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勇者の子  作者: おかやす
9/12

09.星籠日(ほしこもりのひ)の朝

「なんか、忙しすぎー」


 五日間学校へ通って、明日はお休みになる土霊日(つちのひ)の夜。

 リーゼお姉ちゃん、コン兄ちゃんと一緒に晩ご飯を食べながら、私はため息をつきました。


 一週間は六日間、一か月は五週間、一年は十二か月。

 それが王国の暦で、この大陸のほとんどの国が同じ暦を使ってます。私が住んでいた村も同じだったから、それについては問題ないんだけど。


 毎日早起きして学校へ行く。

 お昼過ぎに帰ってきて、お店の手伝いと宿題をする。


 それが、なんだかすごく窮屈(きゅうくつ)というか、忙しく感じた一週間で、私はくたくたになっちゃいました。


「島ではのんびり暮らしていたものね」

「ミラはお寝坊さんだったからなぁ」


 島で暮らしていたとき、魔法使いの弟子だったリーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは、夜明け前から夜遅くまで忙しくしてました。

 でも、私は目が覚めたら起きて眠くなったら寝る、て感じ。お習字の時間は決められていたけれど、それ以外はわりと好きなことをしてました。

 もちろんおうちの手伝いはしていたけれど、魔法使いのお仕事は私にはできないから、やれることはあまりなくて。ずっとそんなふうだったから、きっちり時間が決められた生活って、すごくしんどい。


「ま、慣れるしかないわね」

「そうなんだけどぉ」


 慣れるのかなあ、これ。

 ちなみにリーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは、「王都に来てから、なんかのんびり暮らしてる感じ」なんだって。魔法使いの弟子って、ほんとに忙しかったんだね。


「で、学校はどーなんだ。友達出来たか?」

「うん、できたよ」


 ミラルダ、カミラ、ミラリス、アルミラ、ミラベル。

 名前に「ミラ」が入っている五人が、「今日からミラーズの一員よ!」と言ってくれて、それがきっかけでみんなが仲良くしてくれました。


 だけど――隣の席のユウガくんとは、まだあまり仲良くなれていない。

 授業中はすごく親切なのに、休み時間はどこかへ行ってしまう、ていう感じがずっと続いているの。なんなのかなあ。


「そうねえ……ひょっとしたら、ミラがあんまりにもかわいい女の子だから、恥ずかしがって逃げちゃってるのかもよ?」

「えぇー」

「いやいや、それはねえって。ミラはそこまでの美少女じゃねえよ」


 コン兄ちゃんが、ぎゃはははっ、と笑いました。

 ちょっとムッとしたけど。

 すぐに、げしっ、とすごい音がして、コン兄ちゃんが「うがっ」と変な声をあげました。


「まったく。デリカシーのないお兄ちゃんね」

「リゼ、おま……靴の先で向う脛を蹴るのは反則……」


 痛そうだなー。でもコン兄ちゃんが悪いんだから、仕方ないよね。べーだ。

 でも。

 コン兄ちゃんの言う通り、私はものすごい美少女、てわけじゃない。美少女というなら、ミラルダの方が絶対そうだし。それに授業中は普通にお話ししてくれるんだよね。

 うーん、なんで休み時間はさけられてるんだろ?


「ま、焦っても仕方ないし。様子を見て話してみたら?」

「うん、そうする」


 とりあえず明日はお休みだし。

 来週また考えよう。


   ◇   ◇   ◇


 陽霊日(ひかりのひ)火霊日(ほむらのひ)水霊日(しずくのひ)風霊日(かぜのひ)土霊日(つちのひ)星籠日(ほしこもりのひ)

 一週間は、その六日間で一回り。一週間の最後の日は、精霊が星の(かご)でお休みする日で、だから人間もお休みする日になった、て言われてるの。


 ローワンの木の精霊も、明日は星の籠でお休みするのかな。


 寝る前にそんなことを考えたからかな。その日はちょっと不思議な夢を見ました。


   ※   ※   ※


 たぶんそこは、ニルヴァーナがある場所。

 でもお店の建物はなくて、お店のすぐ裏にある城壁も崩れていました。そしてお庭があるはずのところには、火に焼かれ、枝が折れて、ボロボロになったローワンの木が見えました。


 ひどい、誰がこんなことしたんだろう。

 ローワンの木の精霊、大丈夫なのかな。


 心配して見ていたら、薄汚れたローブを着てフードを目深にかぶった人が、ローワンの木に近づいていくのが見えました。


 たぶん、女の人。

 フードが風にあおられて、ちょっとだけ顔が見えました。透き通るような白い肌で、深い青色の瞳がとても神秘的。その目で見つめられたら、吸い込まれちゃいそうです。

 女の人はローワンの木の前に立つと、両手を合わせて静かにお祈りを始めました。そうしたら、ローワンの木がぼんやりと光り始めたの。


 ――お眠り、星の籠で。


 どこか遠くから、すごくきれいな声が聞こえてきました。たぶん、女の人の声。優しく語りかけるような、でも歌っているような、聞いていてうっとりしちゃう、とても素敵な声。


 ――静かに深く、安らかに。

 ――また芽吹く、その日まで。


 最初、女の人はローワンの木を治そうとしてるのかな、と思いました。

 でも、そうじゃなかった。

 このローワンの木は、傷つきすぎて、もう治せない。

 だけど焼け残った実があった。この木は枯れてしまうけれど、その実に宿る種が芽吹き、新しい木が育つように、てお祈りしてるんだ。


 ――新たに生まれる命よ。

 ――苦しみのない、平穏な世界で。

 ――どうか伸びやかに、そして健やかに。


 女の人は、すごく真剣にお祈りをして。

 最後に、ローワンの実を拾い、何かをお願いしていたけれど――それが何かは、聞き取れませんでした。


   ※   ※   ※


 キィィィーン――。

 頭の奥をかき回されるような、鋭くて高い耳鳴りがして、私は夢から引きずり出されました。


「うっ……わ……」


 耳がわんわん鳴る。なにこれ、どうしちゃったんだろう。うう、すごく頭が痛いよう。

 しばらくベッドでうずくまっていたけれど、全然治まらなかった。お日様出たばかりだけど――リーゼお姉ちゃん起きてるよね。

 私はなんとかベッドを降りて、一階に下りました。リーゼお姉ちゃんはまだ寝間着のままで、台所でハーブティーを飲みながら本を読んでいました。


「あら、おはよう。早起きね」

「うん……」

「……どうかしたの、ミラ?」


 リーゼお姉ちゃん、すぐに私がおかしい、て気づいてくれました。

 本を置いて立ち上がると、私のそばに来てくれます。私はリーゼお姉ちゃんに抱き着いて、ものすごい耳鳴りがして頭が痛い、て伝えました。


「耳鳴り?」


 リーゼお姉ちゃんが心配そうに私の顔をのぞき込んで、ハッとした顔になりました。


「ミラ、じっとしててね」


 そっと頭を抱きかかえられて、耳元で何かをつぶやかれました。これ、もしかして魔法かな。


「あ……」


 すうっ、と耳鳴りが消えました。頭痛もウソみたいになくなりました。すごい、魔法みたい。あ、魔法か。


「どう? 楽になった?」

「うん、ありがとう」


 頭痛は消えたけど、まだ耳鳴りが聞こえてる感じ。なんだかふらふらする。かぜ、かなあ?


「ここにいて。コニーを呼んでくるわ」


 コン兄ちゃん? なんでだろ?

 リーゼお姉ちゃんはすごく怖い顔をしていました。私を椅子に座らせると、台所を出て行って、すぐにコン兄ちゃんと戻ってきました。


「大丈夫か、ミラ」


 コン兄ちゃんも怖い顔をしていました。私が「うん、平気」て答えたら、ぽんぽん、て頭を叩いて、それから、裏口の扉の横にかけていた鏡を、こつん、と叩きました。

 鏡の表面が揺れて、お庭のローワンの木と、木のそばに立っている男の人が映し出されました。


「いるな。導師だ」

「そう……頼める、コニー?」

「ああ、ここで待ってろ」


 コン兄ちゃんはリーゼお姉ちゃんにうなずくと。

 私がいつもローワンの木に水をあげるのに使っている、じょうろを手に庭へ出て行きました。

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