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勇者の子  作者: おかやす
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20/26

20.誰か、助けて!

「ごめん、本当にごめん……もっと早く助けに来たかったんだけど、手間取っちゃって」


 走りながら、ユウガくんは謝りました。

 よく見たら、全身埃まみれです。汗びっしょりで、シャツやズボンはボロボロになっています。


「許してくれなんて言わない。でも、ミラは絶対助けるから!」


 暗くて長い廊下を、全速力で走りました。私、足はあんまり速くないんだけど、ユウガくんを追い抜いちゃいそうになります。

 ユウガくん、ひょっとしてフラフラなの? 大丈夫?


「だいじょうぶ、だ……」

「待てぇっ!」


 後ろからブルーノさんの怒鳴り声が聞こえました。

 追いかけてきているんだ。急がなきゃ。でも、ユウガくん、今にも足がもつれて転びそう。


「俺を、置いていけ」

「そ、そんなことできないよ!」

「いいんだよ! 俺は、それだけのことをしたんだから!」


 ユウガくん、泣いていました。

 確かにユウガくんの言う通りかも。あの三人にユウガくんが協力して、私は誘拐されたんだから。

 だけど、こんなにボロボロになってまで助けに来てくれたんだもん、置いて行くなんてできないよ。


「止まらんか、このガキども!」

「このっ!」


 ブルーノさんの声が近づいてきます。このままじゃ追いつかれちゃう――と思った時、ユウガくんが振り向きざまに、また光の玉を発射しました。

 バーンッ、てものすごい爆発がします。廊下の壁や天井が崩れて、ブルーノさんとグレゴールさんの行く手をさえぎります。


「あの……扉から、外に、出られるから」


 ユウガくんが苦しそうに言いました。私はうなずいて、ユウガくんの手をつかんで、引っ張りながら走りました。

 扉から出ると、広い庭でした。

 庭はぐるりと高い木で囲まれていました。外へ向かう道が一本だけあって、道の先に、頑丈そうな門。門は少しだけ開いていました。ユウガくん、あそこから入ってきたのかも。


「あと、少しだ……」


 ユウガくん、すっかり息が上がっていました。あの光の玉を放つのに、すごい力がいるのかも。このままじゃユウガくんが倒れちゃう、早く外に出て助けを呼ばなきゃ。

 走って、走って、一生懸命走って。

 あと少しで門から出られる、てところで、門の上で何かが光りました。


「ミラっ!」


 ユウガくんが私の前に飛び出しました。稲妻みたいな光が飛んできて、ユウガくんに当たります。


「こ……のおおおっ!」


 ユウガくんが腕を交差させました。ユウガくんの周りに青い光が生まれて、飛んできた光を弾きます。


「く、そ……」

「ユウガくん!?」


 ユウガくんがうめき声をあげて、膝をつきました。ぜえはあ、て肩で息をしていて、すごい汗をかいています。


「魔法障壁を使えるのか。たいしたものだな」


 冷たくて硬い、ゾッとする声が聞こえました。

 振り向くと、グレゴールさんがゆっくりと歩いて来ています。その後ろにはブルーノさんも。ベアテさんはいません。


「ミラ、逃げろ……」


 ユウガくんが立ち上がり、私の前に立って両手を広げました。


「俺が、食い止めるから。お前は、逃げろ」

「勇者にでもなったつもりかね?」


 グレゴールさんが拳を構え、ユウガくんに殴りかかりました。

 バチィッ、てすごい音がして、グレゴールさんの拳がユウガくんの目の前で止まります。


「ほう、物理障壁もかね。恐れ入ったよ、ユウガくん」

「ぜったいに……ミラは、守ってみせる!」

「けっこう。では、耐えてみたまえ」


 グレゴールさんは何度も何度もユウガくんに殴りかかりました。その度にバチィッ、バチィッ、て音がして、グレゴールさんのパンチをはね返しているけれど、ユウガくんはどんどん苦しそうな顔になっていきました。


「魔力量にものを言わせた防御か。独学でここまでとは大したものだが……な!」


 グレゴールさんが全身を回転させ、ものすごいパンチを繰り出しました。

 バチィッ、て、音がして、どうにかパンチを防いだけれど、ユウガくんを包んでいた青い光は、はじけるように消えてしまいました。


「素人の技で防ぎきれるほど、私の拳は甘くないのだよ」

「ち、く……しょお……」


 ユウガくんがその場に崩れ落ちました。そんなユウガくんを、グレゴールさんは無表情で見下ろしています。


「どきたまえ。君に用はない」

「いや、だ!」


 地面に膝をついたまま、ユウガくんが両手を広げました。でも、もう青い光は出ません。


「ミラ、早く……逃げ、ろ……」

「ユウガくん! やめて、やめてよ! ユウガくんにひどいことしないで!」


 グレゴールさんが、ジロリと私を見ました。

 すごく冷たい目。その視線にすくみ上りそうになります。


「では、我々と一緒に来たまえ」

「ミラ、逃げろ……早く……」

「うるさいんだよ、小僧」


 後ろで見ていたブルーノさんが、杖を手にユウガくんに近づいてきました。


「お前も誘拐の協力者だろう。いまさら小娘を助けるなど、偽善もいいところだ!」


 ブルーノさんが杖を掲げました。杖でユウガくんを殴るつもりだ。


「やめて!」


 やめて、そんなことやめて!

 ユウガくんにひどいことしないで! ユウガくん、逃げて!


「失せろ!」


 ブルーノさんが杖を振り下ろしました。いやだ、て思わず目を閉じてしゃがみこんでしまいました。

 いやだ、いやだ。ユウガくんがケガをしたらどうしよう。死んじゃったりしたらいやだよお。

 誰か――誰か、助けて!


 バキィィッ――!


 硬い木が石に叩きつけられたような、乾いた破壊音が響きました。


「ぬおおっ!」


 悲鳴が上がりました。

 あれ、この声――ユウガくんじゃない。ブルーノさん?

 恐る恐る目を開けると、ブルーノさんが手を押さえてうずくまっていました。持っていた杖は真っ二つに折れて、ユウガくんの前に落ちています。


 え、なに? なにがあったの?


「おいてめーら。うちの妹と友達に、なにしてくれてんだ」


 何が何だかわからず、呆然としていたら。

 すっごくガラの悪い、でも、すっごく頼もしい声が聞こえました。

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― 新着の感想 ―
???「どこへ行こうというのかね」
おにーちゃーん! ちょっと遅いけど、ギリ間に合った?
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