19.爆発
お腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなってきちゃいました。
ここで寝ちゃだめだよね、さすがに。
でも眠い。ううー、ちょっとだけ寝ちゃだめかな。だめだめ、寝てる間に何かあったら――ぐう。
――はっとして目を覚ましたら、部屋がだいぶ暗くなっていました。
ベアテさんはいませんでした。ベッド横の小さなテーブルには、水が入ったコップが置いてあります。ベアテさんが用意してくれたのかな。のど渇いているし、飲んじゃおう。
「もう、日が沈みそう……」
空になったコップを置いて、ベッドを降りました。窓に近づいて外を見たけれど、生け垣が邪魔して空以外は何も見えません。
「ここ、どこなんだろう」
こんなに大きなガラスの窓、普通の家にはないよね。やっぱり聖堂かな。それとも、お金持ちの人の家? 窓が開かないかな、て揺らしてみたけど、びくともしなかった。
「うわ、汚れちゃった」
窓を触った手が、なんだかねちゃねちゃする。油でもついてたのかな。
「あ」
ハンカチを出そうとポケットに手を入れたら、何か別の物の感触がした。
そうだ、ユウガくんがくれたやつ。
取り出してみたら、折り畳まれた小さな紙だった。これ、なんなのかな。
困ったときに、開いて。
ユウガくんがそう言っていたことを思い出して、紙をそっと広げました。
広げたら、手のひらに乗るぐらいの大きさになった。何か絵が描いてあるみたい。ええと、これは――。
「……魔方陣?」
リーゼお姉ちゃんやコン兄ちゃんがよく描いていたのに似てる。でもすごく複雑。模様が複雑になるほど高度な魔方陣だ、てリーゼお姉ちゃんが言っていたけど、これ、ユウガくんが描いたのかな?
「なんの魔法だろう?」
ユウガくん、魔法が使えるのかな? でも教堂で指導を受けていないんだよね? じゃあ、自分で勉強したのかな?
「……え?」
今、魔方陣が光ったような気がしました。それと同時に、なんだか知ってる声が――ユウガくんの声が聞こえたように感じました。
勘違い? 空耳?
ううん、違う。一瞬だけど、確かに光った。魔方陣の向こう側から、ユウガくんの声が聞こえた。
「ユウガくん?」
恐る恐る呼びかけてみたら、また魔方陣が光りました。
今度は見間違いじゃない。ザァッて音がして、その音に交じってユウガくんの声がまた聞こえました。
「ユウガくん? ユウガくん!」
もしかしたら私の声も聞こえてるのかも。そう思って呼びかけました。
でも、だんだんと魔方陣の光が弱くなっていきます。ユウガくんの声も聞こえなくなって、ザァッて音も消えて。しばらくして、魔方陣の光は消えてしまいました。
「ユウガくん……」
じわっと涙がこぼれました。
ユウガくんは誘拐犯に協力していた。すごくショックだった。でも「絶対に、助けに行くから」て言っていた。
きっと、そのためにこの魔方陣を渡してくれたんだ。
誘拐犯に協力したのは、何か理由があるんだよね。信じていいよね、ユウガくん。
「早く……早く来てよお、ユウガくん……」
ドスドスと乱暴な足音が聞こえました。
こっちに来る。
私は慌てて紙をポケットに突っ込むと、ベッドに戻りました。
「入るぞ」
ドンドン、て乱暴なノックの後、私の返事を待たずに扉が開きました。
ブルーノさんとグレゴールさん、それからベアテさんの三人が部屋に入ってきます。
「小娘、出発だ」
「え?」
「我々と一緒に来てもらう。お前があのお方の生まれ変わりかどうか、代行様にご判断していただく」
ダイギョウサマ?
それ、誰? どこにいるの? 一緒にって、王都を出るの?
「行くぞ」
「や……やだっ!」
腕をつかまれそうになり、私は慌てて後ずさりました。
「大人しくせんかっ!」
ブルーノさんに怒鳴られて、体が竦みました。
怖い。
思わずベアテさんを見たけれど、ベアテさんは無言のままで、目をそらしていました。
「来い」
ブルーノさんに腕をつかまれました。逃げなきゃ、て思うけれど、怖くて体が動きません。
やだ、やだあ。
ユウガくん。
リーゼお姉ちゃん、コン兄ちゃん。
助けてよお!
バーンッ!
爆発するような音がしたのは、そのときでした。
「な、なんだ!?」
音にびっくりしたブルーノさんが、私の手を放しました。
バーンッ!
また聞こえました。こっちに近づいて来ています。
え、なに、なんなの? 何が近づいてるの、て思ったら。
「きゃっ!」
バーンッ、ていうものすごい音と同時に、廊下側の壁が爆発しました。
壁が崩れて、ものすごい埃が舞い上がります。びっくりしてしゃがんだら、大声が聞こえました。
「ミラ、そのままじっとしてろ!」
えっ、この声――ユウガくん!?
「ふき……飛べえぇっ!」
埃が舞い上がる中、部屋に突っ込んできたユウガくん、びっくりしているブルーノさんに手を向けました。
ユウガくんの手が光りました。その光が弾けたとき、あのバーンッ、ていう爆発音がして、ブルーノさんが吹き飛ばされました。
「ぐおっ!」
「お前……ぐっ!」
吹き飛ばされたブルーノさんが、グレゴールさんにぶつかりました。二人はそのまま床に尻餅をついてしまいます。
「ミラ、逃げるぞ!」
あっけに取られていたら、ユウガくんが私の腕をつかみました。
ブルーノさんにつかまれたときは、怖くて体が竦んじゃったけど。
ユウガくんだと、勇気が湧いてきて、逆に体が動きました。
「うん!」
「くっ……ベアッ、何をしている! 捕まえろ!」
倒れたブルーノさんが叫びました。ユウガくんは私の手を引いて、まっすぐにベアテさんに突っ込んでいきます。
「どっ、けえーっ!」
ユウガくんの手がまた光りました。ベアテさん、とっさに短槍を構えたけれど――なんだか優しい顔で笑っています。
「ミラは、渡さねえ!」
光が弾けて、ベアテさんが吹っ飛びました。
だけど――今、光が当たる前に、後ろに飛ばなかった? 吹き飛ばされたふりをして、反撃してくるのかも?
でも、ベアテさんの反撃はなくて、そのまま床に尻餅をついていました。大丈夫かな、て思わず見たら、ベアテさんはやっぱり笑っていました。
行きなさい。
ベアテさんの目が、そう言っているような気がして。
私は、ありがとう、て心の中でお礼を言って、ユウガくんと一緒に走り出しました。




