第四十三話
リーグは小型帆船をリリーナ号に乗せる事になったのでガフ帆は畳んで船体中央の収納空間に仕舞った。ジブ用の簡易ファーラーを取り出し付け始めた。
「それは水壁だよね。そんな使い方をするのを実際に見るのは初めてだよ。王国でも英雄様や愛し子様たちが使うとは聞いた事があるけど……」
ドルナンはヒョイヒョイと空中に浮いたまま帆船の艤装作業をするリーグを見て呆れた。王国でも風壁や水壁はとても有名な魔法である。
リーグが付けている簡易ファーラーはリーグとゼク爺さんの自信作だった。魔鉄で作った筒をフォアステイに後付できるように工夫してあった。
製作工程は相変わらずゼク爺さんが付加機能を仕込もうとしてリーグが躱すというリーナ的には笑いしかない現場で作られた物である。
筒は切れ目があるにも関わらず型崩れしない構造になっていた。内部では何箇所かでフォアステイに沿うようにガイドが付いていた。
リーグは最後にトップ部分に固定用の蓋を止めた。
ジブセイルを運んで来たリーグはヘッドにハリヤードを繋ぎファーラーの切れ目にガイドフックをハリヤードを引きながらはめ込んでいった。
「ほぉー、その仕組みは王国でも見たことないな。そもそも船首静索が固定された状態でジブ巻き装置を付けるという発想がないぞ」
ドルナンは斬新なファーラーを見て目を丸くした。この構造を見せたらリリーナ号を建造したレンデールの造船技師なら飛び上がって徹夜すると確信した。
「えー、筒の中に静索のロープを通す方が面倒だと思うんだけど……。付属船の組み立てを手伝った事あるけどジブ巻き装置で俺は断念したよ?」
ファーラーの筒は中が空ではなかった。そこにロープを通すのはリーグ的にはダメだった。ガイド用の金属製の棒を使えば楽だが荷物になると却下した。
それでゼク爺さんと作ったのだが過程は酷いものだった。それでも完成した物にゼク爺さんも悪戯は仕込まないのでそれ以降は安心して追加注文できていた。
リーグはジブハリヤードを引き切りクリートに掛けるとマストまで上がりジブセイルのトップに問題ないか確認した。
降りてきたリーグはジブハリヤードをマスト側のクリートに掛け直して固定した。ジブセイルのタックを整えてフックで固定した。
ジブシートをジブシート用の滑車に通し船尾側に引き込んで船尾側の滑車に噛ませた。この滑車は一人で操船する時に使用する滑車である。
簡易ファーラーのロープも左舷側を通して船尾側に回した。ジブシートを足元に落とし足で踏んでファーラーのロープをグイグイ引いてジブを巻き取っていく。
最後にコクピットに置いてあったラダーを持ち上げ「おりゃ」と船尾に差し込んだ。手をパンパンと打ち合わせティラーを繋げた。
「よし! 装備品は降ろさないで隠したからこれで準備は完了かな。持ち込む物はリーナにお願いしていいよね? 纏めてくれれば後でリリーナ号に運ぶよ」
リーグは小型帆船の船尾側に回り込みながらリーナに声をかけた。
「もう纏めてあるよ? その子に積んで桟橋に向かう?」
リーナは木陰で編み物をしながらリーグに返事をした。リーグは少しだけ考えて「別に運ぶね」とリーナに答えて小型帆船の船尾を少し持ち上げ引きずった。
ズルズルと小型帆船は引きずられ海上まで運ばれた。そしてリーグは船首を横から押してリーフの出口に小型帆船の船首を向けた。
「リーグくん、桟橋まで行くなら乗せてもらって良いかな?」
ドルナンは小型帆船に興味があったので乗れそうな機会を伺っていた。ここから桟橋まではそれほど遠くはないが湾内を帆走するなら乗ってみたかった。
「んー、良いけどジブ帆だけで向い風だから面白くはないよ?」
今回はジブだけで湾奥の桟橋に向かうため単なる回航である。時間的に出港のピークは過ぎているのでそれこそ邪魔もなくのんびりした移動である。
それでもと頼まれたので許可し「乗せたら戻ってくる」とリーナに伝えた。リーナにリサ青果店で果物を買ってきてと頼まれたので頷いた。
ドルナンが船体の中央に乗ったのを確認し右舷側に座るように指示した。
リーグはジブシートをクリートから外し右舷側のジブシートを引いた。クリューを右舷側にどんどん引き出し巻き取られていたジブセイルを引き出した。
出し切るまではシバリングしていたジブセイルも左舷後方からの風をリーグが調整して帆で受けさせるとジブセイルは広がり風をはらみ小型帆船を押しだした。
「行ってくるねー」
リーグはお出掛けの言葉をリーナに投げて手を振った。リーナも立ち上がり手を振り返し「よき風にー」と声を投げかけてきた。
リーグは船尾と船底に抵抗のない水壁を展開した。小型帆船を引き留めようとする抵抗を失い急速な加速で小型帆船は帆走を始めた。




