第三十九話
ドルナンは船尾室で交易品の帳簿を整理していた。フェルノート王国から持ち込んだ物は全て売れて復路の荷を買い付けているところだった。
「ドルナンさーんいますかー」
外から聞き覚えのある声で呼ばれた。ドルナンは席を立ち船尾室から出ると桟橋側の目の前にリーグが立っていた。ドルナンは思わず二度見してしまった。
「いたいたー。まだ王国に出発してなくて助かったよ。ドルナンさん時間ある? ちょっとお話とお願いがあるんだよね」
リーグはニカッとしてドルナンに話しかけた。
「時間はあるんだが……なんで空中に浮いてるんだ?」
ドルナンは何もない空中に平然と浮いているリーグに突っ込みを入れた。リーグは「魔法使ってるよ」とドルナンが知りたい事と少しズレた回答をした。
「……まぁ時間はあるから上がって……こっちにおいで。ココナツ水を冷やしてるからご馳走するよ。それにちょうど聞きたいことがあったんだ」
ドルナンはリーグを手招きして船尾楼に入った。リーグはヒョイッと側舷の手すりを飛び越えて甲板に降りた。キョロキョロと見回し船尾楼に入った。
「んー、先にドルナンさんの聞きたい事を進めちゃおうか」
テーブルを囲むとココナツ水が振る舞われた。リーグは軽くドルナンの言っていた聞きたい事に話題を振った。ドルナンは頷き「メモと環礁」と答えた。
「んー、メモはあのままで暴風の卵崩れが来るから飛散物を隠してという話と係留は念入りにだね。暴風直撃だとマストも危ないけど今回は大丈夫ってとこ」
リーグの回答にドルナンは腕を組んで目を瞑った。何かを考え口を開こうとしたが止めた。そして目を開けて頷いた。
「環礁は俺が生まれる前に見つかった環礁でフィリーエル環礁という名前。環礁の内海に亀裂……ダンジョンがあるんだよね。そこまでは知ってる?」
リーグは環礁の基本情報を出してドルナンに確認した。
「南方諸島に亀裂のある環礁がある……それは王国でも結構有名で『南方のフィリーエル冒険譚』という子ども向けの絵本として売ってるんだ」
ドルナンの情報に「絵本?」とリーグが驚いた。今まで話した船乗りや商人たちから聞いた事のない情報だった。
「リーグくんはフィリーエル環礁にはよく行くのかい?」
「よく行くかな。リーナがとにかくあそこの環礁ベリーが大好きだから。あとは祭事で使うパールも集めてる感じだね。今回は爆裂ココナツもあったよ」
「えぇー環礁ベリーって本当にあるの? それに爆裂ココナツ! あの絵本に書いてあった果物が両方とも実在するとは思わなかった」
「えっ?……その絵本は発見の経緯ではないの?」
「あーごめん。絵本は小さな少女が知恵と勇気で環礁の亀裂に挑戦するお話なんだ。活発で泳ぎが得意で機転の利く可愛い少女なんだよね」
ドルナンは懐かしそうな顔になった。そして「コホン」と少し赤くなった顔で子どもの頃に読んでとっても憧れたと聞いてもいないのに自爆した。
「その中で環礁ベリーと爆裂ココナツが出てくるのか。あとはパールのカイとトンガリとトゲトゲ……そうそう大きなカニってところか」
リーグは環礁の亀裂で知っているものを並べていった。
「えぇーモグアザもいるの? 爆裂ココナツもレストール領の亀裂から持ってきたと思ってたのに。トンガリ、パルカイ、ウサンとか全部本当だったのか……」
ドルナンは絵本に出てきた魔物たちが全て環礁に実際にいると聞いて驚いた。絵本にも関わらず実在する物で固めそこを冒険する物語が現実と繋がった。
「まさか……作者の名前がフィリーエルなのは本当にフィリーエル様が作者だった? その辺りは子ども向けだったから誰も気にしなかったのか?」
ドルナンは考え込んでしまった。リーグはドルナンの言葉を返した。
「フィリーエル様?」
「ん?……あぁまたすまない。フィリーエル様というのは王国では有名な人なんだ。ルクレイ様とヴィオナ様の長女で実は凄い冒険家なんだよね」
「冒険家!……ってルクレイ様? その人って環礁を発見した人? それと工作魔法大全の作者? ドルナンさんの知ってる人?」
リーグは環礁の憧れと発見者の『ルクレイ』に思い入れがあった。そして夢の実現の手助けをしてくれている工作魔法の発見者でもあった。
「あぁ……そういえばそこで繋がるのか。ルクレイ様も王国では有名なんだ。英雄と言われているアルフォンス様と双璧と言ってもいい人たちなんだよ」
ドルナンは子どもの頃に読んだ絵本は実在する場所を舞台としていると納得した。そして作者は発見者の娘で娘の名を環礁に付けたという繋がりも理解できた。
南方諸島に交易で訪れたいと思った根源が実在した事実を噛み締めた。




