第三十七話
「あっ! 明日の暴風はもう話してある感じなんだね」
リーグはゼク爺さんの言葉を思い出し神殿長の小言は流した。
「ん? 明日は別に暴風じゃないだろ。たんなるからかいに反応しとったら話が進まんだろ。帰還の報告なら裏でやっとけ」
ゼク爺さんはガハハと笑い揶揄った事を認めた。ゼク爺さんと認識がズレていると感じたリーグは首を傾げリーナに視線を送った。
「あぁ……ブラナン島には影響が出ないから告知はしとらんぞ。先取りした暴風の残滓みたいじゃからな」
神殿長は穏やかな笑顔でリーグに答えた。
「あー……あの子の足が速すぎて感知の精度が落ちてるみたい。神殿長、直撃はしないけど対策は必要なの。卵が崩れてこっちに向かってるわ」
リーナも感じたズレの正体に気が付き神殿長に対策が必要と伝えた。
「それに……明日じゃなくて今晩には来るわ」
リーナの宣告を聞いた神殿長は目を丸くした。そして「まずいぞ」と声を荒げて礼拝堂の裏に駆け込んだ。ゼク爺さんも口をポカーンと開けていた。
「ゼク爺さんは工房街に戻って飛びそうな物を隠すよう皆に伝えて。火を使う工房には夕方までには火を落とすように念押しお願い」
リーグがゼク爺さんに工房街の手当を頼んだ。ゼク爺さんはギシギシ音を出しそうな感じでリーグからリーナに視線を移した。
「風はかなり巻くからゼク爺さんお願いね。あと、ここにいる人もすみませんが近所に声をかけて飛ばされそうな物を隠すよう周囲に伝えてください」
リーナは静まった礼拝堂にいる人たちにも話し掛けた。
「リーナ、予定を変更するね。俺は港湾事務所に警報を出して造船工房にも顔を出す。リーナは神殿長と巫女さんで話して。海流の件も聞いておいて」
リーグの予定変更にリーナは一瞬考えたが頷いた。リーグは木箱は裏に置くことを伝え「お供えは一緒にやろうね」とリーナに囁き礼拝堂の裏に入った。
裏に入ったリーグは神官に指示を出してる神殿長に行き先を伝え木箱を置いて神殿を飛び出した。空中を駆けながらリーグは影響範囲を考えていた。
『南東から卵は来るはずだから北と西に水路がある湾はそれほど波は入らないと思うんだよね。昨晩の風に違和感はなかったから南風はいつも通りだろうなぁ』
リーグは港湾区画もそのまま上空を駆けて管理棟に突撃した。チラリと桟橋を見るとリリーナ号はまだ係留されていた。
神殿では神殿長とリーナに二人の巫女が加わりテーブルを囲んでいた。
「暴風の卵に気が付いたのは環礁にいたとき。その後にリフールに戻る間に風の切れ目で消耗が少なく崩れかけているのに気が付いたわ」
暴風の卵を感知した時からの経過をリーナは順序立てて話した。
「南風に押されて速度を上げているから今晩にはリフール周辺を通過するの。まだどっちを抜けるのかが分からない。ただ直撃がないと感じてるだけ」
リーナの話を聞いて風巫女のオリアは目を手で覆い「失態だわ」と呟いた。
「本来は卵は風の切れ目を通る段階で核を失ってここまで来ません。環礁に向かう日に暴風の残滓がリフールに流れ着くのを感知したわ」
環礁に向かう初日に気が付いた残滓は想定より大きく位置も感知からズレていた。その違和感を放置したのは失敗とリーナは認めた。
「縁を通ったけど思ったよりも大きかった。今年は暴風の警戒を引き上げた方が良いのかもしれない。あと分流して南下してる海流の方はどうです?」
暴風対応は警告を他の島々に出す事をリーナは提案して締めた。そしてもう一つの懸念である海流に関して情報を揃えるように話を進めた。
「分流はリーナが環礁に向かった二日後に突然生まれたわ。前兆はなく分流もかなり大きな海流になって東方航路は閉鎖を指示してるところ」
海巫女のゼリナは海流の状況と航路閉鎖を伝えた。分流元の西から東に流れている大きな海流は監視船が出せず状況は不明とリーナに説明した。
「分流はブラナン島の北東岸に当たって南東に流れてる。孤独岩から戻る時に会ってないから途中で南に進路が変わってると思うから確認は必要かな……」
リーナは航海の結果として分流の行き先を推測し情報として共有した。加えて更に分流し北東に向かう海流が出来てることも共有した。
情報共有の話を進めている間に行政機関からも人が集まり神殿で行政を含めた対策会議が開かれた。リフールに暴風警報が昼前に出された。




