第十四話
正確な場所も名前もない大海の中にポツンとある浅瀬に投錨して一晩過ごしたリーグとリーナは朝から全身丸洗いで目を覚ました。
「夜中に風止んでたから暑かった」
「春の季節から夏に変わるから風も一休みして英気を養うからねー。風が変わるまでに一月は切ったみたいだし環礁の人たちも引き上げる時期だね」
海上でも風がないと日が落ちた後も暑い。
風の境目を越えた東側は季節的に強弱はあれど風は常に動いている。夏の季節に入るとこの海域は風がとても弱くなる。今はその狭間だった。
二人は朝食として昨日の魚の切り身を冷却保管箱から出してもぐもぐしていた。単調すぎるのでリーグはお湯を沸かし身を通して熱入りの身も食べていた。
「そういえば今回のお迎えって誰の船なんだろ。去年の今頃だと先導の話は来てたよね? 先導なしで航路が分かる人ってゼナさんとデンさんだけだよなー」
なんとか皿の切り身を食べ切ったリーグはガフセイルを上げ始めた。まだ風は夜の名残で弱いが鐘半分もしないで北から吹き下ろし始めると分かっていた。
「あれ?……ゼナさんはナリュー島に商人を案内するって言ってたしデンさんはブーレン島に物資補給が入ったってちょっと前に慌てて準備してたよ?」
二本のハリヤードをグイグイ引いてガフを上げていたらリーナが朝食の片付けを終わらせ会話の続きを始めた。ベテランの二人はリフールを出ていたようだ。
ジャックラインを引いてガフセイルのラフを調整し終わったリーグはクリートに掛けてリーナの方に眉を寄せた顔で振り向いた。
「……まずくないか? 俺の微かな記憶だと環礁から戻るには最低でも中型のカッターが必要だ。でも桟橋にいたのは小型がほとんどだったはずだよ」
リーグはリーナに話した後は船首に向かった。
「えっと……確かにいつも通り大型は出払ってるわね。中型は二隻ぐらい残っていたはずだけどリーグに声が掛かってないなら予定に入ってないかもしれないわ」
錨のロープをグイグイ引きリーグは錨を引き上げていた。小さいとはいえ錨は錨なので体格がまだ少年のリーグには重労働だった。
「風の境界まで戻ればリフールに戻れるから八日ぐらいと考えて風が変わるまで三週間とするとかなりギリギリだな。環礁は二日か三日で一度戻るか」
引き上げた錨をバウに固定しロープを束ね手すりのフックに留めた。リーグは日の位置をチラッと確認し水壁を展開して右舷を押して左に向きを少し変えた。
「パールマシマシでも二日あれば環礁ベリー込みで収納空間は一杯になるよ? もし『爽快の実』を誰も欲しがらなかったら半日でもう持ち帰れなくなっちゃう」
困った顔もしないで困った振りをしたリーナはメインシートの固定を外してメインブームを左舷側に「えぃ!」と押し出した。
「いやいやいや、無理やり押し付ける選択肢を捨てちゃダメだよ。あわよくば持ち帰ろうなんて絶対に熟れちゃうよ?」
ガフセイルがシバリングし始めたところでピークハリヤードをリーグは引いてリーチの張りを整えスロートハリヤードとジャックラインを最後に確認した。
ガフセイルが風を流し始め小型帆船は停泊地にした浅瀬から東に向かって動き出した。北からの風はまだ弱いがリーグがジブセイルを出すと帆走し始めた。
北の風が押し寄せ始めると小型帆船はグングンと海面を進んだ。右舷側で荷重を船の外まで出しヒールを抑えているリーグとリーナは笑顔で雑談していた。
ここまで北風が優勢になると巻く事もほぼない。そのため風向きの変化を感じたリーナがティラーをちょこちょこっと動かしセイル操作なしで疾走を維持した。
水平線に小さな違和感が見えてきた。ほんの少しだけ歪みが見え遠くの島影と分かる。リーナはティラーを操作しリーグは少しだけシートを動かした。
薄い島影がしっかり見え進路はまだ見えない環礁の入口に向いていた。
2026/08/19 少し推敲しました




