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勇者の子  作者: おかやす
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13/26

13.魔法使いの責任

「あー、それ、私も気になってた」


 アルミラに続いて、ミラルダも私を見ました。


「あいつ、なーんかミラのこと避けてるよね」

「ええ。休憩時間になると、まるで逃げ出すように席を立ってますね」

「えーと……よくわかんなくて」


 私は正直に答えました。

 学校へ通い始めた日から避けられている感じで、でも嫌われている、ていうのでもなくて。何かしちゃったのかな、て思ったけれど、全然わからなくて。


「最初の日から、ですか」


 アルミラが、むむむ、と難しい顔をしました。


「それは変ですね。ミラが何かしたのだとしても、さすがに最初の日からそんな態度は取らないと思います」


 ユウガくんは勉強も運動もできる優等生、てだけでなく、すごく気配りができる親切な子。だから先生も、ミラに色々教えてあげて、てユウガくんに頼んだんだろう――アルミラはそう言いました。


「てゆーか、ミラが何かするわけないじゃん。とっても真面目でいい子だよ」

「同感です」


 わ、ほめられちゃった。ちょっと照れくさいな。あ、さっき私が拍手したとき、アルミラもこんな気持ちだったのかな?


「ねえミラ。何か心当たりとか、変わったこと、なかった?」


 ミラルダの質問に、私は、うーん、と考えました。

 あ、そういえば。

 学校へ通い始めた最初の日、ユウガくんが変なこと言っていたな。「君、何を連れてきてるの?」て。あれ、よく考えたら不思議なセリフだよね。


「何を連れてきている? なにそれ?」


 ミラルダは首を傾げていたけれど。


「……なるほど、そういうことですか」


 アルミラは何かわかったようにうなずきました。


「え、どういうこと?」

「忘れたのですか、ミラルダ。ユウガの()()

「あ、そうか。ユウガにはそれがあったね」


 ミラルダもわかったみたいです。なんだろう。


「その、実は……」


 アルミラが声をひそめました。


「ユウガは、魔力が強いんです」

「魔力が?」

「はい。それも並大抵の力ではなく、賢者ミラリーヌ様が弟子にしようと考えている、という噂があるくらいなんです」


 えっ、賢者ミラリーヌ様が弟子に?

 それって、ものすごいことなんじゃないの?


「ええ、すごいんです」

「だからユウガには、私たちには見えないものが見えたり、感じたりできるみたいなの」


 確かお師匠様が言っていた。魔力はほとんどの人が持っているけれど、精霊が見えたり魔法が使えたりするレベルで持っている人は、そんなに多くない、て。

 ユウガくんて、ほんとにすごいんだ。


「でもそれ、わからない人にしてみれば気味が悪いでしょ? あいつ、小さい頃に色々あったんだよね」

「私とミラルダは幼馴染ですので知っていますが……同じクラスの子も、ほとんどが知りません」

「そうなんだ」


 小さい頃に色々あった。

 私は小さい頃の、南の町であったことを思い出しました。ひょっとしたらユウガくんも、小さい頃に怖い思いをしたのかも。だとしたら、自分から「見える」なんて言わないよね。


「ひょっとしたらユウガには、ミラルダについて来ている何かが見えて、それを警戒しているのかもしれません」

「何か思い当たること、ある?」


 うーん、と私は考えました。

 真っ先にローワンの木の精霊のことが思い浮かんだけれど、リーゼお姉ちゃんが、植物の精霊は本体からあまり離れることができない、て言ってたし。だからローワンの木の葉っぱは違うよね?

 だったら、何だろう。


「……わかんない」


 考えてみたけど、全然わからなかった。でもユウガくんが「何を連れてきてるの?」て聞くぐらいだから、何かがついて来ている、てことだよね。

 なんだろう、ちょっと怖くなってきちゃった。


 とりあえず――帰ったらリーゼお姉ちゃんかコン兄ちゃんに聞いてみよう。

 世界最強の魔法使い、「魔女の王」の弟子だったんだもん。きっと二人なら、何かわかるよね。


   ◇   ◇   ◇


 家に帰ってすぐ、私に何かついているのかリーゼお姉ちゃんに調べてもらいました。


「うーん、特に何かがついている、てことはなさそうだけど」


 しばらく調べた後で、リーゼお姉ちゃんはそう言いました。念のため葉っぱも調べてくれたけど、やっぱり何もついていない、て。


「そっかー」


 ユウガくんが私を避けている理由、これではっきりすると思ったのにな。また振り出しに戻っちゃった。


「にしても……そうか、そのユウガって子、魔力が強いのか」

「気になるわね」


 賢者ミラリーヌ様が弟子にしようとしている、そんなに強い魔力を持つ子が普通の学校に通っているというのは、普通はない――リーゼお姉ちゃんはそう言いました。


「小さい頃に色々あったのよね? そういう子は、たいていの場合は教堂に預けて、魔力の制御方法を学ばせるはずなんだけど」

「それか、たまたま通りかかった魔法使いが保護するか、だな」


 リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんは、その「たまたま」の方でした。まだ一歳か二歳だった時に、住んでいた町が魔物に滅ぼされて、たった一人で残されていたところを、お師匠様に拾われたんだって。


「『魔王』が暴れていたころならともかく、戦いが終わった後だよな? なんで教堂で指導を受けてねーんだ?」

「噂が立つぐらいだから、賢者様も知っていると思うし。放置している理由がわからないわね」

「まあ、あるとすれば……」


 何かを言いかけて、コン兄ちゃんは口を閉じました。

 え、なに? 教えてよ。気になっちゃうよ。


「いや、まあ考えすぎかな、て……」

「なあに? 教えてよ」

「あー、その……ユウガって子が種子派だとしたら、教堂も預からないかもな、て」


 ユウガくんが――種子派?

 そんなのウソだよ。コン兄ちゃん、冗談ひどすぎ。ユウガくん、すごく親切な子だよ。私、たくさん助けてもらったよ。誘拐なんて悪いこと、する子じゃないよ。


「だから考えすぎかな、て。その、最悪中の最悪のケース、てやつだ」

「まあ、さすがにないわね。まだ十歳でしょ? でも……」


 リーゼお姉ちゃんの顔から、いつものふんわりした笑顔が消えて――ガラス細工みたいな、冷たくて透明な顔になりました。


「ユウガくんの親、あるいは再会した叔父が、種子派かその関係者、ということは考えられるわ。その場合、ユウガくんの意志とは関係なく、種子派に利用されているかもしれないわね」


 リーゼお姉ちゃんは、静かな口調でそう言いました。

 その顔は、久しぶりに見た「魔法使い」の顔でした。怖くなって、ゾクッと震えてしまいます。


 膨大な知識を(つかさど)り、常に冷静に、知恵で世を導く者であれ。


 お師匠様が、いつも二人に言っていました。時と場合によっては、愛する者すら切り捨てる冷徹さを持て、て。それが強大な力――「魔法」を使う者の責任だ、て。

 だから、もしも――もしもユウガくんが種子派だったら。

 二人はきっと容赦しない。私を守るために、冷徹な魔法使いとなってその力を使うはず。「元」だけど、あのお師匠様の弟子だもの、手加減なんて絶対しない。

 でもそんなの――いやだよ。


「泣かないで、ミラ」


 いつの間にか泣いていた私を、リーゼお姉ちゃんが優しく抱きしめてくれた。


「ごめんね。初めてできたお友達だもの、仲良くなりたいよね」

「でも俺たちは、ミラを守らねーといけねーから」


 それがお師匠様の指示で――世界を救った勇者・ラドミールとの約束だから。


「許してね。でも大丈夫、きっとうまくいくわ」

「ああ、心配するな。きっとユウガってやつと、仲良くなれるさ」

「……うん」


 私は泣きじゃくりながらうなずいて。

 リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんに、ぎゅっとしがみつきました。

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