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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第五十一話

 翌日もリリーナ号は早朝から出航準備を進めていた。錨がガリガリとウィンドラスで巻き上がるのをリーグは眺めていた。


『やっぱ錨の巻上魔道具は便利すぎる! ロープを引かなくてもガンガン上がってくるよ。欲しいけど……結構高いんだよねー』


 小型帆船の錨は小さいのでリーグでも引き上げられる。そのため巻上魔道具はリーナの中では嗜好品扱いのためリーグは欲しくても手に入れていなかった。


 錨が巻き上がると「グウオォォー」と左舷後方から音と振動が発生した。今回の航海で初めて推進魔道具が起動された。


 リリーナ号が搭載している推進魔道具は大型外洋船が標準的に付けている補助推進魔道具とは違っていた。小型化された小型推進魔道具の発展型だった。


 リーグはこの間の大型外洋船が起動した補助推進魔道具に比べてかなり推進力は弱いと思った。逆に弱い事で片舷だけ起動しても問題ない魔道具だった。


「片方だけ起動すると曲がれるんだね」


 リーナも横で同じ事を考えていた。左舷だけ起動する事で右に回頭する力が掛かり面舵を当てることで前進しながら右に船首を回し始めた。


「補助推進魔道具はあの大きな船を加速させて進んでたよね。この推進魔道具は推進力こそ弱いけど扱いはかなり自由度が高そう」


 リーグはリリーナ号の動きに見てリーナに答えた。


「回頭するだけなら空噴魔道具って選択肢もあるけどリリーナ号は装備してないみたい。よほど狭い場所で旋回したいなら空噴魔道具を付けた方が良いけどね」


 思ったよりも回頭が早めに始まった事でリーグは推進魔道具の汎用性に感心した。リフールで使わなかったのは誘導船が近くにいたからと考えた。


 風上に船首が向いていたのでガフセイルは既に上げてあった。中央に固定されていた二本のブームが右舷側に押し出された。


 船首が南東に向いたところで推進魔道具は停止されラダーは中央に戻された。左舷前方からの風を受けリリーナ号は帆走に入り加速した。


 速度が乗ったところで進路を東に向け朝日に向かって航海を再開した、


「今日中に風の境界を越えるかだけど……どう思う?」


 リーナの待機場所でリーグはリーナに話しかけた。リーナの編み物の手を止めて少し思案顔をした。そして「抜けない方が良さそう」とだけ答えた。


「抜けた直後に退避行動する事になっても船足も時間も足りなくなるか……。そう考えると境界の手前で浅瀬を探すか。うちの船だと必要がないから早めだな」


 リーグはリーナの言いたい事を理解しアンカーリングする場所の選定を前倒しにする事にした。ただリリーナ号がどれぐらいで境界に着くかは分からなかった。


「普段は気にしてないけど海流の本数を数えるか。ここから境界まで目立つ海流は四個だから何とかなるかな。それにしても海流を跨ぐの上手いよね」


 孤独岩からここまでに目立つ海流は三個跨いできた。事前に海流の向きと大凡の強さは伝えた。その情報で船長は指示を出し綺麗に跨いでいた。


「最初の一個めでリーグの感覚と海流の強さを学んだって感じよね。その後は流れの強さに応じて進入する向きを調整してるもの」


 リーナは風上の変化で船の向きを把握していた。跨ぐ直前で風上が動き跨いでる間は安定し抜けると風上の位置が戻っていた。


 この大きな船でそこまで細かく調整している事に感心していた。


「あっ! 右舷前方からトンガリが来るわ……たぶん中規模ね」


 リーナの警告に緩みかけていた甲板に緊張が走った。フォアシートとメインシートが引かれブームが引き寄せられた。リーグとリーナは右舷側に移動した。


「中規模だと防ぎきれない可能性がある。リーナは風刃で潰せるだけ潰して。漏れたのはこっちで弾く。ドルナンさんたちは飛び込んで来るかもだから退避して」


 リーグはリーナに攻撃を頼んだ。リーナは「はーい」と応え探知範囲を絞り精度を高めた。リーグはいつも通りに海面が荒れている場所を注視した。


 海面からトンガリが飛び出し突き進んできた。その集団は今までよりかなり多かった。黒い霞になるトンガリが生まれ数を減らされていった。


「ガギャン!」


 再び擦れる嫌な音が響いた。弾かれたトンガリは真下に落ちていった。リーグはリーナの風刃を抜けてくるトンガリに水壁を展開していった。


 耳障りな音の中を抜けてきたトンガリが看板に落ちる。帆に当たらないと判断したトンガリをリーグが無視し始めた。帆に当たるトンガリを弾いていた。


「まだ続くのか?」


 リーグに指示されメインマストのガフセイルを守る風壁の裏に退避したドルナンは驚いていた。小規模はまさに小規模な事を目の前で見せられていた。


 リーグは展開できる水壁が五十個なので無駄が出ないよう展開と解除を繰り返していた。リーナは過負荷にならないよう間引く場所を選んでいた。


「今の分で終わりよ」


 リーナがそれ以上のトンガリがいなくなった事をリーグに伝えた。リーグは飛来するトンガリの前に水壁を展開して全て弾いた。


「もう大丈夫なので帆を戻してくださーい。速度を上げて一息つきましょう」


 リーグとリーナは甲板に落ちてるトンガリをポイポイと海に捨てた。討伐してもしなくても差はないので二人は楽な海に捨てる選択肢を選んだ。


 ドルナンはフォアマスト側の風壁魔道具の方が絶対に必要だと認識した。襲撃は全て船首寄りでメインマスト側の風壁魔道具はほとんど役に立っていなかった。


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