22.ただいま
少したって、警ら隊の人が駆け付けました。
無人のはずのお屋敷から爆発音が聞こえる、て通報があったんだって。通報したの、若い女の人だったらしいんだけど――ひょっとして、リーゼお姉ちゃんかな。
「なるほど、種子派ですか」
気絶したまま縛り上げられたグレゴールさんの服、その裾にある刺繍を見て、警ら隊の人もうんざりした顔をしていました。
「とにかく、妹さんがご無事で何よりでした。この二人はこちらで連行します」
「ええい、離せ、離さんか!」
ちなみにブルーノさんも縛り上げられています。グレゴールさんがやっつけられたのを見て逃げ出そうとしたんだけど、コン兄ちゃんが捕まえて、ブルーノさんが持っていたロープで縛り上げたの。
ちなみにそのロープは、私を縛るつもりで用意してたみたい。コン兄ちゃんが助けに来てくれて、ホントよかった。
「おのれ、私を誰だと思っている! こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」
「うるせーなあ。殴って気絶させときゃよかったぜ」
ギャーギャーわめくブルーノさんに、コン兄ちゃんもうんざりした顔をしていました。
ほんと、うるさいよね。おーじょーぎわが悪い、てやつだね。
「おい、警ら隊! その小僧も共犯だ! 私を縛るなら、その小僧も縛り上げろ!」
ブルーノさんが、ユウガくんを見てわめきました。警ら隊の隊長さんが、眉をひそめます。
「どういうことです?」
「さて。まだ詳しいこと聞いてねーんすわ」
ユウガくんは、警ら隊の人が来る直前に気を失ってしまいました。めちゃくちゃな魔法の使い方をしたから力尽きたんだろう、てコン兄ちゃんが言ってました。
「でも俺が駆け付けた時には、妹を守ろうと、その二人相手に必死で戦ってたっすよ」
「ほう、勇敢な少年ですな」
目が覚めたら警ら隊に連絡して、事情聴取を受けさせる。
コン兄ちゃんはそう約束して、ユウガくんを家に連れて帰ることにしました。
ユウガくんの家じゃなくていいのかな、て思ったけど――家の場所、知らないから仕方ないか。
「お嬢ちゃん、怖かっただろう。今日はゆっくり休むんだよ」
「はい」
私も事情聴取を受けなきゃいけないけど、今日は帰っていい、て言われました。
「ではコンラートさん、よろしくお願いします」
「うっす。んじゃ、帰るぞミラ」
コン兄ちゃんはユウガくんをおんぶすると、私の手を引いて歩き出しました。
あ、そういえば。
ベアテさんはどうしたんだろう。屋敷の中には――もういないよね。誘拐犯の仲間のはずなのに、私のことを守ろうとしてくれてたみたいで。お礼を言いたかったな。
こんなこと思っちゃいけないんだろうけど――ベアテさん、無事に逃げてね。でももう二度と、こういうことはしないでね。
◇ ◇ ◇
「お帰り、ミラ」
雑貨屋ニルヴァーナ――私の家に帰ってきたら、リーゼお姉ちゃんが優しい笑顔で出迎えてくれました。
「ただいま、リーゼお姉ちゃん」
「無事でよかったわ」
「……うん」
リーゼお姉ちゃんが両手を広げて、抱きしめてくれました。
ぎゅってされたら、涙がポロポロ出ました。ほっとするのと同時に、怖かった、て思いがこみ上げてきて――そのままリーゼお姉ちゃんに抱き着いて、しばらく泣いちゃいました。
私が泣いている間に、コン兄ちゃんはユウガくんを自分の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせていました。
「まるで起きる気配ねーな」
「限界以上に魔力を使ったせいね。回復には時間がかかるかも」
魔力を限界以上に使うと、足りない魔力を補うために、体力を魔力に変換してしまうんだって。
「だから無理して使うと、命を落とすこともあるの。魔法の使いすぎは本当に危険なのよ」
「下手すりゃ二、三日起きねーかもな」
ユウガくん、そんなに無茶していたの?
どうしよう、私のせいだよね。私を助けるのに、無茶しちゃったんだよね。
「大丈夫よ、ミラ」
オロオロしている私を見て、リーゼお姉ちゃんが優しく抱きしめてくれました。
「私たちがついているわ。ちょっと長く眠るだけ、心配しないで」
リーゼお姉ちゃんがそう言うなら、大丈夫だよね。コン兄ちゃんもいるし、平気だよね。
「さ、ミラももう寝なさい。ユウガくんは、私たちがちゃんと看病しておくから」
「……うん」
◇ ◇ ◇
夜が明けても、ユウガくんは目を覚ましませんでした。
ぐっすりと眠ったままで、ちょっと熱も出ていました。すごく心配だけど、目を覚ますのを待つしかないんだって。
「ミラ、今日は学校を休みなさい」
リーゼお姉ちゃんに言われて、私は学校を休みました。お店も臨時休業です。
コン兄ちゃんは朝ごはんを食べ終えると、学校に休むことを伝えに行くついでに、警ら隊に顔を出してくる、と言って出かけていきました。
学校を休んだし、ユウガくんの看病をしようかな、て思ってたんだけど、リーゼお姉ちゃんに止められました。
「ミラも、自分が思っている以上に疲れているはずよ。今日は一日寝てなさい」
朝ごはんを食べたら、またベッドに逆戻りです。あんまり眠くないんだけどなあ。
「ユウガくん、大丈夫かな……」
授業中はとっても親切にいろいろ教えてくれるのに、休み時間になると逃げるようにいなくなっちゃう。
誘拐犯を手伝って私を誘拐させたくせに、危険を顧みず助けに来てくれた。
ユウガくんのことがよくわからない。ユウガくんに何があったんだろう。目を覚ましたら、色々とお話してくれるかな。
「ふわっ……」
寝ころんでいろいろ考えていたら、急に眠くなってきました。あくびが出て、まぶたがどんどん重くなっていきます。
なんだろ、さっきまですごく目が冴えていたのに。リーゼお姉ちゃんが言うとおり、私、疲れてるのかな。
我慢できなくてベッドに寝ころびました。風が吹いているのか、ローワンの木がざわざわ鳴っているのが聞こえます。
「ローワンの木の、精霊様」
ベッドでうとうととしながら、私はローワンの木の精霊にお祈りしました。
「ユウガくんが、早く目を覚まし……ます、ように……」
そして、仲良くなれますように。
そのお祈りは言葉にできないまま、私は眠ってしまいました。




