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勇者の子  作者: おかやす
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15/26

15.どうして、ユウガくん

 四時間目が終わって。

 ミラルダとアルミラが話しかけようとしたけれど、ユウガくんは逃げるように教室を出て行ってしまいました。


「あーもう、なんなの、あいつ!」

「こうなったら、帰り道で必ず捕まえましょう」


 ミラーズの他の三人にも協力してもらって、なんとしても話をしよう。ミラルダとアルミラに励まされて、私も「よし!」て気合いを入れました。

 でも、五時間目が始まる直前。


「ミラルダ、アルミラ。ちょっといいか?」


 男の先生がやってきて、ミラルダとアルミラを廊下に呼び出しました。

 あんな先生、いたっけ? 初めて見る先生だな。私が知らないだけで、違う学年の先生なのかな?


「え、お父様から?」

「はい、わかりました」


 先生と話し終えると、ミラルダとアルミラは急いで教室に戻って、かばんを手に取りました。


「ごめんミラ、帰らなきゃいけなくなっちゃった」

「私もです」


 おうちの人から、急いで帰ってくるように、と伝言があったんだって。うう、タイミング悪いなあ。でも仕方ないよね。


「また明日ね」


 ミラルダとアルミラが教室を出ていくのと入れ替わりで、ユウガくんが戻ってきました。

 やっぱり目を合わせてくれないし、声をかけても答えてくれません。本当に今日のユウガくんは変です。

 ほんとにどうしたんだろう。帰る前にお話、できるかな。

 ううん、やらなきゃ。こんなもやもやした気持ちで明日までいたくないよ。


 集中できないまま時間が過ぎて、もうじき五時間目が終わる、てときでした。


「……ミラ」


 急にユウガくんに呼ばれたかと思うと、机の下で手を握られました。

 びっくりしました。

 いきなり手を握られたこともだけど、ユウガくんの手はすごく冷たくて、ちょっと震えていた。なんだか、氷で握られてるみたい。


「これ、ポケットに入れて」


 握った手の中で、何かを渡されました。

 なんだろう、て確認しようとしたら、「そのまま!」て鋭い声で止められました。


「早く! ポケットに入れて!」

「う、うん」


 言われた通りに、渡されたものをポケットに入れました。

 これ――紙、かな? 小さく折り畳まれていて、なんだか湿っているみたい。ユウガくんの汗――かな?


「ねえ……」


 これはなに、て聞こうとしたら。

 授業終わりの鐘が聞こえてきました。


「はい、今日の授業はここまでです。みんな、気をつけて帰ってね」


 ああ、五時間目終わっちゃった。

 クラスのみんなが席を立ちます。ユウガくんもすごい勢いで立ち上がって、机にかけていたかばんを手に持ちます。


「あ、あの、ユウガく……」

「ごめん、ミラ」


 呼び止めようと声をかけたら――ユウガくんが目をそらしたまま、いきなり私に謝りました。

 え、なんで?


「俺……絶対に、助けに行くから。だから……困ったときに、さっきの紙を開いて」


 助けに行く?

 困ったとき?


 わけがわからず戸惑っている間に、ユウガくんは逃げるように教室を出て行ってしまいました。


   ◇   ◇   ◇


 急いでユウガくんを追いかけたけど、校舎を出た時、ユウガくんの姿もう見えませんでした。


「ユウガくん、どうしたのかなあ……」


 あきらかに今日はおかしい。

 アルミラがそう言っていたけど、ほんとにそう。ごめん、てなんで謝ったんだろう。ユウガくん、何も悪いことしてないのに。それに助けに行く、てどういうことだろう。


 はあ、てため息をつきながら、私は歩き出しました。


 そういえば、一人で帰るの久しぶりだな。なんだかさびしい。おしゃべりしながらだとあっというまの帰り道なのに、一人だとすごく長く感じる。

 明日はミラルダと一緒に帰れるかな。そういえばミラルダもアルミラも、どうして早退したんだろう。明日聞いたら、教えてくれるかな。


 そんなことを考えながら、一人で歩いていました。ちょっとうつむいていたから、人が近づいているのに気づきませんでした。


「やあ、お嬢さん」


 声をかけられて、やっと気づきました。

 顔を上げると、男の人が立っていました。四十歳くらいの――あれ、この人、どこかで会ったことある、よね?


奇遇(きぐう)ですな、こんなところで会うなんて」


 なにかを探るような目で見られて、思い出しました。

 王都に着いて入門手続きを待っている行列で、前にいた行商の人です。


「こ、こんにち……は……」


 ぞわっ、と、何かすごく嫌な気配を感じて、思わず一歩下がってしまいました。

 前に会った時も、なんか嫌だな、て思ったけど。

 今日ははっきりと、怖い、て思いました。


「学校の帰りですかな?」

「は、はい……」

「お一人のようですね。いやあ、よかった。もう一度お会いしたいと思っていたんですよ」


 にこにこ笑っているけど、目はずっと私を見ていて。どんどん怖くなってきて、私はまた一歩下がってしまいました。


「ブルーノ、そんなふうにジロジロ見てはいけません。怖がっているじゃないですか」


 背後から、ゾッとするほど落ち着いた声が聞こえました。

 振り向いて、息を呑みました。そこにいたのは、導師の服を着た男の人――先週の星籠日(ほしこもりのひ)の朝、うちに来ていたあの導師様です。


「やあ、ミラさん。初めまして、導師のグレゴールと申します」


 笑っているのに、全然安心できない顔でした。どうしてこの人、私の名前を知ってるの? やだよ、すごく怖いよ。


 誰か、助けて。


 周りを見て、そのとき初めておかしいことに気付きました。

 ここは大通り。いつもならたくさんの人がいるのに、今は誰一人いないんです。


 ううん、違う。


 一人だけ――もう一人だけ、いた。グレゴール、て名乗った導師様の後ろ。私と同い年の、すごくよく知っている男の子が。

 なんで。

 どうして、そこにいるの?


「ユウガ……くん……」

「おお、そうでした。ユウガ、うん、彼ね。私の甥なんですよ」


 導師様の後ろで、ユウガくんは歯を食いしばってうつむいていた。そんなユウガくんの頭を、ぽんぽん、と叩きながら導師様が笑いました。


「はっはっは、本当に、奇遇というやつですな。ミラさん、君のことをユウガに聞きましてね、ぜひ一度、ゆっくりとお話をしてみたいと思ったんですよ」


 導師様が近づいてくる。逃げようと後ずさったけど、そこには行商の人が待ち構えていた。


「さて、立ち話もなんですから。落ち着いた場所へ行きましょうか」


 行商の人は、手にすごく大きな袋を持っていた。

 袋は空っぽ。開いた袋の口を、私に向けて近づいてくる。逃げなきゃ、て思ったけれど――導師様に逃げ道をふさがれて、背中を、ドン、て押されました。


「ケガしたくなけりゃ、暴れなさんなよ!」

「ひっ!」


 よろけて倒れそうになったところに、頭から袋をかぶせられました。導師様が素早く私の両足をつかんで、そのまま袋の中に放り込まれてしまいます。

 あっという間で、逃げる暇もありませんでした。


「よし。グレゴール、行くぞ。そろそろ人払いの魔法が切れる」


 行商の人は袋の口を閉じると、軽々と私を担ぎ上げて歩き出しました。


「ああ、ユウガくん。協力ありがとう。これは約束のものだ、もう行きたまえ」


 導師様の冷たい声に続いて、何か金属の物が地面に落ちる音が聞こえました。


 ユウガくんが、この二人に協力したの?

 今地面に落ちたものって、もしかしてお金?

 ごめん、て、さっき謝っていたのって、こういうこと?


「うそ……うそ、だよね、ユウガくん……」


 白昼堂々、誘拐されたことよりも。

 ユウガくんが二人に協力していた、そのことの方がショックで――私はポロポロと泣いてしまいました。

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― 新着の感想 ―
そりゃ、ちびっこがオトナに、しかもわるいこと考えてやってるやつに、逆らったりできないよなあ……
ひえええ。 穏やかではない展開があると思っていましたが。 いきなりそう来ますか。 彼女は、『種子』? どっちにしても狂信者は怖いですね。
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