第三十六話
「ガリガリガリ……」
砂浜でリーグはロープ巻上機を回して小型帆船を砂浜に引き上げていた。長い航海を終えた小型帆船は船体を休めるためでなく避難のため砂浜を移動していた。
自宅のあるリーフに戻ったリーグとリーナは帰還直後の作業に入った。
リーナは荷物で軽い物を持って自宅に向かった。リーグは暴風の卵が近くを通っても問題ないように小型帆船を陸揚げしているところだった。
リーナは荷物を運び終えると暴風対策を開始した。小川から取水している取水口を木の板で塞ぎ自宅側の水路も塞いで水が入らないように手当した。
周囲に置いてある飛びやすい物を納屋に運び込んだ。そして窓の木板を閉じて固定していく。暴風対応にしている自宅は開口部を閉じれば対策は完了である。
リーグは相変わらず力仕事をしていた。小型帆船からメインブームを外して気合と手袋で木々の中にある作業場所に置いた。マストも抜いて持ってきた。
マストとメインブームの大きさの基準はリーグが持てるかどうかだった。最近は現役最新のこの小型帆船のマストとメインブームは余裕が出てきていた。
体格も出来てきて今であればもう少し大きな物にする事もできた。そんな事を考えながらハルだけになった小型帆船を手で引きながら木々の中に隠した。
木陰で乾燥させていた試作船はマストとメインブームは改修のため外してあるので同様に木陰に引きずり込んだ。
最後の大物である浮き桟橋もロープ巻上機で引きずり上げパタパタと畳んだ。ロープを回して縛り近くの木にロープを三本取って固定した。
リーグは木陰に置いておいた木箱を掲げて自宅に向かって駆け出した。
「この後は冒険者ギルドに向かうけど神殿長に援護してもらおうと思ってるんだ。だから神殿に最初に向かって神殿長に話してついてきてもらう予定」
リーグは冒険者ギルドに環礁に船を出すように交渉に向かおうとしていた。ただ、冒険者でないリーグは柵もないが話を持っていく権限も持っていなかった。
そこで冒険者の命という点で神殿に関与してもらう事を考えていた。救命という道義に創世の女神という信仰で後押しする逃げ場を残さない話し合いである。
「そうだね。リーグには冒険者の命に対して責任がないから義務も権利もないもんね。神殿長に入ってもらうのが結果として冒険者ギルドのためにもなるね」
リーナは神殿長と聞いてリーグの考えを理解した。
「それじゃ木箱はリーグが神殿に運んでね。ちゃんと魔道具は出しておいてね。魔石は付いてないはずだけどあれが起動したら子供がケガするからね」
リーナはなぜか木箱を神殿に運ぶと宣言しリーグに運搬を割り当てた。
「私はリリーナ号がまだ港にいるか確認して神殿に向かうね。ふふ、海難救助でもらった物だし神殿の皆にも食べてもらわないと」
リーナは立ち上がると小道に向かい駆け出した。
「えっ?……行っちゃった。まぁ……リーナならそうするか。女神様にも奉納するからする事は変わらないから運びますか」
リーグも立ち上がりリーグなりに暴風対応の状況を確認して木箱を掲げて駆け出した。当然のように手袋を活性化させ『筋力強化』の助けを借りていた。
「こんにちはー」
リーグは神殿の入口から声をかけて入った。神殿の入口は入ると直ぐに礼拝堂になっている。お参りや礼拝をしに来ていた人たちが振り返った。
「おっリーグ戻ったのか」
礼拝堂にいたドワーフ族の男性がリーグに話しかけた。
「ゼク爺さん久しぶりー。ゼク爺さんの作ったスピアは良く魚が獲れるよ。でもさー、やっぱりあの滑車みたいな物の使い方がよく分かんないんだよねー」
「まだまだ使い込んどらん証拠じゃ」
ゼク爺さんはガハハと笑いリーグの肩をバンバン叩いた。
「今日はリーグだけか? リーナだけなら分かるがリーグだけというのは……明日は暴風じゃの。それより環礁にいっとったんじゃろ? 戻りが早いのぉ」
ゼク爺さんは首を傾げた。
「とうちゃーく! あーリーグが先に着いてる! また水壁でズルしたでしょ? 街中を水壁で駆けたらダメなんだよ? もう! すぐ忘れるんだから」
リーナが駆け込んできた。
「いやいやいや、ちゃんと地面を走ったよ? 木箱が人に当たりそうで避けてフラフラなんてしてないよ? 桟橋回ったリーナこそ風壁使ったでしょ?」
リーグは両手が塞がっていたので首を振って否定しリーナに投げ返した。
「桟橋まで行くとは言ってませ〜ん」
リーナはツーンと顔を横に向けた。
「リーナとリーグは相変わらず騒々しいの。女神様の前でイチャイチャしとらんで裏に回れ。ここは女神様に挨拶したり祈ったりする場所じゃぞ」
奥から神殿長が顔を出した。ざわめきの正体は分かってはいたがリーナとリーグを見るとため息をついた。誰も苦情を言わないとしても神殿長は指摘した。




