴風が越え始めるわ! 固定した物に掴まって!」


 リーナが大声を上げそのまま船尾室に飛び込んだ。


 船首区画にいたリーグは小型帆船のコクピットに飛び込んだ。ブームを操作し終わっていた船員はガチガチに固定していたブームのシートに飛びついた。


 船長と操舵手は身体を保持するロープを確認しドルナンも船尾室に転がり込んで扉を閉めた。ジブを操作していた船員も慌てて船首室に逃げ込んだ。


 周囲を風が舞い狂った。境界から風が吹き抜け南風は掻き乱された。リリーナ号は荒れ狂う風を受けながら立ち上がった波に翻弄された。


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