第四十話
ドルナンは子どもの頃に読んだ絵本に憧れた。南方の大海原にポツンと存在する環礁で繰り広げられる冒険の物語だった。
ドルナンの心の中に憧れとして固着した南方諸島への想い。商人を目指し船が建造できるまでになった時に南方諸島への想いが交易船の建造へと突き動かした。
初めて辿り着いた南方諸島にドルナンは心が弾んだ。そんな時に入港航路を譲ってくれた小型の帆船が目についた。ガフ帆を持たない帆船だった。
「創世の女神様に心よりの感謝を……」
思わずドルナンは創世の女神に祈りを捧げていた。フィリーエル環礁を知るリーグという少年に引き合わせてくれた感謝が溢れた。
フェルノート王国で南方諸島にフィリーエル環礁という環礁は存在しないと主張する人は存在しない。名前を知っている人は存在すると理解していた。
王国で『女神様の愛し子』と言えばルクレイのことである。ルクレイが嘘を王宮に吹聴する必要が欠片もない事を王国民は知っていた。
『存在は疑わないが詳細を知る人は限られているのがフィリーエル環礁だ。隠されてるわけでもないのに情報が集まらない不思議な環礁を知っている少年』
ふらっとリーグたちがいなくなりドルナンは不思議に思い取引しながら話題に出すと情報は簡単に集まった。リーグたちは環礁にお出かけ中という情報だった。
リーグを除いて単独で環礁に行ける船長は二人という話も直ぐに入った。リフールでは環礁の情報になんら制限はなくリーグたちの笑い話と繋がっていた。
「そうそう、ドルナンさんにお願いしたい事があるんだよね。もう直ぐ夏本番なのに環礁にいる冒険者たちを引き上げる手配が出来てないみたいなの」
ドルナンの思考にリーグの雑談のような軽さで入り込んできた。
「もし可能だったら引き上げを手伝って欲しいんだけど良いかな?」
ドルナンの思考の隙間から入ったリーグの言葉は意味を理解するのに数瞬掛かった。ドルナンは『手伝う?』とその意味を理解した。
「それってリリーナ号で環礁に向かって冒険者を拾って戻って来るんだよね?」
ドルナンは言葉にした後に『えっ?』と言った言葉に自分自身で疑問が生み出された。それは『環礁を訪れる事ができる?』という都合の良い疑問だった。
「そうそう。単独で行けるゼナさんとデンさんがいないんだよね。なのに俺のとこに先導の話が来てない時点で終わってる。ほんと困っちゃうよね」
リーグはドルナンの雰囲気の揺らぎは気にせず状況をそのまま伝えた。
「さっき絵本の話をしたよね?」
ドルナンは疑問を放置せず自身の経緯をリーグに話す事にした、
「あの絵本の世界に憧れて……いまリフールにいるんだ。フィリーエル環礁がある南方諸島に来たかった。その環礁を一目見たいと思ってここにいるんだ」
ドルナンはリーグに視線を合わせてここにいる理由をリーグに伝えた。
「ぜひフィリーエル環礁に連れて行ってくれ」
ドルナンはリーグに頭を下げた。お願いで来ていたリーグは事態の動きに目を丸くした。そして「女神様の暇潰しかな」と呟いた。
「この後は神殿で打ち合わせをするよ。ドルナンさんも参加ね。リリーナ号は最初から物は放置されてなかったし固定も強化してあったから神殿に行こう」
リーグはこの後の行動を決めドルナンを巻き込んだ。席を立ったリーグがドルナンわ急かしてリリーナ号を降りて神殿に向かった。
「あっ! リーグが戻ってきたよー。冒険者ギルドには神殿から呼び出しを掛けたからもう直ぐ来ると思う。ドルナンさんもいるならチャチャっと終わるね」
礼拝堂でリーナたちが『爽快の実』を食べていた。神殿の子どもたちもニコニコしながら頬張っていた。リーグは苦笑しながら「ただいま」と返した。
「それじゃ女神様にお供えしようよ。女神様が待ちくたびれたら貰ってもらえなくなっちゃう。どうせリーグがドルナンさんと雑談してたんでしょ?」
リーナはお供え用の『爽快の実』を三個ほど持った。リーグも三個手に取り礼拝堂の奥にあるお供え用の祭壇に向かった。
「うわー綺麗に仕上げてあるね」
修理したと聞いていたリーグは綺麗になった祭壇に目を丸くした。確かにだいぶ傷んでいたのは子どもの時から見てきて感じていた。
「創世の女神様。今回のお供え物は海難救助したお礼に頂いた『爽快の実』です。救助した船が王国に帰れるように見守ってください。少ないですがご賞味あれ」
リーナが口上を述べてリーグと二人で二回頭を下げ礼を取り二回手を打ち頭を下げ礼を取った。すると祭壇に置いた爽快の実がキラキラと煌めいた。
『南方諸島にもお供えの祭壇があったのか!』
ドルナンは粉末ミルクの納品で何度か神殿に来ていて祭壇の存在は知っていた。しかしその祭壇が『お供えの祭壇』とは思っても見なかった。




