表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の子  作者: おかやす
3/6

03.ローワンの木

 商業区の端っこ、王都をぐるりと囲む城壁のそば。

 私たちが住む「雑貨屋ニルヴァーナ」は、そんな場所にありました。


「見えた。あの建物ね」

「うわぁ!」


 そんなふうに声を上げたの、今日何回目かな。でも仕方ないと思う。だって雑貨屋ニルヴァーナの建物、とってもすてきなんだもの。


 赤い屋根の、二階建て。

 壁は真っ白で、太陽の光を浴びて輝いているみたい。

 一階のお店には、聖堂にあるような大きなガラスの窓。

 お店の入口には「NIRVANA」て書かれたおしゃれな看板。


 なんだか物語の中に出てきそうなお店です。今日からここに住めるなんて、夢みたい。


「なーんか、かわいらしい家だなぁ」


 コン兄ちゃん、ちょっと困った顔をしてる。コン兄ちゃんは「ブコツ」なものが好きだから、趣味に合わないんだろうな。


「ミラ、見える? 建物の隣にお庭があるでしょ?」

「……うん」


 私はちょっぴり緊張しました。

 リーゼお姉ちゃんが言う通り、お店にはお庭があって、そこには一本の木が立っていました。

 ローワンの木。

 あまり大きくはないけれど、白い花がたくさん咲いていて、とってもきれい。


「あの木にご挨拶するのが、最初のお仕事なんだよね?」


 小さい声で聞くと、リーゼお姉ちゃんも緊張した顔でうなずきました。

 実は、あの木は守りの木なの。お店とお店に住む人を悪いことから守ってくれる、強い精霊が宿っている、てお師匠様が言っていました。


「その精霊に挨拶するのが最初の仕事です。気に入られれば、色々と助けてくれるはずですよ」

「あのう……気に入られなかったら、どうなるんですか?」

「追い返されることはないでしょうが、日々、ちょっとしたイタズラをされるでしょうね」


 せっかく並べた商品がぐちゃぐちゃにされるとか。

 掃除したところに、ゴミをまかれるとか。

 楽しみに取っておいたおやつがなくなっているとか。


「ま、そんな感じです」

「……地味にイヤガラセじゃねえか」

「それが嫌なら、気に入られるようがんばってください」


 精霊は気まぐれで、何が気に入るのかなんてよくわからないんだって。だからリーゼお姉ちゃんもコン兄ちゃんも、お師匠様のお話を聞いて、困ったなあ、という顔をしていました。


「お師匠様は、気に入られていたの?」


 私が聞くと、お師匠様は肩をすくめました。


「最初は嫌われていましたねえ。毎日のように嫌がらせされましたよ」


 最初は、てことは、途中からは仲良くなったんだ。どうやったんだろう?


「なぁに、簡単ですよ。どちらが上か、()()()()わからせてやっただけです」


 お師匠様は「にっこり」と笑いました。

 うわぁ、て思わず声が出ちゃう笑顔でした。精霊様、どんなふうに「きっちり」わからせられたのか、ちょっと怖くて聞けなかったです。


「私の力じゃ、師匠と同じことはできないし。誠心誠意、ご挨拶するしかないけど……」


 リーゼお姉ちゃんが、ギュッと私の手を握りました。


「頼んだからね、ミラ」

「う、うん……」


 そう、私が緊張している理由はこれ。

 なぜかお師匠様が「ミラに挨拶させれば大丈夫ですよ」と言ったの。

 私、魔法も使えなければ、魔力もないのに。精霊の姿だって見えないし、そこにいると言われても気配を感じることすらできない。なんでお師匠様は、私なら大丈夫と言ったのかな。


「よーし、到着だ!」


 レオさんの合図で、馬車が止まりました。

 馬車が止まったのを見て、近所の人たちがなんだなんだと出てきます。リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは馬車から降りると、近所の人たちにお辞儀をしました。

 私も慌てて馬車を降りて、リーゼお姉ちゃんの隣でお辞儀をします。


「初めまして。病で引退した祖母に代わり、ニルヴァーナの店長となりましたリーゼロッテです」

「あー、同じく、店員のコンラートっす」

「あ、えっと、ミラです!」


 名乗り終えると、近所の人たちが小さく拍手をしてくれました。


「おお、婆さんから聞いてるよ」

「遠くから来たんだろ、大変だったね」

「何か困ったことがあったら、いつでも言いなよ」


 温かい歓迎にほっとしました。お師匠様、私たちのことをご近所さんに頼んでくれていたみたい。手加減、容赦いっさいなし、の厳しいお師匠様だけど、ちゃんと弟子のことを考えていたんだね。


「はい、ありがとうございます。若輩者ですが、今後ともよろしくお願いいたします」


 まずはご近所さんへの挨拶、成功。さすがリーゼお姉ちゃん、コン兄ちゃんだとこうはいかないよね。


「さて」

「頼んだぜ、ミラ」

「うん」


 いよいよです。

 ドキドキする胸を手で押さえながら、私は庭へと向かいました。

 手には細長いリボン。精霊への捧げものです。お師匠様に渡された、ローワンの実で染めた布から、リーゼお姉ちゃんに教えてもらいながら一人で作りました。


「精霊様、今日からここに住むミラです。リーゼお姉ちゃん、コン兄ちゃんともども、よろしくお願いします」


 私は手を合わせてお辞儀をすると、リボンを木の枝にかけました。

 何本も何本も作って、一番上手にできたものを選びました。気に入ってもらえるかな、とドキドキしながら巻き付けて、ほどけないようしっかりと結びます。


「……うん、できた」


 ほっと息をついて、もう一度木に手を合わせてから、私は振り向きました。


「リーゼお姉ちゃん?」


 少し離れたところに立っていたリーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんが、びっくりした顔をしていました。コン兄ちゃんなんか、ぽかん、と口を開けています。


「どうしたの?」

「いえ、その……」

「ミラ、おめえ……なんともないのか?」

「え?」


 二人とも、何に驚いているんだろう。ローワンの木を見てみましたが、別に変わったことはありません。結んだリボンが風に揺れて、なんだか楽しそうに踊っているように見えました。


「そっ……か、ミラなら大丈夫、て、こういうことだったのね」

「くっそ、度肝抜かれたぜ」

「私、失敗しちゃった?」


 不安になって聞いてみたら、リーゼお姉ちゃんは首を横に振りました。


「ううん、大丈夫よ。むしろ大歓迎してくれてるみたい。大仕事、お疲れ様」

「俺たちもミラのおこぼれにあずかれそうだ。やれやれ、一安心だぜ」


 リーゼお姉ちゃんに頭をなでられて、コン兄ちゃんとはハイタッチ。よかった、ちゃんとご挨拶できたみたい。


「おーい、荷物、運び込んでいいのかぁ?」


 馬車のところで待っていたレオさんが、大声で私たちを呼びました。

 お願いしたのは護衛だけど、荷物がたくさんあるから、家の中に運び入れるのも手伝ってくれる、て言ってくれたの。正直、大助かりです。


「ぐずぐずしていたら日が暮れるぞー」

「あ、はーい、ただいま!」

「よっしゃ、最後のひと踏ん張りだ。気合入れていくぜ、ミラ」

「うん!」


 ふわっ、と風が私のほほをなでました。

 なんとなく呼ばれているような気がして、私はローワンの木を振り返ります。


「精霊様、これからよろしくね」


 私の声に返事をしてくれたのか。

 風が吹いて、ローワンの木が優しく揺れていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ