表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の子  作者: おかやす
8/12

08.鉛筆

 教室には二人掛けの席が三列あって、私が座るように言われたのは真ん中の列の一番後ろでした。

 席は左側。右側の席には男の子が座っていました。


「帽子は脱いで、かばんは机の横のフックにかけてね。ユウガ、ミラに色々教えてあげてね」


 男の子は、ユウガ、ていう名前みたい。濃い茶色の髪で、少し癖っ毛。前髪がちょっと顔にかかってる。邪魔じゃないのかな。


「よろしくね」


 私が声をかけても、ユウガくんは黙ったまま。深い緑色の瞳で、私をじっと見ている。

 え、なんだろう。

 なんだか怖い顔してる。なんでこんなにじっと見てるんだろう。私、何もしてないよね?


「え、と……」


 戸惑っていたら、ユウガくんは「よろしく」と言って、ぷい、と目をそらしてしまいました。でも、横目でちらちらと私を見ている感じ。なんだか居心地悪いなぁ。


「さて、授業を始めますよ」


 いけない、準備しなくちゃ。一時間目は確か、算数だよね。リーゼお姉ちゃんのお手伝いをしているから、計算は結構得意なんだよね。


「はいみんな、鉛筆とノートを出してね」


 イザベラ先生の言葉に、私は「え?」と思いました。

 えんぴつ、て――何だろう。

 他の子を見ると、筆箱から細い木の棒を取り出していました。見た目は筆に似ているけど、さきっぽに毛がついていません。

 墨とかないけど、どうやって文字を書くのかな――そう思っていたら、みんなは木の棒をそのままノートの上で動かして、字を書いていた。ひょっとして木の棒の中に、墨がしみ込んでいるのかな。


「ミラ、どうしました?」


 きょろきょろしていたら、イザベラ先生に声をかけられました。

 どうしよう。筆じゃダメなのかな。でも私だけみんなと違うのを使ってもいいのかな。とりあえず、正直に言うしかないよね。


「あの……えんぴつ、持ってないです」

「筆記用具を持ってくるよう、伝えていましたよね?」

「はい。だから、その……」


 近づいてきたイザベラ先生に、恐る恐る筆巻きを見せました。イザベラ先生はそれを見て、あら、と目を丸くしていました。


「それなにー?」


 左の列に座っている男の子が、大きな声で聞いてきました。


「あの、筆、だけど……」

「ええーっ!?」


 クラスのみんなが、びっくりして声を上げました。


「筆、て絵を描くやつだよね?」

「算数の時間は鉛筆だよ」

「筆なんて、変だよー」


 筆って、変なんだ。どうしよう。鉛筆持ってないよ。算数の授業、受けられないのかな。

 どうしていいかわからなくなって、おろおろしていたら。


「変じゃないよ」


 ユウガくんが、すごくよく通る声で言いました。その一言で、騒いでいたみんなが静かになりました。


「東の方の国では、文字を書くのに筆を使うんだよ。そうですよね、イザベラ先生」

「ええ、そうですね」


 こほん、と咳払いをして、イザベラ先生が言葉を続けます。


「よく知っていましたね。ユウガが言う通り、東の国では筆で字を書きます。ミラが住んでいた村は、東の国との交流が深かったのでしょうね」


 さっきまで変だ、て言っていたみんなが、へえーそうなんだぁ、てうなずきました。

 筆は変、てわけじゃないみたいで、私はほっとしました。

 でも、授業はどうしよう。今日だけ筆でいいのかな。先生にお願いしたら、鉛筆を貸してもらえるのかな。


「はい」


 にゅっ、と鉛筆が差し出されました。

 びっくりして顔を上げると、ユウガくんでした。


「貸してあげるよ。今日はこれ使って」

「あ、ありがとう」


 棒の先っぽが削られていて、削られたところに黒い芯が見えました。そこで字を書くみたいです。


「消しゴムはここに置いとくから、いるときに使って」

「消しゴム?」

「……そこからか」


 ユウガくんが、やれやれって感じで肩をすくめました。


「え、と……ごめん」

「いいよ、教えてあげる。まず鉛筆の持ち方だけど……」


 怒っている、て感じじゃなかったけど、笑っている、てわけでもなくて。

 ユウガくんは淡々と、でもとても丁寧に、鉛筆と消しゴムの使い方を教えてくれました。


   ◇   ◇   ◇


 なんとか初日の授業を終えて、お昼過ぎに家に帰りました。


「あー、そうか。鉛筆かぁ」


 お昼ごはんを食べながら学校であったことを話すと、コン兄ちゃんは「しまった」という顔をしていました。


「気がつかなかったぜ。王都じゃもう普及してるんだな」


 コン兄ちゃんは鉛筆のことを知っていました。さすが、すご腕の職人さんです。


「コニー、鉛筆は作れるの?」

「やろうと思えばできるけど、高温の窯が必要だからなぁ。時間もかかるし、買ってきた方が手っ取り早いぜ」

「そう。まあ、他にも色々必要みたいだし、この後で買いに行きましょうか」


 イザベラ先生が書いてくれた、授業で使うものを書いた紙を見ながら、リーゼお姉ちゃんが言いました。

 鉛筆と消しゴムのほかにも、持っていないものがいくつかあります。今日はユウガくんに借りたけど、毎日借りるわけにはいかないから、早くそろえないと。


「思っていたより、色々といるのねえ」

「師匠のところには一通りそろっていたからな。思いつかなかったぜ」


 リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは、小さい頃にお師匠様の弟子になったから、学校には通ってない。だから二人が思いつかなかったのは、仕方ないと思う。イザベラ先生も、きちんと確認してお伝えしておくべきでしたね、て謝ってた。


「クラスのみんなとは、仲良くなれそう?」

「うん、たぶん」


 クラスのみんなはとても親切で、休み時間にたくさん話しかけてくれた。まだ名前を覚えられていないけど、早く覚えて友達になれたらいいな、て思う。


 でも一人だけ気になるというか、よくわからないのが、隣の席のユウガくん。


 鉛筆を貸してくれたり、使い方を教えてくれたり、授業中に困っていたらすごく親切にしてくれるんだけど、休み時間になったらすぐに席を立って、少し離れたところにいるの。他の子と話してる、てわけじゃなくて、なんだかじーっと私を見てる感じ。

 観察されてるみたい、て言えばいいのかな。なんでだろう?


 そういえば。

 授業が終わって帰るとき、お礼を言ったら変なことを聞かれたな。


「君、さ……何を連れてきてるの?」

「え?」


 質問の意味が分からず戸惑っていたら、「いや、いい。忘れて」て言って、さっさと帰っちゃったけど。

 連れてきてる、てどういう意味だったんだろう。

 ユウガくん、てなんだか不思議な子だな。でもとっても親切で、ものすごく物知りみたい。隣の席なんだし、仲良くなれるといいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いいじゃない、いいじゃない 淡い小さな恋の始まりかもしれないじゃない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ