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勇者の子  作者: おかやす
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02.破門

 二か月前、しばらく留守にしていたお師匠様が、久しぶりに帰ってきた日のことでした。


「リーゼロッテ、コンラート。ミラを連れて、王都に引っ越しなさい」


 リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃん、そして私の三人は、お師匠様に呼ばれてそう命じられました。いきなりのことで、三人ともびっくりです。


「ええと……お師匠様、どうしてまた急に」

「二人とも、魔法使いになるのはあきらめなさい、ということです」


 お師匠様にそう言われて、リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは泣きそうな顔になりました。でもお師匠様は、冷たい顔で続けます。


「魔法使いとして落第です。私の指導はここまで。破門です」


 手加減、容赦いっさいなし。

 それがお師匠様の育成方針。ダメ出しするときに、優しく言ったりなんかしないんです。


「断言します。これ以上がんばっても、あなたたちはたいした魔法使いにはなれません」


 お師匠様が、とどめとばかりにそう言うと、リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんはぽろぽろと涙を流しました。

 声を殺して泣く二人を見て、すごくかわいそうだと思いました。でも、弟子ですらない私には何もできません。


「中途半端な才能で魔法使いになっても、不幸になるだけです。ならばその()()()()の才能を生かして、堅実に生きる道を歩みなさい」

「わかり……ました……」

「これ……までの、ご指導。あざーしたっ!」


 二人が泣きながらお辞儀をすると、お師匠様は静かにうなずいて、帰ってきてから初めて優しい笑顔を浮かべました。


「王都に、私が経営している雑貨屋があります。当面はそこで生計を立て、どんな人生を歩むか考えるといいでしょう」


 ああ、それで王都に引っ越しなさい、なんだ。


「あの……質問、よろしいでしょうか」

「どうぞ」

「どうして、ミラも一緒に?」


 二人と違って、私はお師匠様の弟子――魔法使い見習いではありません。お師匠様、と呼んでいるのは、名前を教えてくれないからです。


「ミラはあなたたちに懐いていますからね。一人残されて寂しい思いをさせるぐらいなら、いっそあなたたちについて行った方がいいだろうと。そう思ったのです」


 お師匠様はお仕事で何日も帰らない、ということがしょっちゅう。リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんがいなくなったら、私は一人でお留守番することになっちゃいます。

 それは確かに、ちょっといやかも。すごく寂しいと思う。


「あの……師匠、いいっすか?」

「なんでしょう」


 今度はコン兄ちゃんの質問です。


「師匠はミラのこと、勇者様に託されたんですよね?」

「そうですよ。ですから、安心して任せられる二人にお願いするんじゃないですか」


 にっこり、と。

 お師匠様は極上のイケメン・レディ・スマイルを浮かべました。私、何か間違っていますか、なんて顔。こういう顔をしたお師匠様には、絶対逆らっちゃダメです。


「それに、こんな年寄りばかりの島にいては、ミラの将来が不安です。ミラ、王都へ行き、学校に通いなさい。そこで色々なことを学び、一人で生きていく力を身に着けるのです」


 もしも私に魔法の才能があったら、お師匠様は私を島に残したのかも。

 でも、私に魔法の才能はありません。そもそも魔力がないんです。お父さんは世界を救った勇者だけど、娘の私は、何の力もない普通の子供でした。


   ◇   ◇   ◇


「姉ちゃんたち、行商かい?」


 おやつを食べながら待っていると、前にいた男の人が声をかけてきました。四十歳くらいで、荷物をいっぱい積んだロバを連れています。たぶん行商の人です。


「いえ、引っ越してきたんです」


 リーゼお姉ちゃんが、にこりと笑って男の人に答えました。


「おや、そうなのかい。荷物が多いねえ。ひょっとして、いいところのお嬢様かな?」


 男の人が、ちょっと探るような目で見てきました。見ているのは――私? なんか嫌だな、て思って、気がついたら私はリーゼお姉ちゃんの服をつかんでいました。


「いえいえ、ただの田舎娘ですよ」


 リーゼお姉ちゃんは、私をかばうように抱きしめると、にっこり、て愛想笑いを返しました。


「実は、祖母がやっていたお店を引き継ぐことになりまして。荷物の半分は、売り物なんです」

「なるほど、お婆様のお店を」


 王都へ引っ越してきた事情を聞いて、男の人はうなずいていました。

 事情、と言っても、話したのはウソの事情だけど。魔法使いの弟子をクビになったから、ていうのは絶対言っちゃだめ、て言われています。なので、高齢で引退したおばあさんの代わりに、孫であるリーゼお姉ちゃんがお店を継いだ、てことになってます。


「しかし王都での商売は大変ですよ。どれ、私が少々アドバイスをして差し上げましょう」


 それから順番が来るまで、男の人は「王都での商売のコツ」をリーゼお姉ちゃんに話してくれました。リーゼお姉ちゃんはニコニコ笑って聞いていたけれど、後ろの馬車のコン兄ちゃんは、ちょっと不機嫌そう。


「雑貨屋であれば、凝った看板でお客様の気を引く、というのもよいかもしれませんな」

「なるほど」

「おっと、そろそろか」


 気がつけば列はずいぶん進んで、次が男の人の番でした。


「それじゃお嬢さん、がんばって。またお店にも寄らせてもらうよ」

「ええ、ぜひ。お待ちしております」


 男の人が行ってしまうと、リーゼお姉ちゃんはほっとした顔になりました。


「愛想笑い、て疲れるわ」

「ったく、あのエロオヤジ。リゼの胸ばっかり見やがって。ぶっ飛ばしてやろうかと思ったぜ」


 コン兄ちゃんがぶすっとした顔で言いました。

 リーゼお姉ちゃん、美人だからなあ。お店始めたら色々大変かも。

 そういえばお師匠様、よぼよぼのおばあさんに化けてお店をしていた、て言っていたっけ。お師匠様、見た目は三十歳ぐらいの、スーパー・イケメン・レディだから、用心して、かもね。


「さて、次は私たちね」


 ようやく私たちが呼ばれました。

 係の人に色々質問されて、馬車の荷物を確認されて、入都税を払います。王都に住む人なら払わなくていいんだけど、私たちはまだ住んでいないから払わなくちゃいけないんだって。


「住居を構えて三か月経てば、入都税はご返却します。申請時に支払証が必要になりますので、なくさないようにしてください」

「はい、わかりました」

「それでは……ようこそ、王都ラベーヌスへ!」


 係の人が元気よく告げると、王都に入る門が開かれました。

 その門をくぐり、私たちはついにラベーヌスに入りました。


「うわぁ!」


 私は思わず声を上げました。

 石畳の広い道。

 両側には、見たこともないような立派な建物が並んでいて、村では聖堂にしかなかったガラスの窓が、普通に使われています。

 道にはたくさんの人が行き交っていて、着ている服も、おしゃれで華やか。立派な鎧の騎士がいて、貴族みたいな人が普通に歩いていて――なんだか、夢の中にいるみたい。


「ミラ、口が開いてるよ」


 リーゼお姉ちゃんが、くすっと笑って、私の頬をつつきました。


「えっ……あっ、ごめんなさい!」


 あわてて口を閉じたけど、どうしてもきょろきょろしちゃって。だって、見るもの全部が初めてで、どれもこれもすごいんだもん。


「これからここに住むんだから。早く慣れないとね」


 広い道をまっすぐ行くと、大きな広場に出ました。

 広場の中心には、すごく大きな噴水。その噴水の真ん中には、ローブを着た女の人の銅像が建っていました。


「ミラ、あの銅像は、勇者様と一緒に戦った賢者様よ」

「え、賢者ミラリーヌ様!?」


 とても賢くて、たくさんの魔法が使えるすごい人です。そして「魔王」を倒す旅に最初から参加していた、お父さんのことをよく知っている人でもあるの。


「王都にお屋敷があって、住んでいるんだって。いつか会って、お話を聞けるといいね」

「うん」

「おーい、こっちだ。曲がるぞー!」


 先導していたレオさんに続いて、私たちの馬車も右に曲がりました。

 そこから、街の雰囲気が変わりました。

 道が少し狭くなって、ちょっとごちゃごちゃとした感じ。両側の建物はどれも屋根が赤色で、色々なお店がずっと続いていました。

 丘の上から見た、赤い屋根が並んでいる商業区。ここがそうなんだ。


「にぎやかで楽しそうなところね」


 破門された夜、枕に顔をうずめて大泣きしていたリーゼお姉ちゃん。

 でも今は明るい笑顔を浮かべていて、とても楽しそうです。


「よーし、私、がんばっちゃうからね。王都で一番有名なお店になって、お師匠様を見返してやるんだから」

「うん! がんばろうね、リーゼお姉ちゃん!」

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