第三十四話
リフールから東に向かった先で一隻の大型外洋船が停泊していた。錨を落とし船首を北西に向けて停泊している姿は珍しくも本来はおかしくないはずだった。
しかし停泊している場所は常に南風が吹く場所である。船首の錨だけでは本来なら風上の南に船首が向くはずである。しかも沖止めするする場所でもなかった。
北西に向けて停泊しているのはその場所が強い南東に下る海流の中だったからである。
その海域に小型帆船が北西側から接近してきた。頭を抱えていた船長はその報告を聞き左舷の船縁に駆けた。僅かながら希望が心に芽生えた。
「あれか! 小さいな……あれで外洋に出れるのか?」
船長は実物を見て唖然とした。とても小さく細身の帆船だった。見ているとジブセイルが小さくなりガフセイルも下ろされていった。
「なぜ帆を畳む? まだ距離はあるし何をするつもりなんだ?」
小型帆船はガクッと速度を落とし停止した。固定している場所から見ているので分かったが完全に停止していた。
「なぜ錨も落とさないで停止してるんだ? というか乗ってるのは少年と少女? 二人乗りで外洋に出てるのか? 王国でもあの大きさは漁船ぐらいだぞ?」
船長は驚きが続き幻でも見ているのかと目を疑い始めた。そして「板?」と空中に水色の板が突然現れどんどんとこちらに向かい数が増えていった。
そして少年がピョンと空中に浮いたと思ったら水色の板を駆けてこちらに向かってきた。船長は「あれは……水壁というやつか」と現象を理解した。
「海難中って思って見に来ましたけど……海難中であってます?」
空中に立っている少年から質問が飛んできた。船長や船員たちは何を言っているのか理解するのに時間が掛かった。少年は首を傾げて不思議そうに見てきた。
「あぁ……海難事故の真っ只中だな。海流に巻き込まれて操舵不能になって錨を落として船は止めたんだが……身動き取れなくなった」
言葉の意味を理解した船長がリーグに答えた。リーグは回答してくれた男性の横に降り立ち軽く自己紹介をして状況打破のための相談を始めた。
「確認しておきたいのは補助推進魔道具が動くかというのと船首と船尾の錨は予備を積んでいるかという事です。状況としてはどうでしょうか?」
リーグは単刀直入に大型外洋船の装備品に関して確認をした。
「えっ?……補助推進魔道具は動くがこの状況ではちょっと動かせないぞ」
船長は質問の意図は分からなかったが補助推進魔道具を使うという点は理解できた。ただ現状ではそれが使えな点を先に伝えた。
「知ってます。あれって直進しか出来ない事は前に聞きました。動くのであれば使い所を考えれば良いだけです。で……錨の方は?」
「あぁ……錨に関しては船首用も船尾用もロープを含めて予備は積んである」
軽くいなされた船長は装備品の予備は揃っていると答えた。
「結論から言えば上手く組み合わせればここから出れます。都合良く北西に向かう分流がこの先にあるので利用すれば少し楽に出れます」
リーグはリーナと話して風と海流を使って脱出は可能と結論を出した。そこに補助推進魔道具が動くなら随分と楽に出れそうという話になっていた。
リーグは船長に基本的な方針を話した。単純に船首を北に向け補助推進魔道具を起動して北に向かうという力技だった。
「補助推進が使えない場合も考えましたが使えるなら楽をしましょう。都合良く? 海流はこの先で分流してます。北東に向かう方に乗れば時間が稼げます」
リーグはとにかく北に向かい海流の縁まで向かえば大丈夫という事だった。難しいのは海流に流されながら船首を北に向け続ける事だけと断言した。
「この状態で船首を左に向かせる力を掛けます。船首の錨があるので動きませんが帆に風が入りきったところで船首の錨を切れば左に回頭し始めます」
とにかく相対的に海流が流れているので右舷を上流に向ければ左舷側に押される点を強調した。そして船尾右舷側に錨を落として後進を邪魔すると伝えた。
「北に向ききる前に船尾の錨も切って補助推進魔道具を起動して力押しです。その時に帆が邪魔をするので危険ですが全て畳んでください」
リーグの説明では使う帆はフォアマストの横帆のみとした。そして回頭する力を得たら帆を畳む事も作業として加えていた。
「んむぅ……。そうだ! 回頭の切っ掛けが必要なら船舶用の空噴魔道具が試験的に装備されている。これの右舷側を起動すれば左に回頭するはずだ」
船長は自船に搭載している魔道具を思い出しリーグに提案してみた。
「えっ? 空噴魔道具が付いてるんですか? 大型外洋船で付いてる船を初めて見ました。今なら動けないので試してみましょう」
リーグは欲しいと思ってた空噴魔道具を搭載している大型外洋船を初めて見た。リーグがその魔道具を知ったのは別の海難事故船を救助した時だった。
リーグと船長はさっそく空噴魔道具の検分に船首に向かった。魔道具の起動スイッチは魔道具本体の近くに置く事が多い。今回も船首にスイッチがあった。
船員が空噴魔道具を起動する準備を行った。普段は外している魔石を付け起動を復唱して空噴魔道具を起動した。
「ブシャーーーーー」
右舷船首から空気が噴射された。錨で固定してある船首がギシギシと錨に抗い左に船首を回そうと藻掻いた。船長が指示して空噴魔道具を停止した。
「思っていたよりも勢いが凄い! これなら十分に回頭ができますね。切っ掛けになればと思ったけど……これだけで回頭し切れる力がありますよ」
リーグは空噴魔道具の威力に驚きながらも役に立つと確信した。
「そうですね。手順を確認して担当する船員を割り当てます。できれば北東に分流する位置ももう少し詳しく教えてもらえると助かります」
船長はリーグと話していて記憶の中から南方諸島で王国の帆船を救助した少年の話を思い出していた。船乗りたちの中で広がっている噂だった。
『この少年を見ていると噂が真実だと分かるな。頭の回転も凄いし使える物を選別して組み立てるのも早い。これは……何をプレゼントすれば良いかな』
船長が噂に聞いた中では大全シリーズをプレゼントしたとか色々な魔道具をプレゼントしたという話も含まれていた。船長も何を渡すか考え始めた。




