23.不思議な夢
※ ※ ※
真っ暗な空間に、ニルヴァーナのお庭が浮かんでいました。
お庭の中心に立っているのは、ローワンの木。木はぼうっと光っていて、なんとなく人の姿に見えました。
今なら、精霊が見えるかも。
私はドキドキしながらローワンの木の近づきました。
残念ながら精霊は見えなかったけど――代わりに、木のすぐそばに、フードを目深にかぶった女の人が座っているのが見えました。
あっ、て思いました。
前に見た夢の中で、焼け残った実にお祈りをしていた、あの女の人です。
私に気がついたみたいで、女の人が顔を上げてこちらを見ました。
深い青色の、神秘的な瞳。
その瞳に見つめられて、思わず立ち止まってしまいます。吸い込まれてしまいそう、て思いながら、ぼうっと見つめ返していたら、女の人が口を開きました。
――大丈夫。
声は聞こえなかったけど、たぶんそう言いました。何が大丈夫なのかな、て首を傾げたら、女の人の前に、人の形をした光が漂ってきました。
女の人は、それを両手で抱きしめ、そっと地面に横たえました。
「えっ!?」
びっくりしました。漂ってきた光は、ユウガくんだったんです。
ユウガくんは、とても疲れた顔をしていました。
光もすごく弱くて、向こう側が透けて見えています。このまま消えてしまうんじゃないか、て思ったら、ぎゅっと胸が苦しくなりました。
女の人が、ローワンの木にそっと触れました。
ローワンの木が、ざわざわと揺れました。木を覆っていた光が、女の人の手に集まっていき、大きな光の玉になりました。
女の人は、光の玉を手に取ると――そっと、ユウガくんの上に置きました。
光の玉が、すうっとユウガくんの中に入っていきます。すると、透けるほど弱い光だったユウガくんが、どんどん強い光になって、姿がはっきりと見えるようになりました。
――連れて帰ってあげて。
光の玉が全部吸い込まれると、女の人にそう言われたような気がしました。私はうなずいて、ユウガくんのそばまで行きました。
「あの……ユウガくんを助けてくれて、ありがとう」
私がお礼を言うと、女の人は優しく笑いました。
女の人が、ユウガくんの手を指差します。手を握れ、てことみたい。私はうなずいて、ユウガくんの手をしっかりと握りました。
※ ※ ※
優しく背中を押されるような感じがして。
私はゆっくりと目を覚ましました。
どれぐらい寝ていたのかな。窓の外は明るい陽射し。まだお昼前かな。ミラーズのみんなは授業中かな。
ふわぁっ、て大きなあくびが出ました。
眠いけど、なんだかすっきりしてる感じ。すごく不思議な夢を見たな。
ええと――あれ、どんな夢だっけ?
変だな、思い出せない。うーん、確か、ローワンの木が出てきたような気がするんだけど――。
「うわぁぁぁぁっ!」
ものすごい叫び声が聞こえて、私はびっくりして飛び起きました。
今の声、ユウガくん?
なにかあったの?
私は急いでベッドを降りると、すぐ隣のコン兄ちゃんの部屋に行きました。
「ユウガくん、大丈夫!?」
ノックもせずに扉を開けて部屋に飛び込んだら、ユウガくんが仰向けに寝ころんだまま、目を大きく見開いていました。
よかった、目を覚ましたんだ。コン兄ちゃんが二、三日は起きないかも、なんて言ってたからすごく心配してたんだよ。
「え、ミラ?」
「ユウガくん、大丈夫? 痛いところとかない?」
「て、おい、ちょっと……」
私が近づいて行ったら、ユウガくんが慌てました。寝ころんだまま、私と、自分のお腹の上とを交互に見て、どうしよう、て顔をしています。
「どうしたの?」
「え、お前……見えて、ないの?」
「何が?」
私が首を傾げると、嘘だろ、て顔で見られました。
「おい、今の声なんだ!?」
コン兄ちゃんの声と、階段を駆け上がってくる音が聞こえました。
開いたままの扉からコン兄ちゃんが入ってきたけれど、部屋に一歩入ったところで、びっくりした顔で止まってしまいました。
「コン兄ちゃん?」
「いや、その、なんだ……なんつーか、よ」
「どうしたの、コニー?」
リーゼお姉ちゃんも来たけれど、やっぱり同じ。部屋に入るなり固まって、あはははーと笑いながら「どうしましょう」なんて首を傾げてます。
なに、なんなの?
私にも教えてよー。
「あーなんだな」
こほん、とコン兄ちゃんが咳ばらいをしました。
「小僧……じゃなかった、ユウガくん」
「は、はい」
「謝れ。とにかく、謝り倒せ。俺らも口添えしてやっから」
「そうね、それしかないわね」
リーゼお姉ちゃんはため息をつくと、私に言いました。
「ミラ。悪いけど、ちょっとだけお部屋で待っていてくれる?」
「え、なんで?」
「落ち着いて話し合いができないから、かしらね」
かしらね、て――どういうこと?
「あとでちゃんと話すから。お願いだから、一度部屋に戻って」
みんなが言ってることがさっぱりわかんない。私だってユウガくんのこと心配してたんだよ。なんで私だけ仲間外れなの?
ぷくって、ちょっとふてくされていたら。
「それにね、ミラ」
リーゼお姉ちゃんが私の両肩に手を置いて、くるり、と私を回れ右させました。
「家族じゃない男の子の前に、寝間着のままで来ちゃだめよ。着替えてきなさい」
耳元でそっと囁かれて。
一瞬、頭が真っ白になったけど――私はかぁーっと顔が熱くなって、慌てて部屋に戻りました。
◇ ◇ ◇
着替えが終わってもなかなか呼ばれなくて、ずいぶん待たされたけど。
やっと呼ばれてコン兄ちゃんの部屋に戻ったら、ユウガくんが床に座って、私に向かって土下座しました。
「ミラ様、この度は本当に申し訳ありませんでした! この通り、伏してお詫び申し上げます!」
「……コン兄ちゃん?」
「お、俺じゃねーよ!」
ジト目で見たら、コン兄ちゃんが慌てて手を振りました。
じゃ、誰? 誰がユウガくんにこんなことさせたの? まさかリーゼお姉ちゃんが!?
「ローワンの木の精霊様よ」
え、精霊様?
なんで?
「ミラが誘拐されたのはユウガくんのせいだ、て。それはもうお怒りで。怒髪天を衝く、とはこのことね」
「こいつが命懸けでミラを助けたんだ、て必死でとりなして、なら土下座でわびたら許してやる、てなったんだ」
もしかして、さっきみんなが見てびっくりしてたの、ローワンの木の精霊様?
そんなに怒ってたの? もしかして、ユウガくんのお腹の上に座ってたとか? 私、全然見えないからわかんないよ。
「土下座ぐらいで許してもらえるなんて思ってない。俺……本当に取り返しのつかないことをしたと思ってる。本当にごめん!」
ユウガくんは土下座したまま、また私に謝りました。
「も、もういいよ。土下座なんてやめてよ」
「でも、俺……俺は……」
ユウガくんの声が震えていました。
泣いている、のかな? うう、どうしたらいいんだろう。
「ミラ、あなたはもう怒ってないのね?」
「うん」
確かにあの二人に協力したのかもしれないけれど。
ユウガくんが助けに来てくれたから、私は家に帰れたんだよ。怒ってなんかない、とっても感謝してるよ。
「だそうよ、ユウガくん。さあ、もう顔を上げて」
リーゼお姉ちゃんに言われて、ユウガくんはやっと顔を上げました。
やっぱり泣いていました。もういいよ、泣かないでよ。きっと何か、理由があるんだよね?
「んじゃま、話してくれるな。なんであいつらに協力したのか」
「……はい」
ユウガくんは小さくうなずくと。
どうしてあの二人に協力したのか、教えてくれました。




