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勇者の子  作者: おかやす
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19/26

19.爆発

 お腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなってきちゃいました。

 ここで寝ちゃだめだよね、さすがに。

 でも眠い。ううー、ちょっとだけ寝ちゃだめかな。だめだめ、寝てる間に何かあったら――ぐう。



 ――はっとして目を覚ましたら、部屋がだいぶ暗くなっていました。



 ベアテさんはいませんでした。ベッド横の小さなテーブルには、水が入ったコップが置いてあります。ベアテさんが用意してくれたのかな。のど渇いているし、飲んじゃおう。


「もう、日が沈みそう……」


 空になったコップを置いて、ベッドを降りました。窓に近づいて外を見たけれど、生け垣が邪魔して空以外は何も見えません。


「ここ、どこなんだろう」


 こんなに大きなガラスの窓、普通の家にはないよね。やっぱり聖堂かな。それとも、お金持ちの人の家? 窓が開かないかな、て揺らしてみたけど、びくともしなかった。


「うわ、汚れちゃった」


 窓を触った手が、なんだかねちゃねちゃする。油でもついてたのかな。


「あ」


 ハンカチを出そうとポケットに手を入れたら、何か別の物の感触がした。

 そうだ、ユウガくんがくれたやつ。

 取り出してみたら、折り畳まれた小さな紙だった。これ、なんなのかな。


 困ったときに、開いて。


 ユウガくんがそう言っていたことを思い出して、紙をそっと広げました。

 広げたら、手のひらに乗るぐらいの大きさになった。何か絵が描いてあるみたい。ええと、これは――。


「……魔方陣?」


 リーゼお姉ちゃんやコン兄ちゃんがよく描いていたのに似てる。でもすごく複雑。模様が複雑になるほど高度な魔方陣だ、てリーゼお姉ちゃんが言っていたけど、これ、ユウガくんが描いたのかな?


「なんの魔法だろう?」


 ユウガくん、魔法が使えるのかな? でも教堂で指導を受けていないんだよね? じゃあ、自分で勉強したのかな?


「……え?」


 今、魔方陣が光ったような気がしました。それと同時に、なんだか知ってる声が――ユウガくんの声が聞こえたように感じました。

 勘違い? 空耳?

 ううん、違う。一瞬だけど、確かに光った。魔方陣の向こう側から、ユウガくんの声が聞こえた。


「ユウガくん?」


 恐る恐る呼びかけてみたら、また魔方陣が光りました。

 今度は見間違いじゃない。ザァッて音がして、その音に交じってユウガくんの声がまた聞こえました。


「ユウガくん? ユウガくん!」


 もしかしたら私の声も聞こえてるのかも。そう思って呼びかけました。

 でも、だんだんと魔方陣の光が弱くなっていきます。ユウガくんの声も聞こえなくなって、ザァッて音も消えて。しばらくして、魔方陣の光は消えてしまいました。


「ユウガくん……」


 じわっと涙がこぼれました。

 ユウガくんは誘拐犯に協力していた。すごくショックだった。でも「絶対に、助けに行くから」て言っていた。


 きっと、そのためにこの魔方陣を渡してくれたんだ。

 誘拐犯に協力したのは、何か理由があるんだよね。信じていいよね、ユウガくん。


「早く……早く来てよお、ユウガくん……」


 ドスドスと乱暴な足音が聞こえました。

 こっちに来る。

 私は慌てて紙をポケットに突っ込むと、ベッドに戻りました。


「入るぞ」


 ドンドン、て乱暴なノックの後、私の返事を待たずに扉が開きました。

 ブルーノさんとグレゴールさん、それからベアテさんの三人が部屋に入ってきます。


「小娘、出発だ」

「え?」

「我々と一緒に来てもらう。お前があのお方の生まれ変わりかどうか、代行(だいぎょう)様にご判断していただく」


 ダイギョウサマ?

 それ、誰? どこにいるの? 一緒にって、王都を出るの?


「行くぞ」

「や……やだっ!」


 腕をつかまれそうになり、私は慌てて後ずさりました。


「大人しくせんかっ!」


 ブルーノさんに怒鳴られて、体が(すく)みました。

 怖い。

 思わずベアテさんを見たけれど、ベアテさんは無言のままで、目をそらしていました。


「来い」


 ブルーノさんに腕をつかまれました。逃げなきゃ、て思うけれど、怖くて体が動きません。

 やだ、やだあ。

 ユウガくん。

 リーゼお姉ちゃん、コン兄ちゃん。

 助けてよお!



 バーンッ!



 爆発するような音がしたのは、そのときでした。


「な、なんだ!?」


 音にびっくりしたブルーノさんが、私の手を放しました。



 バーンッ!



 また聞こえました。こっちに近づいて来ています。

 え、なに、なんなの? 何が近づいてるの、て思ったら。


「きゃっ!」


 バーンッ、ていうものすごい音と同時に、廊下側の壁が爆発しました。

 壁が崩れて、ものすごい埃が舞い上がります。びっくりしてしゃがんだら、大声が聞こえました。


「ミラ、そのままじっとしてろ!」


 えっ、この声――ユウガくん!?


「ふき……飛べえぇっ!」


 埃が舞い上がる中、部屋に突っ込んできたユウガくん、びっくりしているブルーノさんに手を向けました。

 ユウガくんの手が光りました。その光が弾けたとき、あのバーンッ、ていう爆発音がして、ブルーノさんが吹き飛ばされました。


「ぐおっ!」

「お前……ぐっ!」


 吹き飛ばされたブルーノさんが、グレゴールさんにぶつかりました。二人はそのまま床に尻餅をついてしまいます。


「ミラ、逃げるぞ!」


 あっけに取られていたら、ユウガくんが私の腕をつかみました。

 ブルーノさんにつかまれたときは、怖くて体が(すく)んじゃったけど。

 ユウガくんだと、勇気が湧いてきて、逆に体が動きました。


「うん!」

「くっ……ベアッ、何をしている! 捕まえろ!」


 倒れたブルーノさんが叫びました。ユウガくんは私の手を引いて、まっすぐにベアテさんに突っ込んでいきます。


「どっ、けえーっ!」


 ユウガくんの手がまた光りました。ベアテさん、とっさに短槍を構えたけれど――なんだか優しい顔で笑っています。


「ミラは、渡さねえ!」


 光が弾けて、ベアテさんが吹っ飛びました。

 だけど――今、光が当たる前に、後ろに飛ばなかった? 吹き飛ばされたふりをして、反撃してくるのかも?

 でも、ベアテさんの反撃はなくて、そのまま床に尻餅をついていました。大丈夫かな、て思わず見たら、ベアテさんはやっぱり笑っていました。


 行きなさい。


 ベアテさんの目が、そう言っているような気がして。

 私は、ありがとう、て心の中でお礼を言って、ユウガくんと一緒に走り出しました。

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ベアテさん、ありがとう( ˘ω˘ )
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