第三十五話
リーナが編み物をしていると大型外洋船からリーグが水壁で戻ってきた。大きな木箱を掲げて運んでるのを見たリーナは「また貰ってる」とくすくす笑った。
「ただいまー。手順は組み上がったから戻ってきたー」
リーグはリーナに声をかけて船縁で首を傾げた。手に持った木箱をどう置くか考えているようだった。リーナはその仕草も面白く肩が震え始めた。
結局は両舷のステップにレジンシートを敷いて木箱を置く事にした。移動の邪魔ではあるが他に積みようがなかった。積み込むと喫水が少し深くなった。
「なんか結構重そうだったけど何を貰ったの?」
木箱の中身が気になったリーナが少し上目遣いでリーグを見た。
「その話は後にしよう。まずは北東に分流してる場所を分かりやすくするのにうちの船を近くに配置しちゃおう。海流からは距離は取るからね」
リーグは蓋を開けて見せたかったが時間的に余裕があるわけではなかったので心に門番を置いて作業を伝えた。移動はジブのみで水壁で補助をすると伝えた。
リーナが風壁で固定していた小型帆船をリーグの水壁で船首の向きを変えた。ジブセイルを半分だけ右舷側に出し左舷側に抵抗なしの水壁で壁を作った。
水壁の壁を滑る形で海流に沿って移動し分流する手前で再び固定した。
「カーン!」
大型外洋船から鐘一つが鳴り響いた。海流から脱出するための行動に移る合図である。大型外洋船の方から「ブシャー」と小さくリーグたちに音が届いた。
「すごーい。あの大きな帆船が不自然な感じで左に回頭してるよ! うわー、動きがなんか気持ち悪い。って下流に流れ始めたね」
リーナは不自然すぎる回頭に歓声と酷い指摘を声に出した。
大型外洋船は船首を北に向け続けるため空噴魔道具を細かく操作していた。それを見ていたリーグは「使わないのはもったいないよね」とくすくす笑った。
リーグの呟きにリーナが「ん?」と首を傾げた。
「あの空噴魔道具って船長は後から付けたと聞いたんだって。で、試してこいと言われたけどまだ使った事がなかったらしい。これで報告できそうって言ってた」
リーグはリーナに説明した。勝手に付けられた装備に腹を立てここまで使わなかったと船長がリーグに話した時の事を思い出していた。
「グォォォーーーー」
リーグたちの眼の前を大型外洋線が北に向いたまま南東に流されて通過した。その直後に低く響く音が周囲に響き大型外洋船の船尾で水飛沫が飛んだ。
小型帆船の周囲の海水も大型外洋船の方に流れ始めた。
「凄いなぁ。あれは海水を吸い込んで後ろに押し出してるんだよ。その吸い込みがこの辺りにまで影響を及ぼしてる。あれはマジで直進専用だね」
「吸い込んだ海水を全部吐き出してるんでしょ? 舵を動かしたらたぶん折れると思うわ。それこそ中央で固定してなかったら舵を失う未来しかないと思う」
補助推進魔道具に対するリーグの感想を聞いたリーナは別の視点で指摘した。あの水流で舵を切れば確実に舵が吹き飛ぶと真面目な顔で返した。
海流の中で身震いした大型外洋船は前進を開始した。グイッグイッと前に進み南東に向かう海流から這い出してきた。そして北東に向かう海流も乗り越えた。
「カーン! カーン! カーン!」
大型外洋船から出港を合図する三連鐘が鳴り響いた。船尾には多くの船員が並び歓声を上げて手を振っていた。船長も手を振っているのが見えた。
「良かった……これで王国に帰れるね。さぁ、俺たちもリフールに戻ろう」
補助推進装置で進んでいる大型外洋船から音が消えた。そして白い帆が全て開いた。見事に揃った展帆は一つの芸術のようだった。
リーグは船首を南に向けガフセイルを上げた。そして船首をグイグイと押してそのまま西に向けてメインブームを左舷に押し出した。
リーナは船尾右舷に座り環礁ベリーを摘んだ。リーグが西に向けてくれたのでティラーはしばらく当て舵だけである。ジブセイルも左舷に広げ帆走を始めた。
残念な事に南下している分流を跨ぐ必要が残っていた。リーグは帆を調整しリーナが風を詠んで効率良く風を吸い込み小型帆船は滑走を始めた。
「よしよし。滑走状態なら海流はほとんど無視できるからね」
「海流を抜ける時は良く飛んでるでしょ? レジンシートは木箱に踏まれて私のお尻を守ってくれないのよ? リーグのレジンマットを出してね」
リーナはうんうんと頷いているリーグにお尻防御のためリーグのレジンマットを犠牲にしろと告げた。リーグは頭を掻いて収納空間から取り出して渡した。
そして機嫌を取るために木箱の中身をリーナに伝える事にして木箱を開けた。
「きゃぁーーーさいこうよーーー」
リーナの大きな歓声が大海原の中に吸い込まれていった。




