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海の民と南海の風  作者: うにまる


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第三十話

 リーグとリーナはいつものようにステップにレジンマットを敷き寝転んでいた。真っ暗な夜空はキラキラと光が瞬いていた。


 船尾側の足元と頭の上のマストに灯光魔道具が仄かに明かりを灯していた。北からの風に押され小型帆船は船首を風上の北に向けていた。


 頭の上から入ってくる風が足元に流れていった。


「今日はずーと滑走で来れたから楽だったよね。たまに波に乗って飛んじゃうけどレジンシートを敷くようになってお尻も痛くなくなったし」


 リーナが言うように滑走中は確かに直進性が高い。サイドキールとセンターキールの間に誘導された水流がチャネルを通して後方に加速して押し出される。


 しかし言うほどに簡単ではなかった。風の入り方で風上に登ろうとしたりする。リーナは風の動きを察知してティラーを操作しているため簡単に感じていた。


 リーナはカサカサと果物入れから残り少ない環礁ベリーを取り出しモグモグした。環礁ベリーは傷みやすいため今晩で生の環礁ベリーは終わりとなる。


 あと少し冷却保管箱に環礁ベリーを入れてあるが明日にはなくなる。その後は乾燥させた物に移っていく。暴風の季節が終わるまで環礁ベリーはお預けとなる。


「明日は早めの時間に孤独岩に入れると思う。卵の気配ってどう?」


「孤独岩には来ないと思うけど……かなり足が速い感じがする。良いペースで来たけど近づいてるのは分かる。明日にはリフールでも分かると思う」


 風巫女は平均すると二日前ぐらいに暴風を感知する。リフールで二日前として感知した場合はリフール付近でかち合う可能性が出てきた事になる。


「悩ましいか。孤独岩は航路的には南に膨らむ。あの洞窟が待避所として使えるけど……使わない場合は転進するタイミングが全く目標物がない……」


 環礁への航路が決まらない最大の理由は進路を決める目標物がない事である。環礁自体の背が低いためかなり接近しないと見つけられなかった。


 そのためリフールを出て東進するとぶつかる二つの大きな海流が目標になっていた。ただ二つの海流は向きが違いお互いに干渉し合っていた。


 海流の間にある海域は海流が乱れ渦のような形に変化する場合もあった。南方諸島には何箇所か海流の難所が存在するが渡るだけであれば何とかなった。


 環礁に向かうには東進してぶつかった辺りで南下する必要がある点だった。往復を考えると普通は南下しようとは考えないような海域だった。


 発見者が残した資料の航路がここだった。


「熟練のゼナさんとデンさんがやる気を見せてくれなかったら冒険者は危なくて渡れないよね。ていうか……今回のこの状況ってやっぱりまずいよね?」


 リーナは瞬く夜空の煌めきをジッと見ながら呟いた。


「うーん、冒険者を見捨てる冒険者ギルドに意味があるのかって話になるからねぇ。そりゃまずいと思うよ? しばらく環礁は静かになっちゃうかもね」


 無人の環礁が少し賑やかになってリーグは少し嬉しかった。リーグたちにとって環礁はある意味で日常である。そこが無人になるのは寂しかった。


 リーグとリーナは自分たちでどうにもならない話を切り上げ夏本番で不足気味な環礁ベリー問題を話し始めた。引き上げ時に収穫できる見込みは少なかった。


 代用品として爆裂ココナツは絶対に持ち帰るとリーナは心に決めた。リーグはココナツのシーズンに爆裂ココナツを持ち込む意味は薄いと感じていた。


 翌朝になり早朝から全身丸洗いして気分を一新した。アンカーリングしていた錨を引き上げガフセイルを上げ西に小型帆船は移動を開始した。


「思ったよりも卵の足が速くなってるわ。風の境界で消耗しなかった可能性が高いんだけど……こっちに来る可能性も上がっていて断定できなくなってる」


 早朝にリーナが観測すると卵の移動速度があがり進路が揺れている状況だった。速度が上がった事で卵が崩れ始めている可能性をレーネは指摘した。


「読み難いなら孤独岩に向かおう。進路を西南西にして進めば昼過ぎぐらいには視界に入るはず。その時の状況次第で夜間航行も視野に入れよう」


 リーグは孤独岩に向かう提案をした。後ろに足の速い暴風の卵がいては安全に振るしか選択肢がなかった。


 リーナはリーグに頷きティラーを押して面舵を当てた。船首側から二つ目のクリートまで小型帆船の向きを変えていく。


 リーグはメインシートをクリートから外し引きメインブームを寄せた。リーナの回頭作業に合わせガフセイルの向きを整えた。


 メインシートをクリートに掛けジブセイルを叩こうとする風をいなし流れるように右舷側のジブシートを引きジブセイルを浅くした。


 ジブセイルを浅くした事でガフセイルとの隙間が狭まり流れる風が加速しガフセイルが小型帆船を更に引っ張り始め船体がフワッと浮き滑走に入った。


 波の当たりが右舷前方になった事で右舷船首が上がった。左舷側のサイドキールの効きが強まり風上に登ろうする挙動を見せた。


 船体のヒールを抑えるためリーグは縁から身体を出し荷重を右舷に掛けた。


 リーナも腰のベルトにロープを掛けティラーに延長棒を引っ掛け座る場所をステップから船縁に変えヒールを減らし直進する安定性を取り戻した。


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