第十八話
南方諸島にある環礁に朝日が差し込んだ。環礁内のラグーンは穏やかな波で光を受け取りあちこちに煌めきが生まれていた。
環礁は穏やかだが定住する者はいない。
夏本番の季節になると暴風の発生源からどんどん暴風が送り込まれてくる。暴風は南方諸島全体に広がっていくため夏は風巫女もかなり忙しい生活となる。
煌めく海面を一枚のサップがリーグとリーナを乗せて移動していた。リーグが前に座りパドルを漕いで後ろでリーナが煌めく海面を眺めていた。
「今日は穏やかみたいだから環礁ベリーを中心に集めようね。持ち帰る分は乾燥させるから生はここでしか食べれないし。サンゴも状況は確認しよう」
リーグが漕ぎながらリーナに話しかけた。
「それでいいよー。群生地はちょこちょこ動くしどうせ少し奥だから早めに場所は確認しないとだよね。パール貝も集まってるから確認しておいてね」
リーナはリーグの予定を了承し明日のために情報を集めておくように指示した。リーグも役割なので「あいよー」と軽く答えた。
目的のポイントに来ると何個かブイが浮いていた。一つのブイとサップをロープで繋ぎパドルをサップに固定した。
「それじゃ行こうか」
リーグがサップの横に水壁を出してサップを降りる。重心が後ろに寄るがリーナは手で前に荷重を掛けて立ち上がりリーグの手を取り水壁に移った。
リーグは防御用の水壁を発動し海中に階段を展開した。海中の水壁は視認が難しいため二人は手を繋ぎ海中に伸びる階段を降りていった。
亀裂の入口は海底にあるには違和感の多い建造物である。左右は垂直な壁で床も綺麗な石畳のように見える。どうやっても壊せないためよく分かっていない。
加えて壁は仄かに光り暗闇にならない点も疑問しかなかった。しかし何回も入っている二人は灯光魔道具を起動して展開している水壁の上を歩いた。
「王国のダンジョンってどんなんだろうね」
リーナは暇な通路部分で雑談を始めた。
「どうなんだろうねぇ。冒険者ギルドは構造は同じって言ってるからそうなんだと思うよ。そこに嘘を混ぜても意味ないし。ただ海中はここだけらしいよね」
お互いが知っている情報は同じなのでダンジョンネタは不毛ではあるがリーグは聞かれたので答えた。
「海の中にあるダンジョンを見つけるの大変だよね。ここだって探すの大変だったじゃない。リーグが『探す!』とかいうから巻き込まれたし」
そしていつものようにリーナはリーグの興味に引きずられて大変だった話を持ち出した。リーグは慌てて「あの時はごめんねー」と眉を下げた。
「環礁ベリーは美味しいし『青いサンゴ』のイヤリングはお気に入りだから怒ってないよ? 乾燥貝柱だって美味しいからね」
リーナは髪に隠れた耳に触れた。最初に作ったイヤリングは大きく目立ち数人の商人が気の迷いでリーナを襲撃して海の底に消えた。
南方諸島で巫女を襲撃すれば死罪確定である。それを知りながら襲撃した商人たちは海に沈められフェルノート王国に強い警告が送られた。
そもそも風巫女は風属性を海巫女は水属性を創世の女神から与えられる。そして魔法適性が高いのが常のため自衛手段を全員が持っていた。
リーナはリーグと相談しイヤリングを小粒な物に作り直した。使わなかった方は一つのイヤーカフにしてリーグが身に着けていた。
この襲撃事件により『青いサンゴ』を神殿や行政機構が認識した。環礁が見つかった事も知ったが場所を聞いて大々的な発表を見送った。
その後はリーグたちに航路の開拓が任され熟練船乗りが航路の確認をした。現在使われている環礁への航路は一つのみで二人の船乗りだけ行けるようになった。
環礁をリーグたちが発見して二年が経っている。にも関わらず未だに少ない冒険者が細々と活動しているだけに留まっているのは難しすぎる航路が原因だった。
リーグとリーナは環礁ベリーの群生地がありそうな場所の話に切り替えた。洞窟状の通路の先に一層へ続く出口の明かりが突然生まれた。
二人は見慣れた変化を気にもとめず一層に入った。




