01.到着、王都ラベーヌス
「わぁ!」
丘の上から見えた景色に、思わず声が出ちゃいました。
王都ラベーヌス。
広い草原を流れる大きな川。そのそばに、ぎっしり建物が並んでる大きな街。私が住んでた村なんて、百個ぐらい入っちゃいそう――そんな広くて、立派な街。
それに、街の真ん中に建つお城が、すっごくきれい。
青い屋根に、真っ白な壁。
太陽の光を浴びて、キラキラ光ってる。
想像してたよりずっとずっとすごくて、私は「すごい、すごい」って、はしゃいじゃいました。
「どうだミラちゃん。たいしたもんだろ?」
護衛のレオさん、ちょっと得意げな顔。レオさんは王都生まれの王都育ち。自分が育った街を見て私がはしゃいでいるからか、なんだか嬉しそう。
「うん、すごーい!」
「ミーラ、リボンがほどけちゃったよ」
「えっ!?」
お下げに手を当てて確認したら、リボンがありません。うー、ちゃんと結べてなかったのかな。
「はしゃぎすぎね」
手に持ったリボンをひらひらさせながら、リーゼお姉ちゃんがふわっと笑いました。
十歳年上で、栗色の長い髪がきれいな、村一番の美人なんて言われてた自慢のお姉ちゃん。
ふんわりしてる感じだけど、お金のことにはすごくしっかりしてるの。今回の旅でもしっかり旅費を管理してくれて、無駄遣いせずにここまで来られたのはリーゼお姉ちゃんのおかげなんだ。
「やっとここまで来たのねぇ」
私のお下げにリボンを結び直してくれた後、リーゼお姉ちゃんは王都を眺めながら、やれやれ、て感じで息をつきました。
「島を出て一か月。ほんと、遠かったねぇ」
「さすがにくたびれたぜ」
あくびをしながら私の隣に立ったのは、コン兄ちゃん。
リーゼお姉ちゃんより二つ年上で、金色のツンツン頭が目立つ、ちょっとやんちゃな見た目。村一番の暴れん坊、なんて言われてたこともあったんだ。
でも手先がすごく器用で、どんなものでも作れちゃう、すごい職人さんなの。旅の途中でも壊れたものをすぐに直してくれて、とっても助かったんだ。
「おー、すげー。これが王都かぁ」
「立派なお城ねえ。村の聖堂なんて、あれに比べたら小屋みたい」
「いや、比較するのは、さすがに気の毒じゃね?」
村の聖堂も立派な建物だったけど、王都のお城はもう別物。こんなに遠くからでも、あんなに大きくてきれいなんだもん。近くで見たら、もっとすごいんだろうな。
「ねえねえ、レオさん。私たちの家って、どのへん?」
「ん、そうだな」
レオさんはしゃがんで私と同じ目線になると、王都の方に手を伸ばしました。
「あのあたり……お城の右、手前。赤い屋根の家がたくさん並んでるところがあるだろう?」
「うん」
「あの辺が商業区でな。ミラちゃんたちのお店は、その端の方、城壁のすぐそばにあるよ」
王都の南門から入って、第二広場を右に曲がって、まっすぐ行った突き当たり――レオさんはそう教えてくれた。
第二広場ってことは、他にも広場があるのかな?
「ああ、全部で七つあってな。どの広場にも噴水と銅像があるぞ」
ちなみに、と。
レオさんが、ニヤッと笑いました。
「ミラちゃんが大好きな勇者様の銅像は、お城の西側にある、第四広場にあるよ」
勇者様――その言葉を聞いて、胸がドキンと高鳴りました。
◇ ◇ ◇
今から十五年前、世界を救った勇者がいました。
王都に住む、とある貧乏貴族の末っ子。十二歳の時に騎士見習いとなり、たった三年で正式な騎士になった、剣の天才。
そして十七歳になったとき。
「魔王」が現れて世界が危なくなり、「魔王」を討つために仲間と一緒に王都を旅立った。五年に及ぶ冒険を乗り越えて、ついに「魔王」と対決、見事に「魔王」を倒して世界に平和を取り戻した――そんな、偉大な勇者様。
それが、私のお父さんです。
だから、お父さんは世界中で有名で、知らない人なんていない。
でも「魔王」を倒してから私が生まれるまでの五年間、どこで何をしていたのか、誰も知らない。王都には戻らず、仲間とも別れてどこかへ行ってしまって、それっきり行方不明になってたんだって。
「人助けの旅をしていたようですよ」
私を育ててくれたお師匠様は、ちょっとあきれた顔で言っていました。
「しかしその挙句、自分の子供を育てられなくなるとは、本末転倒です。勇者ではなく、アホですね」
星がきれいな夜、お父さんは生まれて三か月ぐらいの私を抱えて、お師匠様のところへ来たそうです。そして、どうかこの子を守り育ててほしいって、お願いしたんだって。
「なぜ自分で育てないのです?」
そう聞かれても、お父さんは首を振るだけ。何度も聞かれて、怒られて、ついには殴られても、理由は言わず、ただ土下座して頼み続けたそうです。
「ま、勇者と呼ばれる男に土下座させた上に、好きなだけいたぶらせていただきましたし。仕方ないので引き受けましたよ」
それからしばらくたった、私が一歳になる少し前。
お師匠様のところに、お父さんが亡くなった、と知らせがありました。お母さんも後を追うように亡くなったらしい、てお師匠様は言っていました。
お父さんに何があったのか、お母さんがどんな人だったのか、私は知りません。お師匠様はいろいろ知っているみたいだけど、何も教えてくれませんでした。
「少々複雑でしてね。子供に聞かせるような話でもありませんし」
お父さんとお母さんのことを教えてほしいとお願いしたとき、お師匠様はそれまで見たことのない顔――すごく悲しそうな顔をしました。
「ですが約束しましょう。あなたが大きくなったら……そうですね、十八歳の誕生日になったら、お話しします。それまでは我慢してください」
お師匠様は「魔女の王」って呼ばれる、すごい魔法使いです。たとえ子供が相手でも容赦しないって、リーゼお姉ちゃんが言っていました。
そんなお師匠様が、あんな顔をして十八歳になるまで話せないって言うのなら、本当に複雑で――すごく悲しいお話なんだ。
そう思ったら、優しく頭を撫でてくれるお師匠様に何も言えなくなって、それっきりお父さんとお母さんのことを聞くのはやめました。
◇ ◇ ◇
お父さんが生まれ育った街。
とうとう来たんだって思うと、なんだか胸がいっぱいになりました。お父さんのことを知ってる人に会えたらいいな。どんなことでもいいから、お父さんのお話が聞けたらいいな。
「さあ、あと一息だ。行こうか」
レオさんに言われて、私たちは馬車に戻って、また進み始めました。
先頭が馬に乗ったレオさん、それに私とリーゼお姉ちゃんが乗る荷馬車が続いて、その後ろにコン兄ちゃんが乗る荷馬車。最後尾は護衛の人が乗る馬が二頭。レオさんが言うには、「なかなかの大所帯」なんだって。
「天気にも恵まれて、野盗にも遭わずに済んだ。幸運だったな」
「ええ、本当に」
リーゼお姉ちゃんが、私の顔を見て、にこっと笑いました。
「ミラがいい子だから、精霊様が守ってくれたのね」
それからたいして時間もかからず、王都の南門に着きました。門の前には、入門手続きを待っている、たくさんの人が並んでいました。
「これは少し待ちそうね。おやつでも食べようか」
「うん!」
甘い蒸しパンをほおばって、ニコニコ笑っているリーゼお姉ちゃん。
その顔を見て、もうすっかり元気になったんだ、よかったな、て思いました。




