第四十九話
南からの風も落ち着き縮帆を戻し全帆にしたリリーナ号は安定した航海に戻っていた。昼食も終わりリーグの感覚的に孤独岩が見えてくる頃合いになった。
リーグは水壁で海面まで降りて水中探査を展開した。この辺りの海底はそれほど深くないが左舷前方の方はうねり始めていた。
「今の進路っていい感じかもしれない」
リーグは船尾甲板に戻り進路はこのままで問題ない事を船長に伝えた。そのついでで操舵手に方位磁石の数値を確認した。
「現在は東南東で東から南に十五度となっています」
操舵手の回答にリーグは礼を伝え船尾室に向かった。船尾室では相変わらずリーナは編み物をしていた。手元を見ると薄手のレースを編んでいた。
「いい感じで孤独岩に接近してます。ほぼこのまま突き抜けて位置を見ながら東に進路を変えます。そろそろトンガリが出る海域なのでちょっと良いですか?」
リーグはドルナンに軽く報告しトンガリ対策の話をしようとした。
「トンガリというと襲ってくる魔物ですか?」
ドルナンはトンガリをきちんとは学んでなかった。リーグは少し呆れたが初めての南方諸島でリフールまでの予定であれば致し方ないと切り替えた。
リーグは船体に装備している防御用の風壁魔道具を確認した。ドルナンは案内し風壁魔道具の範囲をリーグに伝えた。
「メインマストのガフ帆だけですか……。フォアマストのガフ帆に対する設置は勧められなかった? 基本的にジブ帆は諦める場合が多いけどガフ帆は守るよ?」
リーグは中途半端な対策に首を傾げた。ドルナンは少し慌て必要性が今ひとつ分からずメインマストのみ設置してもらったと説明した。
リーグはトンガリの基本的な攻撃方法を話し帆が破られると航行に支障が出ると説明した。リーグは試しにと右舷側の風壁魔道具を起動してもらった。
「んー、守ってる部分に問題はないかな。たまーに高さが微妙に足りない船もあるからね。左舷側も起動して……こっちも大丈夫だね」
リーグは甲板に戻るとリーナに顔を向けた。
「風壁は展開してリーグが水壁で止める。中規模になったら風壁を信じてフォアマスト側を守る。ジブ帆はファーラーに巻いておくか急いで巻く」
リーナがリーグに方針を伝えた。リーグとしても無難としか言いようがなかった。ファーラーに巻いておけばジブ帆が狙われる事がないという実績はあった。
「ちなみに魔石の予備はどれぐらい積んでますか?」
ドルナンの回答は微妙な線だった。航海を四日と考え夜間を除く時間を展開するとかなりギリギリだった。リーグはリーナの快適空間を設置する事にした。
「日中はリーナに甲板にいてもらいます。なので日除けやレジンマットを設置するね。風壁は弾く強度みたいだしリリーナ号なら十分だから水壁も弾くね」
リーグの提案にリーナは「はーい」と答え船尾室に編み物の道具入れを取りに戻った。リーグは合図で風壁魔道具を起動できる体制をドルナンに頼んだ。
リーグは小型帆船の置いてある船首区画に移動した。小型帆船はフォアマストとメインマストの間に置いてある。フォアブームはリーグの頭より上だった。
リーグは船体中央の収納空間から二枚の日除けを取り出した。
普段はコクピットに張って日陰を作る薄めの帆布である。レジン棒も六本取り出して帆布に着けていく。小型帆船の側舷にフックで固定した。
ここからリーグの雑なやっつけが始まった。収納空間から二枚のレジンシートを取り出し並べて置いた。日除け二枚を繋げていい感じで自立するように立てた。
「突風でも吹かない限り自立したままのはず! レジン棒が日除けの骨になるから完璧! あとは……重しを置いて自立補助!」
自信ありげに自立を謳ったが結局は重しに頼る事にした。倒れるとリーナにチクチクと言われるのでそこを回避するために必死だった。
レジンシートも二枚をレジンマットの上に置いて完成である。
「リーグ? それはお昼寝用の空間ですよ?」
リーナが船首区画に来るとリーグはお昼寝ができる場所を作っていた。呆れたリーナがその事を指摘した。リーグはリーナの指摘に目を丸くした。
ドルナンは二人のやり取りにクスッと笑った。
リーグは船長にメインマストのクリートを使って良いか確認した。船長はスロートハリヤードのクリートの使用許可を出した。
リーグは日除けの三箇所にロープを通してクリートまで飛ばし日除けを固定した。側面のロープを固定するのは重しを使った。
高さを増した日除けの下にローチェアとテーブルを設置した。積んであった冷却保管箱からココナツ水を取り出し乾燥させた環礁ベリーも並べた。
リーグが恭しくリーナを日除けの下に誘って椅子を勧めた。リーナはテーブルの上を確認し「ありがとうね」と笑顔でリーグを労った。
『この一連の流れは面白すぎる。明らかに全てが予定調和のように笑うしかない流れなんだけど……。どこまでがボケなのか分からん』
ドルナンは耐えきれず船尾室に向かった。船尾室からはドルナンの笑い声が響いた。笑い声は風に流され船首区画までは届かなかった。




