第五十二話
リリーナ号は早朝に停泊地から移動を再開した直後に中規模なトンガリの集団に襲撃された。リーグとリーナは今日は面倒かなと思っていた。
その後も何度か襲撃を受けたが小規模な集団ばかりで昼頃になった。既に目印にしている海流を二個跨いでいた。三個はまだ先なので昼食となった。
今度はリーナがディア肉のステーキが良いと言った事でステーキになった。このディア肉は解体肉で一部を食べて冷却室に保管してあった物だった。
ドルナンはリーナに小ボアの顛末を話し次回は丸ごとで持って来ると約束していた。リーナはまさか本気にするとは思ってなく珍しく恐縮していた。
「夕食はお魚が食べたい!」
昼食が終わった直後にリーナがリーグに強請った。普段の航海では七割ぐらいが魚である。肉が続いたことで魚が食べたくなったようだった。
「シイラ?」
リーグが食べたい魚を念のため確認した。リーナはチチチと指先をフリフリして「ツナ」と少し難しいオーダーをしてきた。
「ツナかー、流すとほとんどシイラだからツナは流してる隙に仕掛けを落とさないとだな。船長さん釣りに巻き上げ機を借りても良いですか?」
リーグが船長に索具の使用許可を求めると了承が戻ってきた。
リーグはバウの収納空間から流し用の仕掛けを二つと釣り竿の収納箱を取り出した。リーナは監視があるので船首区画で編み物を始めた。
「ほぉーその羽根棒は珍しい。王国だとほとんど見なくなったな」
仕掛けを沈める釣具を見たドルナンが羽根棒を手に取りクルクル回して眺めた。リーグは首を傾げて「今は違うの?」とドルナンに尋ねた。
「ちょっと待ってて」
ドルナンが船尾甲板から降りていった。リーグは羽根棒を釣り糸に通し固定した。仕掛けを釣り針まで仕上げているとドルナンが戻ってきた。
「王国だとこれが良く使われてるよ」
ドルナンが見せたのは曲がった板だった。リーグは手に持ち検分した。材質は硬いレジンで撥水加工された物だった。リフールで作るのは難しかった。
「撥水加工されてるんですね。南方諸島はまだガラスの生産量が多くないから作るのは難しいかな。この形で羽根棒と似た特性だと流行りそうな気がする」
リーグはもう一つの仕掛けに新しい『潜水板』とドルナンが教えてくれた板を付けて見た。釣り針まで仕上げると干し肉を釣り針に引っ掛けた。
続いて釣り竿を組み立て始める。三分割されているポールを繋ぎ簡易フックで固定した。リールを付け釣り糸をリングに通していく。
少し小さい羽根棒を付けて仕掛けを仕上げ釣り針に干し肉を引っ掛けた。
「リーグくん、その釣り竿はどうしたんだい?」
ドルナンが眉を寄せリーグが持っている釣り竿を見ていた。
「前に海難救助した人から貰ったんだ。とっても使いやすくて手入れをきちんとすると長持ちするみたい。くれた人も二十年以上使ってる釣り竿って言ってた」
リーグは「そんなに持つもの?」と笑顔でドルナンに答えた。
リーグは二つの仕掛けを船尾甲板に備え付けられている釣り用の巻き上げ機に巻き付けた。そして仕掛けをポイポイと船尾から海に投げ込んだ。
仕掛けはどんどん流され釣り糸がピンッと張った。
リーグはそれを確認して釣り竿の仕掛けを海に投げ込んだ。リールから釣り糸を出しときどきテンションを掛けて深めに沈めていった。
船尾の手摺に掛けた釣り糸の固定具に差し込み釣り竿にロープを通した。ロープは釣り竿が落ちないようにするため近くのクリートに掛けた。
「上手くツナが掛かるといいなー」
リーグが船尾から流している釣り糸を眺めながら希望を創生の女神様に伝えた。釣れたツナはお供えできないがリーナが食べて感謝は届けられると考えた。
「その釣り竿なんだが……刻印を見ても良いかな?」
眉を寄せたまま考え込んでいたドルナンがリーグに話し掛けた。リーグはキョトンとしたが「いいよー」と場所を譲った。
「……やっぱり。……この釣り竿はある意味で王国の釣り師や商人なら知らない者はいないと言って良いモデルだよ。貴族のほとんども存在は知ってる」
ドルナンは信じられない物を見た顔でリーグに視線を向けた。
「王国で有名なモデルなの? リールは最新型って言ってたけど二年前ぐらいだし釣り竿は二十年以上は使ってたと言ってたよ? 古くて有名?」
リーグは有名と言われても貰い物なのでピンとこなかった。




