第五十四話
ドルナンとリーグが真面目な話をしていた横で船員がシイラを引き上げていた。二人が釣っているのを忘れていると悟った船員が巻き上げ機を操作していた。
二人の話が終わったと感じた船員が二人に釣り竿の状況を伝えた。
「あっ! 釣りしてたの忘れてた!」
リーグはグングン引かれる竿先を見てハッとして釣り竿を固定具から抜いて巻き上げ始めた。引きは強いが切れるほどではないとカリカリとリールを巻いた。
「よっしゃ! ツナだ! 黄色いやつは美味しいやつ!」
リーグはリーナが大好きな尻尾が黄色いツナを釣り上げ小躍りした。尻尾を掴み釣り針を外すと船首区画に向かって駆け出した。
「リーナ! 黄色いツナが釣れたよ!」「やったー」
編み物をしていたリーナが飛び跳ねてリーグに抱き着いた。二人でクルクル回りリーグがドリルビットで締めてエラを取って血を操作して海に捨てた。
「これ美味しいサイズだよねー」
リーナはウキウキしながらクルクルと回った。狙って釣れない相手であり年に数匹しか掛からない魚だった。そしてリーグが水壁を駆使して解体し始めた。
ドルナンたちは二人のはしゃぎように引いていた。見た事のない魚なので二人がなぜ騒いでるのかを理解できた者はいなかった。
「頭は環礁まで持っていくべきよ。半身……の半身ぐらいも持っていって焼かないと! 骨と身を少し入れたスープは船上でも作れるから夕食は決まりね!」
リーナとリーグの頭の中では夕食の献立が出来上がっていた。といっても船上で火は使わないため加熱魔道具で作れる範囲であった。
「あっ! トンガリ! 左舷前方!」
リーナははしゃいでいたが探知は続けていたようでトンガリの襲撃を警告した。リーグは船員の一人を捕まえてツナを冷却室に仕舞うように頼み配置についた。
「もっと喜ぶ時間を返せー」
小規模だったトンガリはリーナの怒りの風刃で全て黒い霞になり霧散した。
『うんうん、リーナを怒らせたらこうなるよね。普段は面倒だからって俺の方で水壁で対処してるけど。中規模以上は流石に手伝ってくれるけどね』
水壁の展開準備だけしてリーナを横目で見ていたリーグはうんうんと頷いた。
「リーグはお魚さんを釣ってね」
リーナはニッコリ微笑んでリーグに任務を割り当てた。リーグは「いいよー」と答えた。念のため「中規模は一緒にやろうね」と伝えておいた。
リーグはいそいそと釣りに戻った。邪魔なシイラは船員に任せ釣り竿でツナ狙いで仕掛けを落とした。たまに海流を確認し船長に伝えた。
四個目の海流を跨いだので浅瀬も探し始めた。少し南側に浅瀬があったのでリリーナ号は南下しアンカーリングして今日の航海を終わりにした。
「ツナは黄色いのは一匹だったね。血の気の多いツナは五匹だった。一応シイラが十二匹上がったから血抜きして冷却室に投げ込んである」
夕食はリーナの好きな黄色いツナの切身が山盛りだった。湯通しする鍋も用意され塩と粉末果物も食卓に並んでいた。
「血の気が多いツナは焼くしかないわ。これも環礁で冒険者たちに振る舞いましょう。シイラは欲しい人が食べればそのうちなくなると思う」
リーナは釣れた魚の割り当てをサクサクと決めていった。黄色いツナは半身の半身ぐらいしか出していないが残りは総取り前提で話を進めていた。
ドルナンは黄色いツナを一口食べて「美味い」と零し骨のスープを一口飲んで「これも美味い」と感心していた。見た事のない魚に興味を持っていた。
「とにかくシイラは多いです。普通に流せばシイラばかり掛かります。シイラの先にはツナたちがいます。コツはシイラに囮を仕掛けて仕掛けを落とす事です」
リーグはドルナンと船長に釣り方を話した。リリーナ号であれば両舷にある釣り用の巻き上げ機は囮用として中央付近で本命の仕掛けを落とすと説明した。
「囮の仕掛けはシイラの気を惹くために使います。なので掛かっても少し遊ばせてください。あと、こんな感じで錨を落としてる時はハタ類も狙い目です」
リーグは根魚の狙い目も教えた。ついでに暗礁なら潜って獲るのもお勧めした。リーグたちの小型帆船は食料を沢山は積めないので生活の知恵だった。
ただリーグが気が付いていないのはリリーナ号のような大型外洋船はアンカーリングをする事がほとんどない点だった。
二本マストで大型外洋船でも小さい部類のリリーナ号は十分に可能ではあった。しかし三本マストになると錨を落とすだけで大仕事になる。
小型帆船ばかり建造しているリーグから抜けている常識だった。




