20.誰か、助けて!
「ごめん、本当にごめん……もっと早く助けに来たかったんだけど、手間取っちゃって」
走りながら、ユウガくんは謝りました。
よく見たら、全身埃まみれです。汗びっしょりで、シャツやズボンはボロボロになっています。
「許してくれなんて言わない。でも、ミラは絶対助けるから!」
暗くて長い廊下を、全速力で走りました。私、足はあんまり速くないんだけど、ユウガくんを追い抜いちゃいそうになります。
ユウガくん、ひょっとしてフラフラなの? 大丈夫?
「だいじょうぶ、だ……」
「待てぇっ!」
後ろからブルーノさんの怒鳴り声が聞こえました。
追いかけてきているんだ。急がなきゃ。でも、ユウガくん、今にも足がもつれて転びそう。
「俺を、置いていけ」
「そ、そんなことできないよ!」
「いいんだよ! 俺は、それだけのことをしたんだから!」
ユウガくん、泣いていました。
確かにユウガくんの言う通りかも。あの三人にユウガくんが協力して、私は誘拐されたんだから。
だけど、こんなにボロボロになってまで助けに来てくれたんだもん、置いて行くなんてできないよ。
「止まらんか、このガキども!」
「このっ!」
ブルーノさんの声が近づいてきます。このままじゃ追いつかれちゃう――と思った時、ユウガくんが振り向きざまに、また光の玉を発射しました。
バーンッ、てものすごい爆発がします。廊下の壁や天井が崩れて、ブルーノさんとグレゴールさんの行く手をさえぎります。
「あの……扉から、外に、出られるから」
ユウガくんが苦しそうに言いました。私はうなずいて、ユウガくんの手をつかんで、引っ張りながら走りました。
扉から出ると、広い庭でした。
庭はぐるりと高い木で囲まれていました。外へ向かう道が一本だけあって、道の先に、頑丈そうな門。門は少しだけ開いていました。ユウガくん、あそこから入ってきたのかも。
「あと、少しだ……」
ユウガくん、すっかり息が上がっていました。あの光の玉を放つのに、すごい力がいるのかも。このままじゃユウガくんが倒れちゃう、早く外に出て助けを呼ばなきゃ。
走って、走って、一生懸命走って。
あと少しで門から出られる、てところで、門の上で何かが光りました。
「ミラっ!」
ユウガくんが私の前に飛び出しました。稲妻みたいな光が飛んできて、ユウガくんに当たります。
「こ……のおおおっ!」
ユウガくんが腕を交差させました。ユウガくんの周りに青い光が生まれて、飛んできた光を弾きます。
「く、そ……」
「ユウガくん!?」
ユウガくんがうめき声をあげて、膝をつきました。ぜえはあ、て肩で息をしていて、すごい汗をかいています。
「魔法障壁を使えるのか。たいしたものだな」
冷たくて硬い、ゾッとする声が聞こえました。
振り向くと、グレゴールさんがゆっくりと歩いて来ています。その後ろにはブルーノさんも。ベアテさんはいません。
「ミラ、逃げろ……」
ユウガくんが立ち上がり、私の前に立って両手を広げました。
「俺が、食い止めるから。お前は、逃げろ」
「勇者にでもなったつもりかね?」
グレゴールさんが拳を構え、ユウガくんに殴りかかりました。
バチィッ、てすごい音がして、グレゴールさんの拳がユウガくんの目の前で止まります。
「ほう、物理障壁もかね。恐れ入ったよ、ユウガくん」
「ぜったいに……ミラは、守ってみせる!」
「けっこう。では、耐えてみたまえ」
グレゴールさんは何度も何度もユウガくんに殴りかかりました。その度にバチィッ、バチィッ、て音がして、グレゴールさんのパンチをはね返しているけれど、ユウガくんはどんどん苦しそうな顔になっていきました。
「魔力量にものを言わせた防御か。独学でここまでとは大したものだが……な!」
グレゴールさんが全身を回転させ、ものすごいパンチを繰り出しました。
バチィッ、て、音がして、どうにかパンチを防いだけれど、ユウガくんを包んでいた青い光は、はじけるように消えてしまいました。
「素人の技で防ぎきれるほど、私の拳は甘くないのだよ」
「ち、く……しょお……」
ユウガくんがその場に崩れ落ちました。そんなユウガくんを、グレゴールさんは無表情で見下ろしています。
「どきたまえ。君に用はない」
「いや、だ!」
地面に膝をついたまま、ユウガくんが両手を広げました。でも、もう青い光は出ません。
「ミラ、早く……逃げ、ろ……」
「ユウガくん! やめて、やめてよ! ユウガくんにひどいことしないで!」
グレゴールさんが、ジロリと私を見ました。
すごく冷たい目。その視線にすくみ上りそうになります。
「では、我々と一緒に来たまえ」
「ミラ、逃げろ……早く……」
「うるさいんだよ、小僧」
後ろで見ていたブルーノさんが、杖を手にユウガくんに近づいてきました。
「お前も誘拐の協力者だろう。いまさら小娘を助けるなど、偽善もいいところだ!」
ブルーノさんが杖を掲げました。杖でユウガくんを殴るつもりだ。
「やめて!」
やめて、そんなことやめて!
ユウガくんにひどいことしないで! ユウガくん、逃げて!
「失せろ!」
ブルーノさんが杖を振り下ろしました。いやだ、て思わず目を閉じてしゃがみこんでしまいました。
いやだ、いやだ。ユウガくんがケガをしたらどうしよう。死んじゃったりしたらいやだよお。
誰か――誰か、助けて!
バキィィッ――!
硬い木が石に叩きつけられたような、乾いた破壊音が響きました。
「ぬおおっ!」
悲鳴が上がりました。
あれ、この声――ユウガくんじゃない。ブルーノさん?
恐る恐る目を開けると、ブルーノさんが手を押さえてうずくまっていました。持っていた杖は真っ二つに折れて、ユウガくんの前に落ちています。
え、なに? なにがあったの?
「おいてめーら。うちの妹と友達に、なにしてくれてんだ」
何が何だかわからず、呆然としていたら。
すっごくガラの悪い、でも、すっごく頼もしい声が聞こえました。




