第二十一話
リーグとリーナは再び空中を駆けて奥に向かった。既に鐘半分ぐらいは奥に来ているので冒険者たちの活動範囲より遠くに来ていた。
実際のところリーフを歩きリーフを渡り水路を泳いで渡るのは大変である。冒険者も荷物を減らしたり武器防具の金属は魔鉄を使うなど工夫はしていた。
しかし現実はリーグたちが駆けている鐘半分の距離をとても越えられない状況だった。それでも魔石などの落とし物で成果として十分だった。
「でも不思議だよねー。なんでみんなパールのカイをこじ開けてパールを奪わないんだろ。さっきだって三十でパールの落とし物は五個でしょ?」
「まぁ……教えてないから。パールが獲れる場所は大抵トンガリがいる。楽に獲れるのと楽に戦えるのは違うからね。そこを勘違いすると命を落とす」
パールのカイは強くない。武器の水槍はそれなりの威力はあるが場所的に牽制である。本命はトンガリの刺突だった。
「そっかー。今回は先にトンガリが来てたもんね」
リーナが普段気にしていなかった相手の連係に気付かされた。実際のところリーナは探知で襲撃前のトンガリに気が付く点の有利さも思い出していた。
「手前側はカイもそんなに集まってないしトンガリの集団も小さい。浅い場所だからね。街で必要なパールは大体三十個ぐらいだしそれなら集まるからね」
パール自体は古くから南方諸島では浜辺に打ち上げられたり岩場で見つかっていた。価値があるように見えなかった事で神殿に奉納する習慣が生まれた。
子どもたちもパールを見つけるとワイワイと騒ぎながら神殿に奉納していた。子どもたちの場合は果物などがお返しで貰えたので一種の宝探しだった。
いつの頃からか夏本番の祭りでパールが重要な役割を持つようになった。
祝い事のあった家はパールを神殿に奉納する。不幸があった家は神殿で祈り神殿長からパールを受け取り故人の冥福を神殿で祈る風習だった。
わざわざ祭りで女性にパールを渡す男性もいる。これは婚姻の申し込みで女性が受ければ二人で神殿に奉納した。婚姻を女神様に伝えるという意味があった。
神殿としては持ち出しが少なくなることを女神様に祈っている。持ち出しが多い時は不幸が多く逆であれば祝い事が多いという事に繋がるからである。
ただこのパールの流れも多少人為的であった。出産など祝い事の情報が入るとパールをその家庭に届けていた。それが戻ってくるという風習でもあった。
リーグたちは神殿用のパールを奉納するためにパールを集めている。神殿の持ち出しに備える物ではあるが神殿に残ったパールは最終的に女神様へ捧げられる。
リーナは捧げられるパールが多い年は笑顔で少ない年はしょんぼりしていた。それを見てきたリーグは嵩増しでもパールを神殿に入れたかった。
「でもさー、ここでみんながパールを集め始めたのは去年からでしょ? 去年は突然持ち帰ったのに冒険者ギルドに結構な人が集まったのってなんでだろ」
リーナはパールを求めて冒険者ギルドに来る男性たちの圧に引いていた。
「あーそれかぁ。俺たちが四月ほどここに閉じ込められたでしょ? あの時は目立った状態で環礁ベリーとパールを持ち込んだから噂が凄かったでしょ?」
「凄かったねぇ……暴風で足止めされただけなんだけど……凄かったね」
環礁を見つけたリーグたちは亀裂を探すのに時間を取り過ぎていた。暴風の巣という立地を知らなかった事もあり完全に環礁の中に閉じ込められた。
リーグはリーナから暴風の警告を受け帆船の保護を最優先にした。全てのステイを外しブームとマストを外した。最初の暴風は水壁で守りきった。
二つ目が来る前にラグーン内の洞窟状になっている小さな礁島に帆船を詰め込みロープでガチガチに固め何個かの暴風はその中で過ごした。
帆船の安全を確保したのでそれ以降は亀裂の一層を生活拠点とした。
毎日暇だったのでリーナと二人で一層を探検して遊んでいた。その遊びの中でパール集めや環礁ベリーを見つけたり『青いサンゴ』を見つけた。
暴風の季節が終わり久しぶりに帰れば大騒ぎになった苦い過去だった。
「あれさぁ……男性が女性にパールを贈るのはかなり前からあったんだって。でも拾えるか運次第でしょ? だから手に入るって噂が流れて男性が集まったの」
「なんでそこだけロマンチストなの?」
騒ぎになった顛末を聞いたリーナ自身はパールを買う事は悪い事とは思っていなかった。ただどうしてもそこにロマンを求める男性心理が分からなかった。




