第十九話
通路の洞窟を抜けると青空と煌めく巨大なラグーンが目の前に広がった。あちこちにある岩場やリーフが海面の上に顔を出しお互いが繋がっていた。
海面は薄い青が多く全体的に浅瀬になっている事が分かった。
砂浜も点在し大きな礁島はちょっとした陸地になっていた。つまりある程度の移動は陸上となるが水中を移動する必要もある構造になっていた。
「前と少し地形が変わってるね。リーフの繋がりを見ると右側の方が移動しやすそうに見える。ということで左側に向かおうか」
リーグは周囲を確認して進む方向をざっくりと決めた。
「そうね。環礁ベリーは結局のところ少し奥まった場所だから左側を軸にして駆けていく感じでしょ? そこまでみんな入れてないから適当で良いと思うよ?」
リーナの返しに「そうだね」とリーグは答え海水の中に足を入れた。
「特に海中探査で不審な物はないからあそこのリーフまで一気に移動しよう。トンガリは面倒だから水壁で足を止めたら放置で良いよ」
リーグは水壁を展開し水色の板の上を駆け出した。リーナも風壁を展開してリーグの後を追って空中を駆け始めた。
リーグが使う水壁とリーナが使う風壁は属性違いの同系統の魔法である。比較的新しい魔法とリーグが貰った大全シリーズには記載されていた。
特性は片面が防御面と呼ばれる壁となっていて裏側には壁の効果がない片方向の防御用魔法に分類され両面が防御面の防壁と区別されていた。
二人が防御魔法を使い空を駆けている理由は工作魔法大全が原因である。工作魔法は水壁を色々な用途で形を変えた発動をさせる方法論の解説書だった。
序文に『水壁を工作用途に改変している』と書かれていた。リーグは工作に使える魔法と知り大全を読み込んで工作魔法を習得していた。
リーグにとり工作魔法大全の著者も興味の範囲だった。それは工作魔法を作り出した人の名で『ルクレイ』とだけ書かれていたのだ。
リーグは『ルクレイ』という名を大全を読む前から知っていた。その名は環礁の話を子どもの時に聞き発見者の名前として『ルクレイ』と覚えていた。
リーグが帆船を作り始めたのは八歳からである。この環礁の話を聞き夢に見て自分の作った帆船で辿り着き発見したいと強烈に願ったからだった。
環礁の名は『フィリーエル環礁』といった。
解体して出た木材を使いコツコツと帆船を建造していた。運よく貰えた竜骨は5mほどで本来の竜骨の前半分だった。それを時間を掛けて削っていった。
リーナはそれを呆れた目で見ていた。それでもコッソリと知り合いの船乗りなどに話を流していった。その頃から木材を貰いやすくなっていった。
最初の帆船が完成するのに一年掛かった。全体的に見窄らしくマストも歪んでいた。それでもリーグは胸を張って船を海に出した。
最初の船出からリーナは乗り込んでいた。祝福の儀も受けていないのにリーナは風が詠めた。リーグに風の気持ちを伝え帆は力強く船を進めた。
そしてリーグは次の帆船の建造に取り掛かった。そうして十歳になるまでに三隻の帆船を建造した。どれも形が違う不揃いな帆船たちだった。
祝福の儀で水属性を与えられたリーグは神殿で風属性を与えられたリーナと大全を読んで魔法の習得に邁進した。
リーナはやはりというか風巫女と認定された。元から風詠みができた事から当然の結果である。そして巫女の高い魔法適性で風魔法を覚えていった。
周囲が驚いたのはリーグである。リーナの習得速度に引けを取らない速度で水魔法を覚えていった。造水で水が出せれば航海が楽になると喜んでいた。
リーナはリーグの習得を当然と受け止めていた。試験航海で明らかにリーグは海流を詠んでいた。海流の変化を操船に反映しているのをリーナは見ていた。
散水を覚えれば水浴びできると喜び神殿の庭で子どもたちに水浴びさせて一緒に遊んでいた。そんな日を過ごし水壁まで覚えた。
そしてまた帆船の建造と試験航海の日々に戻った。
ある日、リーグが最近拠点としたリーフの建物に飛び込んできた。編み物をしていたリーナが目を丸くしていると『工作魔法大全』という本を見せてきた。
「この本を貰ったんだけど凄いよ! これ水壁を工作用に改変して工作するのに活用する方法が書かれてるんだ! 絶対覚えて工作に活用する!」
リーグは興奮しながらリーナにまくし立てた。リーナはまた海難事故に遭った帆船と出会ったのかという思いとよく色々と貰ってくるなと感心していた。
「それとね……この本の著者名が『ルクレイ』だったんだ。あの環礁を見つけた人とたぶん同じだよね? これは環礁へ行けという女神様の伝言だと思う!」
リーグの言葉にリーナは目を丸くした。そしてリーナは何となく『女神様の暇潰し』の方ではないかと考えていた。確かに暇潰しになりそうな状況だった。
そして工作魔法を習得したリーグの帆船試作が加速した。
リーグに木材を融通している造船工房ではリーナと造船工房主と製材工房主が苦笑いをしていた。木材消費量の増加に対応するための打ち合わせをしていた。




