6:アジト急襲・白き剣
「こいつ、どこから入り込みやがった!」
「相手は一人だ! 全員でかかれぇ!」
「ハハハハハ! 遅い、軽い、弱い!」
「「ぐわああああっ!」」
盗賊たちが束になってかかろうと、魔物のスタンピードを一人で乗り越えたベルグの敵では無かった。
剣の一振りで数人が吹き飛び、壁に叩きつけられて意識を失う。
胴体への一蹴りで胸当てが凹み、膝をつき、色のついた液が逆流して口から零れる。
盗賊たちは、自分たちが相手にしているのは人の形をした獣か何かのように感じていた。
「向こうは大丈夫だろうか⋯⋯。まぁ、あのアリサなら大丈夫だろう。後はこっちだな」
ベルグは扉を見つけては蹴破り、視界に収めた盗賊は一人残らず意識を刈り取っていった。
もはや歩く災害と化しながら、ずんずんとアジトの奥へと歩を進め、そして一際頑丈そうな鉄の扉のある部屋へとたどり着いた。
「⋯⋯うん、多分ここだな」
数回ほど蹴りつけるが、鉄の扉はびくともしなかった。
そこで、ベルグは剣の柄に右手をかけ、左手で鞘を支えて腰を落とした。
その構えは、どこからどう見ても《居合の構え》だった。
「確か、東方の英雄は⋯⋯、⋯⋯こうして⋯⋯」
ぶつぶつと呟きながら位置取りや手の位置などを調整し、そして、目にも止まらぬ抜刀術⋯⋯ならぬ抜剣術を叩き込み、鉄の扉を真っ二つに斬り裂いた。
「よし。上手くいったな!」
ベルグは満足そうに頷くと、倒れた扉を踏みつけながら中へと入った。
部屋の中には、いかにも偉そうな男が高級そうな椅子に座って偉そうにふんぞり返っていた。
「お前がここの盗賊団のボスだな?」
「⋯⋯誰だ、お前? 他人の家に土足で踏み入り、部下たちを蹴散らして、おまけに鉄扉まで斬ってくれやがって⋯⋯。高かったんだぞ、それ」
「そんなの、オレの知った事じゃないな。さぁ、大人しく降参しろ!」
「断る」
盗賊団のボスは、ワイングラスを傾けながら即答した。
「随分と余裕そうだな。オレを相手に、勝てると思っているのか?」
「ああ。お前が誰だか知らねえが、これだけは言える。⋯⋯お前は俺には勝てない」
そう言うと、ボスはすっくと椅子から立ち上がり、手に持っていたワイングラスをベルグに投げつけた。
ベルグはワイングラスをひょいと避け、真っ直ぐにボスを睨みつけた。
後方でワイングラスがパリンと割れる音が合図となり、ベルグは一気にボスへと距離を詰めた。
「はぁっ!」
「ふんっ」
ボスは双剣を引き抜き、ベルグの剣を受け止めた。
その後も剣戟が数度続いていき、互いに一歩引いて距離を取った。
「へぇ、やるじゃないか。これだけ剣を打ち合えたのは初めてだ!」
「ちっ。てめぇは獣か何かか? 俺の連撃を全部弾くとは⋯⋯」
「ハハハハハ! 良いぞ、もっとお前の力を見せてみろ!」
より興奮した様子で、ベルグはさらに突撃を繰り返した。
幾度も繰り出される鋭くも軌道の読めない斬撃に、ボスは双剣で手数が多いにも拘わらず徐々に押されていった。
「⋯⋯めんどくせぇなぁ!」
「おっと!」
ボスの剣先がベルグの前髪を掠め、体勢がわずかに崩れた隙を突いてボスはすかさず距離を取った。
「生憎、俺はビーストテイマーなもんでな。獣の相手は獣に任せるぜ」
「獣⋯⋯? ⋯⋯ッ!」
横の壁を突き破り、激しい音を立てながら、ソレは現れた。
一目見た第一印象は、二足歩行の竜。
竜の頭と鱗としっぽ、人のように進化した手先には巨大な鋼鉄の斧が握られていた。
「はぁーっはっはっはァ! 驚いたか? このキングリザードマンをテイムするのは、本当に苦労したんだ⋯⋯」
「キングリザードマン、か⋯⋯」
「どうだ、この圧倒的な力は! 羨ましいか? 羨ましかろう! 強い魔物を使役する⋯⋯。これぞ、ビーストテイマーの成せる技! ビーストテイマーこそが最強なのだ!」
「⋯⋯なるほどな。確かに、魔物を従わせるのは大したものだ。けどな、それはお前の実力じゃない」
「⋯⋯何だと?」
「お前はただ、魔物を従わせて戦わせているだけだ。決して自分が強くなった訳じゃない。その事に気づかないのなら、オレの敵じゃない!」
「うぅ⋯⋯! だ、黙れ! 黙れ黙れ黙れぇ! キングリザードマン! 存分に暴れろ! やつを殺せぇ!」
「ガオオオオォォォォンッ!」
ボスに命じられ、キングリザードマンはベルグに激しい勢いで襲いかかった。
ベルグは真正面から応戦するが、身体能力と武器の差により徐々に押され始めた。
そして、幾度かの剣戟の果てに、ベルグの剣が先に悲鳴を上げた。
──バキィィィン!
村人の形見とも言える剣が砕け散り、キングリザードマンのしっぽによる一撃がベルグの胴にクリーンヒットし、ベルグは壁に叩きつけられた。
「ぐぁはっ! っつぅ⋯⋯っ!」
全身を襲う激痛に耐えながら、ベルグはなおも立ち上がった。
柄だけとなった剣を手放さず、ぎゅうっと握りしめながら構えた。
「はぁ、はぁ⋯⋯」
「万事休すだな⋯⋯。心が折れてないのは賞賛に値するが、その折れた剣でまだやる気か?」
「⋯⋯ふっ。当然だ⋯⋯」
ベルグはニヤリと笑みを浮かべ、口内の血溜まりをぺっと吐き出した。
「確かに、強いな、キングリザードマンは⋯⋯。けど、それはキングリザードマンの力であって、お前の力じゃない⋯⋯!」
「ふん。言い訳か? それとも、負け惜しみのつもりか? どの道、お前に勝ち目は無い。いい加減諦めろ⋯⋯!」
「それは無いな⋯⋯。剣が折れても、腕が砕けても、諦めるという選択肢だけは、無いな⋯⋯」
「そうか。ならば死ね」
ボスは腕を振り、キングリザードマンは斧をベルグへ向かって振り下ろした。
だが、その斧は肉体を切り裂く事は無く、群青色の光に遮られた。
「──!」
「な⋯⋯っ!」
「⋯⋯ふっ」
右腕の聖紋が光を放ち、地下室が群青色に染められる。
ベルグの目の前に光が集まり、それは一振りの剣となって実体化した。
「⋯⋯この剣は⋯⋯」
ベルグはそっと手に取った。
冷たさは無く、逆に温もりすら感じられた。
剣というには軽過ぎるが、不思議と脆いというイメージは湧いてこなかった。
剣の表面に文字が浮かび上がり、すぐに消えたが、ベルグはその一瞬の間に文字の内容を読み取っていた。
──愛しき者に、相応しき剣を。
「⋯⋯そうか。お前は、オレを選んでくれたのか⋯⋯」
その一文に込められた想いを、ベルグは全てを察した。
胸の奥に、暖かい何かが込み上げ、全身へと広がっていくのを感じ取った。
やがて、周囲を照らしていた群青色の光は、ベルグが手にした白い剣に集束した。
その光景を見ていたボスは、震える指で指しながら叫んだ。
「な、何だ⋯⋯? 何なんだ、その剣は⋯⋯!」
「待たせたな。終わりにしよう⋯⋯」
ベルグはボスに向かって、ゆっくりと歩を進めた。
「く、来るな! き、キングリザードマン! やつをくびり殺せぇ!」
「──!」
キングリザードマンは斧を振り上げ、真っ直ぐにベルグへと襲いかかった。
だが、ベルグが白い剣を振るうと、斧は剣が触れたところからバターのように溶け、スパッと切れて地面に落ちた。
その後も二度三度と剣が空を斬り、キングリザードマンは物言わぬ肉塊と化した。
「あ、あぁあぁあぁあ! 俺の、俺のキングリザードマンが⋯⋯!」
「うん、良い感じだな。後は⋯⋯」
「ひ、ひぃっ!」
ベルグと目が合うや、ボスは一目散にその場から逃げ出した。
部屋を出るや、ボスはベルグの後を追ってきたアリサと鉢合わせした。
「っと。こいつは⋯⋯」
「〜〜〜っ! 邪魔だ、女ァァァッ!」
「む⋯⋯」
ボスは半ば暴走気味に双剣を振るうが、二本の片刃はアリサに届くことは無かった。
「せいやぁっ!」
「がぁ⋯⋯っ!」
双剣はあっという間にはたき落とされ、腕を絡み取られて壁に顔面を叩きつけられ、ボスはそのまま意識を失って地面に崩れ落ちた。
「全く⋯⋯。おいベルグ、こいつは盗賊団のボスだろう? 危うく逃げられるところだったじゃないか」
「⋯⋯アリサか? どうしたんだ、ここまで来て。エルフの奴隷はどうしたんだ?」
「ちゃんと救出したぞ。今は地上で、案内の男に預けてある」
「⋯⋯それ、大丈夫なのか?」
「心配は要らない。今の奴なら信用出来る。脅しもかけておいたしな」
「そうか⋯⋯。うん、上手くいったなら何よりだ」
「それよりもだ、ベルグ。その剣、どうしたんだ?」
「ん? ああ、これか?」
「ああ。そんな綺麗な剣、持っていなかっただろう? 戦利品か?」
「まぁ、似たようなものだな」
「?」
「何でもない。さ、地上に戻ろう」
ベルグは誤魔化すように言って剣を手放すと、剣は群青色の光の粒子となって宙に消えた。
「はぁ?! ベルグ、今の現象は一体何だ? 何故剣が消えたんだ?!」
「ハハハ。秘密だ」
「むぅ⋯⋯」
ベルグは気絶したボスを担ぎ上げ、地上へ向けて歩き出した。
アリサはベルグの回答に不満を感じつつ、その後に続いていった。




