4:人助け
「依頼の魔物がいるのはこの辺りか?」
「ああ。そろそろ見えてくると思うのだが⋯⋯」
晴れて冒険者となったベルグは、アリサと共に王都から北西方面の少し離れた場所にあるトリスト平原へとやってきていた。
元々はアリサが協会長から直接指名された依頼なのだが、そこにベルグもついてきた形である。
『最近、トリスト平原にアングリーボアの群れが棲みついてしまったらしい。アリサ、もし良ければ討伐してもらえないだろうか? ベルグ君も、アリサに同行して依頼を受けてもらえれば、他の冒険者たちに対しての実力の証明にもなる。悪い話ではないと思うが、どうだろうか?』
という協会長の一声で、ベルグの参戦も決まったのだった。
平原をしばらく探索していると、やがて目当てのものを見つける事が出来た。
「見つけたぞ。アングリーボアの群れだ」
「おお、あれがか! なるほど、村の周辺で見かけた猪程ではないが、相当に立派な魔物じゃないか! サクッと倒して、今夜は焼肉パーティーだな!」
「⋯⋯君の村周辺にいた猪の強さが気になるところだが、まぁ良い。それより、油断するなよ? アングリーボアの分厚い脂肪は元より、外皮を覆う毛皮も刃が通りづらい。急所をしっかり狙わないと、すぐに剣をダメにしてしまうぞ」
「ああ、それは大丈夫だ。猪の相手は慣れている。それよりも、あそこを見ろ。誰かが追われているみたいだ」
「何だと?」
ベルグが指し示した方を見ると、そこにはアングリーボアたちに追われている一人の男の姿があった。
「助けるか?」
「当然だ。どの道、私たちはアングリーボアの討伐にやってきたんだ。ついでにあの男も救出しよう。それに、何故あんなところに一人でいるのかも問いただしたい」
「そうか。なら、先陣はオレに任せてもらおう!」
「え?」
ベルグはその辺に落ちている木の棒を拾い上げ、まるで槍でも投げるかのようにぐっと構えた。
「とある国の英雄は、神秘の槍を投擲して魔物の大群を追い払ったと聞く。ならばオレもそれに倣い、ここで試してみようじゃないか!」
「な、何をする気だ?!」
「この一振りは、闇を払う聖なる槍! 神秘をまといて、我が敵を打ち払え!」
ベルグの声に呼応するかのように、右腕に聖なる紋様が群青色の光を放ち、構えた木の棒に集束していく。
そして。
「穿て聖槍! ブリューナク!」
神秘の光をまとった槍と化した木の棒は、ベルグの渾身の力にて打ち出された。
その切っ先は真っ直ぐにアングリーボアの群れに向かい、五つの光の矢へと分裂してそれぞれ着弾。アングリーボアを吹き飛ばした。
「うわわわぁぁぁぁっ!」
着弾した光の爆風によって、逃走中の男も足がもつれて情けない声を上げながら転んでしまった。
「何と無茶苦茶な⋯⋯!」
「よし、上手く行ったな! さぁ、行くぞアリサ! 突撃だ!!!」
「お、おい待て! ⋯⋯ええい、あのバカ!」
我先にと駆け出すベルグに、アリサもその後に続いて地面を蹴った。
ベルグはあっという間に男の元にたどり着き、今にも追いつかんとしていたアングリーボアの鼻っ柱に拳を叩きつけた。
「ふんっ!」
「ボオオァァァァッ!」
「おい、大丈夫か?」
「⋯⋯っ!」
「よし、大した怪我じゃ無さそうだな。今のうちにここを離れろ!」
男はベルグの声に押されてその場から離れた。
それを見たベルグは満足そうに頷き、アングリーボアを見やった。
「ひぃ、ふぅ、みぃ⋯⋯。数は残り七頭か。余裕だな」
鞘に収めた状態の剣を手に取り、剣が抜けないよう布をぐるぐると巻き付けた。
「毛皮が硬い魔物には、やっぱり力いっぱい殴るに限る! さぁ、殴り合いと行こうじゃないか!」
「ブギィィィィッ!」
突如始まったベルグとアングリーボアのどつき合いは、途中参戦したアリサの助力もあってものの数分で決着がついた。
「さて、ではこっちの質問に答えてもらうぞ」
アングリーボアをせん滅した二人は、逃走中の男を手当てしつつ尋問を行っていた。
もっとも、ベルグは尋問の経験も知識も無い。よって、全てをアリサに一任し、自身は周囲の警戒に努めた。
「⋯⋯アンタら、強いんだな」
「それなりにな。それよりも、どうしてこんなところにいた? ここは街道からもだいぶ離れているし、凶暴な魔物もうじゃうじゃといる。それだけに、一部の屈強な冒険者たちにとっては格好の狩場だが、それ以外の人間にとってはただの危険地帯だ。お前は、それほど実力があるようには見えないが?」
「⋯⋯ああ、そうさ。俺は、ただの臆病者だからな」
「どういう事だ?」
「俺は、この辺を根城にしている盗賊団の一員だったんだ。だが、とある仕事で失敗し、ボスの手によって魔物の集団へと捨てられちまった⋯⋯」
「なるほど⋯⋯。それで、アングリーボアに襲われていたのか」
「あぁ⋯⋯」
男は観念したのか、驚く程にあっさりと秘密を暴露した。
その様子から、二人は男が盗賊団から捨てられたというのは本当である事を確信した。
「⋯⋯盗賊団の規模はどれくらいだ?」
「だいたい十人くらいだが⋯⋯。おい、何を考えている?」
「十人前後か。であれば、問題無さそうだ。ベルグはどうだ? やれそうか?」
「盗賊だろう? もちろん余裕だ。村にいた頃は、村を襲う盗賊の集団も蹴散らしていたからな」
「⋯⋯そうだった、愚問だったな」
「あんたら、もしかしてあいつらを倒しに行くつもりなのか?」
「そうだ。盗賊団が近くにいると分かった以上、放置は出来ない。案内してもらおうか」
「⋯⋯無理だ、あんたら殺されるぞ」
「ほう? 私たちでは勝てないと?」
「ああ。ボスはビーストテイマーでな。そこらの冒険者程度じゃあ束になっても敵わない、凶暴な魔物を飼い慣らしているんだ」
「⋯⋯ほう」
「分かったろ。あんたらもアングリーボアの群れをせん滅出来るくらいには強いみたいだが、アレはそんなものとは強さのケタが違う。行くのは止めといた方が⋯⋯」
「それでも行くぞ。それを聞いて、ますます放置出来なくなった」
一度やると決めたアリサの決意を否定する言葉を、男は持ち合わせていなかった。
男はふぅ、とため息を吐いた。
「⋯⋯止めても無駄みたいだな、分かった。どの道、行くとなったら今のタイミングしかないだろうしな」
「どういう事だ?」
「明日には今のアジトを捨てて、拠点を移すつもりなんだよ。今あいつらは、《エルフの奴隷》を抱えてる。そいつを他国に売っぱらうついでに、国境を超えるつもりなんだよ」
「そうか。ならば、尚更急がなくてはならないな」
アリサの目付きが変わる。
ベルグもその事に気づいたが、あえてそこには触れず、いつものように軽快に話しかけた。
「盗賊退治か。村にいた頃は守るために応戦していた感じだったが、こちらから打って出るのは初めてだ。過去の英雄たちも、物語の序盤では盗賊退治をしている者が多かった。オレもそんな英雄たちと同じ道を歩めるのだと思うと⋯⋯、なんだかワクワクするな!」
「⋯⋯こいつは一体何を言っているんだ?」
「気にするな、いつもの発作だ。さぁ、案内してくれ」
盗賊退治に目をキラキラと輝かせるベルグの様子を、アリサと男は遠い目をしながら見ていた。
二人は男の案内に従い、盗賊団のアジトへと向かうのだった。




