24.守護の力
「あのブルーノ、てやつに、父ちゃんと母ちゃんが人質に取られてたんだ」
私を誘拐するのに協力しなければ、お父さんとお母さんの命は保証しない――ユウガくんはそう脅されて、仕方なくあの二人に協力した、て言いました。
「あの導師、おめーの叔父さんなんだって?」
「違う! あんなやつが俺の叔父さんだなんて、あるもんか!」
ユウガくんが、すごく怒った口調で言いました。
あの導師――グレゴールさんは、先週の星籠日に、ブルーノさんが連れて来たんだそうです。
先週の星籠日って――朝早く、うちの庭に来てた日だ。ニルヴァーナから立ち去った後、ブルーノさんと一緒にユウガくんの家に行ってたんだ。
「父ちゃんに弟がいたのは本当みたいだけど、俺が生まれるずっと前に行方不明になってて……ずいぶん探したけど見つからなかった、て言ってた」
「そう。ブルーノ、ていう人は、知り合いだったの?」
「父ちゃんが働いてるお店のオーナーだ、て言ってた」
「へえ。あのエロオヤジ、王都に店持ってたのか」
「でも、父ちゃんはいつも露天みたいなところで働いてて。あれが店だ、ていうのはちょっと変だな、て思う」
ユウガくんのお父さんは、元々はミラルダのお父さんが経営している商会で働いていた。
でもユウガくんが五歳くらいの時にブルーノさんと知り合って、倍の給料を出すからうちで働かないか、て引き抜かれたんだって。
「だけど、俺の父ちゃん、すげー仕事ができるってわけじゃなくて、どっちかっていうと失敗ばっかりしてて。そんな父ちゃんを引き抜くなんて、よく考えたらおかしいんだよ」
でも、今なら理由がわかる、てユウガくんが言いました。
「てゆーと?」
「父ちゃんがあいつのところで働くようになる少し前に……俺、魔力が暴走して事故起こしたんだ」
幸い人死には出なかったけど、何件か家が壊れて、ケガ人も出たんだって。
「たぶん、それを聞いて接近してきたんだと思う……俺を、何かに利用できると思って」
壊した家の弁償やケガをさせた人の治療費で、ユウガくんの家は大変なことになった。そんなときにブルーノさんから引き抜きの話が来て、倍の給料っていう条件に、ユウガくんのお父さんは飛びついてしまった。
「なるほど、弱みを的確に突かれた、てことね」
ユウガくん、悔しそうな顔をしてうなずきました。
「俺があんな事故を起こさなかったら、父ちゃんがあいつのところで働くことなんてなくて……ミラが誘拐されそうになるなんてこともなくて……」
ユウガくん、また泣いてしまいました。
ユウガくん、もう泣かないでよ。まだ小さかった頃のことでしょ? ユウガくんは悪くないよ。
「ひとついいかしら? 魔力が強いのなら、ましてや暴走して事故を起こしたのなら、教堂があなたを預かる、て言うと思うんだけど」
「うん、来てた」
リーゼお姉ちゃんの質問に、ユウガくんは涙をぬぐって、うなずきました。
「でも……俺のじいちゃんのこと知ったら……預かれない、て言われた」
「お祖父さん?」
「その、俺のじいちゃん……教堂の……大地派の、祭主だったんだ」
「まあ」
「祭主!?」
リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃん、びっくりしていました。そんなにすごいの?
「すげーなんてもんじゃねえ。大地派の、事実上のトップだ」
大地派で一番偉いのは、神様の力を持つ「神の乙女」。
でも特別な力を持つ人じゃないとなれないから、条件を満たす巫女がいないときは空位なんだって。
「だから『神の乙女』がいないときは、祭主が大地派の人をまとめてんだよ」
ちなみに天輪派だと、祭主じゃなくて教父、て呼ぶんだって。
あれ?
じゃあもしかして、ダイギョウ、て――。
「代行は、種子派のトップよ。どこにいるのかはわからないけど、たぶんピエドラの街にいるだろう、て言われてるわ」
ピエドラの街。
そこって「魔王」が現れた、ずっと西の街だよね。私、そんな遠いところに連れて行かれそうになってたの? そんなの、一人で帰れないよ。ユウガくんが助けに来てくれて、本当によかった。
「なるほど。大体つながったわ」
リーゼお姉ちゃんが、ふう、と息をつきました。
「ユウガくん、あなたはミラを守っている力に気付いた。それで、それをご両親に話した」
「うん。だって……あんな強力な守護、見たことなかったから」
「んで、その話を聞いたおめーのとーちゃんが、あのエロオヤジに話しちまった、てことか」
強力な守護がついている女の子なら、強い魔力を持っているはず。
ブルーノさんはそう考えて、私の誘拐を考えたんだろう、てコン兄ちゃんは言いました。
え、でも――。
「私に、そんなものがついていたの?」
でもリーゼお姉ちゃんが確かめてくれた時、何もついていない、て言ってなかった? コン兄ちゃんも確かめてくれたよね?
うう、なんでなのか聞いてみたいけど、ユウガくんの前じゃ無理か。二人が元魔法使いの弟子、てことは秘密にする約束だし。
「なあ、聞いていいか」
ユウガくんが、私を見て尋ねました。
「お前……ホントに見えてないの、あれ」
ユウガくんが指差したのは、窓から見えるローワンの木。
もしかして、精霊様そこにいるの?
「全然……見えない」
「マジで?」
「……うん」
「なんで?」
なんで、て言われても。私、魔力全然ないから。
「嘘だろ? 魔力ないのに、あんな強力な守護がついてるのかよ」
「もしかしたら、前の店主……私のおばあ様が何かしたのかもね」
リーゼお姉ちゃんが口をはさみました。
「実はおばあ様、魔法が使えたの。そのおばあ様に、王都に着いたらまずローワンの木に挨拶して、渡したリボンを枝に巻きなさい、て言われたわ。そうしたら精霊様が守ってくれるから、て」
以上、公式設定です――て、お師匠様なら付け加えるんだろうな。
「ミラは、そのおこぼれにあずかってる、てとこじゃねーかな。んで、ミラが学校へ行くときは、どーにかしてついて行ってんじゃねーの?」
何か心当たりがあるか、ていうコン兄ちゃんの視線。
うん――ある。
お守りのつもりで持ってた、ローワンの木の葉っぱ。あれしかないと思う。いつもエプロンのポケットに入れていたし。
「あー、あれか」
「昨日洗濯したエプロンにも入ってたわね」
そういえば昨日は、朝ごはんの時にスープこぼしちゃって着替えたんだっけ。慌ててたから、お守りの葉っぱ、洗濯したエプロンに入れたままだったんだ。
そっか、だからユウガくん「連れてきてない」って言ってたんだ。
「ひょっとして……学校に行ってるときは葉っぱで、家にいるときは本体で守る、て感じか」
「家を出るときに葉っぱに力を与えて、帰ってきたら回収、てところでしょうね」
あ、二人が調べても気づかなかったのって、そういうこと?
「あの……」
ユウガくんが、恐る恐るという感じで口をはさみました。
「お姉さんとお兄さんは、魔法が使えるんですか? 精霊様も見えているみたいだし、色々と詳しいみたいだけど」




