21.圧倒
だんっ!
声がした門の方を見たとき、地面を蹴る音が聞こえました。
「なっ……」
あれ、誰もいない――と思ったら、グレゴールさんのおどろく声。えっ、と思ってグレゴールさんの方を見たら。
「おらあっ!」
コン兄ちゃんが、地面すれすれからものすごい勢いでアッパーパンチをするのが見えました。
「ぐぉっ!」
グレゴールさん、避ける暇もありません。お腹にコン兄ちゃんのパンチをまともに食らって、そのまま吹き飛んでしまいました。
「ったく。子供相手になにしてんだ、てめーは」
「コン兄ちゃん!」
やった、やったあ! コン兄ちゃんが来てくれた!
「ミラ、ケガはしてねえな?」
「うん……」
あ、だめだ。涙が出てきちゃう。最後まで気を抜いちゃだめ、てお師匠様に言われてるのに。うう――コン兄ちゃん、怖かったよお。
「大丈夫、だよ。ユウガくんが、守ってくれたの」
「そうか」
コン兄ちゃん、私の言葉にうなずくと、うずくまっているユウガくんを見ました。
「お前、無茶苦茶してんな。そんな戦い方してたら、死ぬぞ」
「俺の……」
ユウガくんが、すごく苦しそうな声で言いました。
「俺のせい、だから……ミラを、絶対助けなくちゃ、て……だから、俺……」
「そーか、お前のせいか。なら後でお説教だな」
そっけなく言うコン兄ちゃん。なんだか怖い感じだけど、これ怒ってないよ。
「でもま……ミラを守ってくれてありがとよ。あとは任せとけ」
コン兄ちゃん、グレゴールさんとブルーノさんの方に向き直りました。
お腹を押さえながら立ち上がるグレゴールさん。ブルーノさんも、ケガしている手を反対の手で握りながら、コン兄ちゃんをにらみます。
「若造……貴様は確か、雑貨屋の……」
「あぁん? 誰かと思ったら、王都に入るときに会ったエロオヤジじゃねーか」
ペッ、て唾を吐いて、ブルーノさんをにらみつけるコン兄ちゃん。
わー、ガラ悪い。助けに来てくれたヒーローには見えないよ。
「てめー種子派だったのかよ。えらそーに商売のコツとか語っといて、やってることは誘拐かよ」
「誘拐ではない。尊きお方の保護だ!」
ブルーノさんが、さっと手を上げました。
また門の上で何かが光って、稲妻みたいな光がコン兄ちゃんめがけて飛んできます。同時に、グレゴールさんがコン兄ちゃんに殴りかかってきます。
「あぶない!」
私は思わず叫んじゃったけど。
「へっ」
コン兄ちゃんは、余裕綽々って感じで笑いました。
腰にぶら下げていた金槌を、ものすごい早業で手に取ります。そして――。
「食らうかよ」
手に持った金槌で、飛んできた稲妻を叩き落してしまいました。
「な、なんだと!?」
「ぬうんっ!」
グレゴールさんが全身を回転させながら突進してきました。
ユウガくんが作った魔法のバリアを叩き壊しちゃった、すごいパンチ。あれが当たったら、さすがのコン兄ちゃんもケガしちゃうんじゃないか、て思ったけど。
「おらぁっ!」
コン兄ちゃんは右足をはね上げて、足の裏でグレゴールさんの拳を受け止めてしまいました。
「ぬ……ぐぐぐっ!」
グレゴールさんが真っ赤な顔をしています。きっと全力を出しているんだろうけど、コン兄ちゃんは片足一本で立ったまま、びくともしません。
「おいおい、どうした。それが全力かぁ?」
「おの……れえっ!」
グレゴールさんが一歩引いて、また全身を回転させました。
でも、コン兄ちゃんの方が速い!
グレゴールさんが回転し終わる前に、コン兄ちゃんが鋭く回転して、グレゴールさんの後頭部に蹴りを叩き込みました。
「ぐおっ……」
グレゴールさんが、顔から地面に叩きつけられました。
うわー、まともにいった。あれは痛そう。でもユウガくんにひどいことした罰だよ。
ふんだ、ざまーみろ!
「貴……様ぁ!」
ブルーノさんがまた手を上げました。
稲妻みたいな光が、今度は何個か飛んできます。でもコン兄ちゃんはめんどくさそうな顔をしただけ。「あらよっと!」て叫んで、全部金槌で叩き落しちゃいました。
「バカな! 魔法の矢だぞ! なぜそんな金槌で叩き落せる!」
「さーてな。おめーの魔法がヘタだからじゃねーの?」
そういえばあの金槌、お師匠様が餞別に、てくれたものだったような――魔法の力でも込められてるのかな?
「おっと」
グレゴールさんが飛び起きながら、無言でコン兄ちゃんに殴りかかったけど。
コン兄ちゃんはあっさりかわして、カウンターで回し蹴り。グレゴールさんはまた蹴り飛ばされて、地面に転がりました。
「なんだなんだ、二人がかりでこの程度かよ。クソ弱えぇな、おい!」
「強えぇ……」
そんなコン兄ちゃんを見て、ユウガくんがつぶやきました。
うん、コン兄ちゃんはとっても強いんだよ。だからもう安心だよ、ユウガくん。
あ、でも。
あのガラの悪さは見習っちゃだめだからね。
「若造……貴様、何者だ」
ブルーノさんが怖い顔でにらんできました。コン兄ちゃん、また唾をペッて吐きます。
「誰がてめーみてえなクソ野郎に教えるか」
「雑貨屋ニルヴァーナのお抱え職人、コンラート」
コン兄ちゃんの代わりにそう言ったのは、蹴り飛ばされて倒れていたグレゴールさん。
ゆっくりと起き上がって、服のほこりを払いました。
「その少女の兄、でしたな」
「へえ、まだ立つのかよ。頑丈なやつだぜ」
「なるほど、これほどの護衛がついているか。ブルーノよ、謝罪しよう。お前の言う通り、その少女こそが、あのお方の生まれ変わりかもしれぬ」
「あのお方の生まれ変わり? なんだそりゃ」
コン兄ちゃん、ちょっと不思議そう。
だよね、私も不思議。この人たち、私が勇者ラドミールの子だからじゃなくて、「あのお方」――たぶん「魔王」を封じ込めようとして、返り討ちにあった巫女――の生まれ変わりだから、誘拐したみたいなんだけど。
なんでそう思ったんだろう。
私、その巫女様に似ているの? でも二十年前に亡くなった人の顔なんて、ちゃんと覚えてるのかな?
「ブルーノの瞳は神授の瞳! その者の系譜をすべて見通す、奇跡の瞳なのだ!」
グレゴールさんが大声で叫びました。
「魔力ゼロは何かの誤り。いや、それこそが悪しき者の目をくらますための、大地の精霊神の加護なのかも知れぬ! 代行様ならば、真実を見抜いてくださるであろう!」
グレゴールさんがまた拳を構えました。
「若造、返してもらうぞ、そのお方を! そのお方こそ、我らが長年探し求めていたお方なのだ!」
「頭おかしーんじゃねーのか、お前」
「これは、精霊神が与えたもうた試練! お前を倒してあのお方を取り戻せとの、精霊神の御意志だ!」
「……」
「ぬおおおおおおっ!」
あきれた顔で何も言わないコン兄ちゃんに向かって、グレゴールさんが雄たけびを上げて突進してきました。
「ご覧あれ、大地の精霊神よ! わが全力をもって、御子様をお救いしてみせますぞ!」
「つきあってらんねーぜ」
グレゴールさんが、体を回転させてコン兄ちゃんに殴りかかりました。
その拳を。
コン兄ちゃんは、受け止めることも叩き落とすこともせず、ただそっと手を添えて、いなしてしまうと。
「もう寝ろ。クソ野郎」
ドムッ、と強烈なパンチをグレゴールさんのみぞおちにめり込ませて、一撃で気絶させてしまいました。




