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勇者の子  作者: おかやす
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14/26

14.どうしたの、ユウガくん

 週が明けて、陽霊日(ひかりのひ)

 私は早起きすると、庭のローワンの木のところへ行って、一生懸命お祈りしました。


 ユウガくんが、種子派じゃありませんように。

 ユウガくんと、仲良くなれますように。


 筆しか持っていなかった私に、鉛筆を貸してくれた。

 鉛筆の使い方を、すごくていねいに教えてくれた。

 授業中に困っていたら、いっぱい助けてくれた。


 そんなユウガくんが、悪い人なわけありません。だから、どうか力を貸してください。


 ザワザワッ、てローワンの木が揺れました。

 そっと目を開けると、ローワンの葉っぱがひらひらと舞っていて、私が手を伸ばすと静かに手の上に落ちてきました。


「お守り、ありがとうございます」


 私はお礼を言って、葉っぱをエプロンのポケットに入れました。うん、大丈夫、ローワンの木の精霊様が、守ってくれる。きっとユウガくんと仲良くなれるよね。


「ミラー! 遅刻しちゃうよー!」


 リーゼお姉ちゃんの呼ぶ声が聞こえました。

 え、うそ、もうそんな時間? まだ朝ご飯食べてないのに。

 私は急いで戻ると、食卓に着いて朝ごはんを食べました。授業はお昼過ぎまであるから、食べておかないとお腹すいちゃうんだよね。ああ、でも時間がないよう。


「ちょっとミラ、そんなに慌てて食べたら、のど詰まるよ」

「だって遅刻……んっ!? んんっ!」


 返事をするのと食べるのとを同時したら、パンがのどに詰まりました。


「ああもう、言わんこっちゃない」

「ほれ、水」


 私はコン兄ちゃんが差し出したコップをつかもうと、勢いよく手を伸ばしました。


「あっ!」

「あぶねっ!」


 その伸びた手に、スープのお皿が当たってひっくり返してしまいました。入っていたスープがこぼれて、私の服にかかっちゃいます。


「んっ! んー!」

「おい、やけどしてねーか? 大丈夫か?」

「ああもう、水が先! ほら、飲み込んで!」


 お水をごくごく飲んで、やっとパンを飲み込んだけど。

 こぼれたスープが服に思いっきりかかっちゃって、エプロンとワンピースが汚れてしまいました。


「あらあら。ほら、急いでふいて」


 リーゼお姉ちゃんがすぐにタオルを持ってきてくれました。大急ぎでふいたけど、エプロンもワンピースもスープまみれです。


「うう……染みになっちゃう……」


 えーん、ワンピース、仕立ててもらってまだ一か月もたっていないのに。染みになったらいやだなあ。


「洗えば大丈夫よ。ほら、急いで着替えてきなさい。本当に遅刻よ」


 私は大急ぎで部屋に戻って、リーゼお姉ちゃんのお下がりの服に着替えました。落ち着いた緑色の上着とスカート。エプロンは替えがあったからそれで。


「はい、時間ないよ! 走って!」

「転ばないように気をつけろよー」

「はーい! 行ってきまーす!」


 うう、なんだか幸先悪いなあ。

 ううん、大丈夫。ローワンの木の精霊様がお守りくれたんだもん。きっと大丈夫だよね!


   ◇   ◇   ◇


 私を待っていてくれたせいで、ミラーズのみんなも遅刻ギリギリでした。


「セーフ! いっちばーん!」

「ま、間に合いましたね」

「遅刻するかと、思ったぁ」

「いやー、何とか間に合ったね」

「私、息、あがっちゃった、よー」


 うう、みんなごめん。次からは遅刻しないよう、先に行ってね。


「あ、ユウガ! おっはよー、久しぶりだねー!」


 ほとんど息を乱していないミラルダが、元気にそう叫びました。

 顔を上げると、ユウガくんが黙ったままこっちを見ていました。よかった、今日は学校に来たんだ。よし、今日こそユウガくんとお話しするぞ。


「ミラ、私も協力しますから。ちゃんとお話、してくださいね」

「うん、ありがとう」


 アルミラがそっと言ってくれて、嬉しくなりました。

 助けてくれる友達がいるって、すごく心強い。きっと大丈夫、だよね。


「ユウガくん、おはよう」

「……」


 挨拶をしたけれど――ユウガくんは返してくれませんでした。

 え、なんで。朝の挨拶はちゃんと返してくれていたのに。それもしてくれなくなったの?


「おま、え……なん、で……」

「え?」


 ユウガくんが、なんだか辛そうな顔になりました。

 なんだろう、どうしたんだろう。

 アルミラが、心配そうにこっちを見ていました。かばんを置いてこっちに来ようとしていたけれど、イザベラ先生が教室に入ってきたので、慌てて席に戻っていきます。


「おはよう、みんな。あらユウガ、久しぶりね」

「はい……すいません、休んでしまって」

「いいのよ。叔父さんとはたくさんお話しできたかしら?」

「……はい」


 ユウガくんの顔が歪みました。なんだろう、これって――泣きそうな顔?


「はい、それじゃ出席を取りますよ!」


 ユウガくんとお話したかったけど、朝礼が始まってしまいました。

 私は席について、前を向きます。でもユウガくんはうつむいていて、なんだか苦しそうで。


「……なんで、今日は連れてきてないんだよ」


 ぽつり、と。

 本当に小さな声でつぶやいて、ギュッと手を握っていました。


   ◇   ◇   ◇


 授業中、ユウガくんはほとんど先生の話を聞いていなくて、机の下に隠した本(?)を盗み見ながら、すごく必死な顔で紙に何かを書き殴っていました。

 鬼気迫る、てこういう感じかも。

 時々、自分の指を強く噛んで、その指先を鉛筆に押し当てているみたい。何をしてるのか気になったけど、なんだか話しかけるのが怖い雰囲気で、声をかけられませんでいた。


「あの、ユウガくん」

「ごめん、ちょっと用があるから」


 最初の休憩時間、勇気を出して声をかけてみたけれど、そんなふうに言われちゃって。

 ちょっと乱暴な口調にびっくりしていたら、ユウガくんは席を立って、大急ぎで教室を出て行ってしまいました。


 どうしよう。

 なんだか、怒っていた?


 なにがなんだかわからなくておろおろしていたら、アルミラが来てくれました。


「ミラ、大丈夫ですか?」

「うん……」

「どうしたんでしょうか、あきらかに今日はおかしいですね」

「なんか、すごい必死な感じだね」


 ミラルダもやってきて、困ったような顔をしていた。

 必死――そう、なんだかすごく必死。なにがユウガくんにあったんだろう。なんであんな泣きそうな顔をしていて、私が話しかけたら怒っちゃったんだろう。


「ミラ、次の休憩時間、私たちで話をしてみますから」

「だね。ちょっとあいつ、おかしい。心配しないで、私に任せて」


 アルミラとミラルダはそう励ましてくれたけど――休憩が終わってもユウガくんは教室に戻ってきませんでした。イザベラ先生もどこにいるのか知らないみたいで、他の先生に探すようお願いしてました。


 かばんは置きっぱなしだし、帰ったわけじゃないよね?

 いったいどこに行っちゃったんだろう。


 二時間目はとうとう戻ってこなくて、三時間目もいないまま。四時間目になってやっと、図書室の机の下に隠れていた、て男の先生に引っ張られて戻ってきました。


「ユウガ、図書室で何をしていたのです?」


 イザベラ先生に問い詰められても、ユウガくんはうつむいたまま。すいません、て何度も謝って、イザベラ先生もため息をついていました。


「……席に着きなさい」

「はい」


 戻ってきたユウガくんは。

 私を見るのが嫌だとでもいう感じで、露骨に目をそらしたまま、椅子に座りました。

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