第四十二話
リーフの砂浜でリーグは小型帆船の艤装を進めていた。外したマストを立て静索で固定し直しメインブームを取り付けた。
リーグが一人で艤装作業ができるのは水壁を固定に使うからである。マストやメインブームを固定するのに使用し固定具で組み上げていた。
ハリヤードやジャックラインなども水壁で空中に上がりマストの先端付近にある滑車に通していった。ガフも取り付け二本のハリヤードを繋いだ。
「ここは隠れた造船所なんだね。ここに来るまでにリーグくんの造船史を見た感じだよ。そしてその帆船が最新型かい……凄い完成度って感じるよ」
家から続く小道を通りドルナンさんがリーグを訪ねてきた。昨日の対策会議でドルナンさんに船を出してもらうことが決まりその打ち合わせだった。
ドルナンは小道の横に置かれた小型の帆船に驚いていた。数も多く全てがどこか違っていた。つまり繰り返し船体構造を変えて建造している事を示していた。
『見たことのない構造も多かった。失敗も含まれてるとはいえ知見の固まりでもある。初日に会ったあの帆船もまた新しい挑戦の象徴なんだろう』
リーグが艤装作業をしている小型帆船もまたドルナンの知識には存在しない構造だった。船尾は舵を外しているためペタンと砂浜に底がついていた。
この時点で既にドルナンの常識の引き出しに答えがなかった。ドルナンの常識では竜骨があるべき場所にないという事実だけが浮かんできた。
それ以上に異様なのが船首だった。中央に竜骨があった点は常識が頷いた。それ以外は常識からの苦情しかなかった。
「独創的すぎて言葉が出ないよ。これは……竜骨が三本という事なのかな? 王国には探査船という船種が両舷に竜骨を持つ両舷竜骨というのはあるが……」
ドルナンは言葉を濁したが実物を見ていると合理性があるように見えてきた。中央の竜骨は深めだが両舷の竜骨に木材を軽く噛ませるだけで自立していた。
「それは側舷を立たせたくて入れた構造材の成れの果てだよ。船底の木材と側舷の木材を繋ぐために入れたんだよね。確かに今は竜骨として活用はしてるよ?」
リーグが両舷の竜骨が生まれた理由を軽く話した。確かに小型帆船の両舷は切り立ち従来の帆船とは違う思想だった。そして船首と船底も違っていた。
「船首も尖り深い切り込みと限りなく平らに近い船底との繋がりは……見たことがない。本来は丸みを持たせるために造船技師たちは苦心してるんだぞ……」
ドルナンもリリーナ号を建造するに当たり造船技師たちと多くの議論をした。二本マストという異端な帆船が建造されたのはその議論があったからこそだった。
「リーグはとにかくカクカクした物が好きなのよ。その形の船首は結構初期からそうだったわ。お陰で何回も船首から海に刺さったものよ」
リーナが小道から出てきて木陰に座った。手には袋を持っているのでおやつ持参で顔を出したようだった。腰の水袋はココナツ水とリーグは看破した。
「ドルナンさんのリリーナ号にこの子は乗ります? 緊急時用に必要なんだけど……。この子がダメだと試作の子が候補になるんだけど……どうです?」
リーナは小型帆船をリリーナ号に搭載できるかを確認した。
「うーん、乗るかどうかだと乗るかな。冒険者が十四名と荷物は船倉に入るし甲板にいてもまぁ大丈夫。マストを倒す必要はあるけど船首側なら乗る」
ドルナンの答えにリーナは頷きリーグを見た。
「リリーナ号には桟橋で乗せてもらおう。このリーフはちょっと浅いからね。桟橋までならジブだけで十分に向かえるから艤装が終わったら動かすよ」
リーグはリーナの提案に乗って小型帆船を乗せる事にした。
「リリーナ号の付属船は櫂船?」
「王国の標準的な付属船だからマストを立てれば帆走もできるよ。たぶんリーグくんは見たことあるんじゃないかな。カッターを元にしたやつだね」
ドルナンはリリーナ号に搭載している小型船の事をリーグに伝えた。カッターという船種は縦帆が生まれたのと同時期に建造された漁船が原型である。
その漁船を小さくし不要とされたメインブームを付けガフ帆を付けた物である。ただしジブ帆だけの運用も可能な汎用性の高い船種だった。
大型外洋船は付属船の搭載が義務付けられていた。元々は投錨などで使うため必ず搭載していた。これがサップの登場で一時期搭載しない船が増えた。
この風潮に待ったを掛けたのはサップの発案者と言われている。目的外のサップで済ますのは安全管理を御座なりにすると強硬に主張し認められた。
王国では王命により付属船を搭載する事が義務付けられた。そしてサップは救命補助具か遊具としての搭載のみが許された。
これにより落水事故が起きたにも関わらずサップが救命補助具として投下されてない場合は殺人として処罰される事も王国は王命で施行された。
海難事故に対するフェルノート王国の監査はとても厳しい。それを主導したのもサップ発案者とリーグは聞いていた。ただ名前は特に聞いていなかった。




