13.魔法使いの責任
「あー、それ、私も気になってた」
アルミラに続いて、ミラルダも私を見ました。
「あいつ、なーんかミラのこと避けてるよね」
「ええ。休憩時間になると、まるで逃げ出すように席を立ってますね」
「えーと……よくわかんなくて」
私は正直に答えました。
学校へ通い始めた日から避けられている感じで、でも嫌われている、ていうのでもなくて。何かしちゃったのかな、て思ったけれど、全然わからなくて。
「最初の日から、ですか」
アルミラが、むむむ、と難しい顔をしました。
「それは変ですね。ミラが何かしたのだとしても、さすがに最初の日からそんな態度は取らないと思います」
ユウガくんは勉強も運動もできる優等生、てだけでなく、すごく気配りができる親切な子。だから先生も、ミラに色々教えてあげて、てユウガくんに頼んだんだろう――アルミラはそう言いました。
「てゆーか、ミラが何かするわけないじゃん。とっても真面目でいい子だよ」
「同感です」
わ、ほめられちゃった。ちょっと照れくさいな。あ、さっき私が拍手したとき、アルミラもこんな気持ちだったのかな?
「ねえミラ。何か心当たりとか、変わったこと、なかった?」
ミラルダの質問に、私は、うーん、と考えました。
あ、そういえば。
学校へ通い始めた最初の日、ユウガくんが変なこと言っていたな。「君、何を連れてきてるの?」て。あれ、よく考えたら不思議なセリフだよね。
「何を連れてきている? なにそれ?」
ミラルダは首を傾げていたけれど。
「……なるほど、そういうことですか」
アルミラは何かわかったようにうなずきました。
「え、どういうこと?」
「忘れたのですか、ミラルダ。ユウガの素質」
「あ、そうか。ユウガにはそれがあったね」
ミラルダもわかったみたいです。なんだろう。
「その、実は……」
アルミラが声をひそめました。
「ユウガは、魔力が強いんです」
「魔力が?」
「はい。それも並大抵の力ではなく、賢者ミラリーヌ様が弟子にしようと考えている、という噂があるくらいなんです」
えっ、賢者ミラリーヌ様が弟子に?
それって、ものすごいことなんじゃないの?
「ええ、すごいんです」
「だからユウガには、私たちには見えないものが見えたり、感じたりできるみたいなの」
確かお師匠様が言っていた。魔力はほとんどの人が持っているけれど、精霊が見えたり魔法が使えたりするレベルで持っている人は、そんなに多くない、て。
ユウガくんて、ほんとにすごいんだ。
「でもそれ、わからない人にしてみれば気味が悪いでしょ? あいつ、小さい頃に色々あったんだよね」
「私とミラルダは幼馴染ですので知っていますが……同じクラスの子も、ほとんどが知りません」
「そうなんだ」
小さい頃に色々あった。
私は小さい頃の、南の町であったことを思い出しました。ひょっとしたらユウガくんも、小さい頃に怖い思いをしたのかも。だとしたら、自分から「見える」なんて言わないよね。
「ひょっとしたらユウガには、ミラルダについて来ている何かが見えて、それを警戒しているのかもしれません」
「何か思い当たること、ある?」
うーん、と私は考えました。
真っ先にローワンの木の精霊のことが思い浮かんだけれど、リーゼお姉ちゃんが、植物の精霊は本体からあまり離れることができない、て言ってたし。だからローワンの木の葉っぱは違うよね?
だったら、何だろう。
「……わかんない」
考えてみたけど、全然わからなかった。でもユウガくんが「何を連れてきてるの?」て聞くぐらいだから、何かがついて来ている、てことだよね。
なんだろう、ちょっと怖くなってきちゃった。
とりあえず――帰ったらリーゼお姉ちゃんかコン兄ちゃんに聞いてみよう。
世界最強の魔法使い、「魔女の王」の弟子だったんだもん。きっと二人なら、何かわかるよね。
◇ ◇ ◇
家に帰ってすぐ、私に何かついているのかリーゼお姉ちゃんに調べてもらいました。
「うーん、特に何かがついている、てことはなさそうだけど」
しばらく調べた後で、リーゼお姉ちゃんはそう言いました。念のため葉っぱも調べてくれたけど、やっぱり何もついていない、て。
「そっかー」
ユウガくんが私を避けている理由、これではっきりすると思ったのにな。また振り出しに戻っちゃった。
「にしても……そうか、そのユウガって子、魔力が強いのか」
「気になるわね」
賢者ミラリーヌ様が弟子にしようとしている、そんなに強い魔力を持つ子が普通の学校に通っているというのは、普通はない――リーゼお姉ちゃんはそう言いました。
「小さい頃に色々あったのよね? そういう子は、たいていの場合は教堂に預けて、魔力の制御方法を学ばせるはずなんだけど」
「それか、たまたま通りかかった魔法使いが保護するか、だな」
リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは、その「たまたま」の方でした。まだ一歳か二歳だった時に、住んでいた町が魔物に滅ぼされて、たった一人で残されていたところを、お師匠様に拾われたんだって。
「『魔王』が暴れていたころならともかく、戦いが終わった後だよな? なんで教堂で指導を受けてねーんだ?」
「噂が立つぐらいだから、賢者様も知っていると思うし。放置している理由がわからないわね」
「まあ、あるとすれば……」
何かを言いかけて、コン兄ちゃんは口を閉じました。
え、なに? 教えてよ。気になっちゃうよ。
「いや、まあ考えすぎかな、て……」
「なあに? 教えてよ」
「あー、その……ユウガって子が種子派だとしたら、教堂も預からないかもな、て」
ユウガくんが――種子派?
そんなのウソだよ。コン兄ちゃん、冗談ひどすぎ。ユウガくん、すごく親切な子だよ。私、たくさん助けてもらったよ。誘拐なんて悪いこと、する子じゃないよ。
「だから考えすぎかな、て。その、最悪中の最悪のケース、てやつだ」
「まあ、さすがにないわね。まだ十歳でしょ? でも……」
リーゼお姉ちゃんの顔から、いつものふんわりした笑顔が消えて――ガラス細工みたいな、冷たくて透明な顔になりました。
「ユウガくんの親、あるいは再会した叔父が、種子派かその関係者、ということは考えられるわ。その場合、ユウガくんの意志とは関係なく、種子派に利用されているかもしれないわね」
リーゼお姉ちゃんは、静かな口調でそう言いました。
その顔は、久しぶりに見た「魔法使い」の顔でした。怖くなって、ゾクッと震えてしまいます。
膨大な知識を司り、常に冷静に、知恵で世を導く者であれ。
お師匠様が、いつも二人に言っていました。時と場合によっては、愛する者すら切り捨てる冷徹さを持て、て。それが強大な力――「魔法」を使う者の責任だ、て。
だから、もしも――もしもユウガくんが種子派だったら。
二人はきっと容赦しない。私を守るために、冷徹な魔法使いとなってその力を使うはず。「元」だけど、あのお師匠様の弟子だもの、手加減なんて絶対しない。
でもそんなの――いやだよ。
「泣かないで、ミラ」
いつの間にか泣いていた私を、リーゼお姉ちゃんが優しく抱きしめてくれた。
「ごめんね。初めてできたお友達だもの、仲良くなりたいよね」
「でも俺たちは、ミラを守らねーといけねーから」
それがお師匠様の指示で――世界を救った勇者・ラドミールとの約束だから。
「許してね。でも大丈夫、きっとうまくいくわ」
「ああ、心配するな。きっとユウガってやつと、仲良くなれるさ」
「……うん」
私は泣きじゃくりながらうなずいて。
リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんに、ぎゅっとしがみつきました。




