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勇者の子  作者: おかやす
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12/26

12.いっしょに登下校

 次の日から、学校へ行く道を変えることにしました。

 先週使っていた道は細い路地が多かったし、途中に聖堂もあったから。種子派の聖堂、てわけじゃないけれど、やっぱりちょっと気になるよね。

 いったん南に向かって、大きな道に出たらまっすぐ西へ。ちょっと遠回りになっちゃうけど、人通りが多いから、種子派のことがなくてもこっちの方が安全なはずです。


「あっれー、ミラだー。おっはよー!」


 急ぎ足で歩いていたら、元気な声に呼ばれました。

 声の方を見たら、亜麻色のふわふわした長い髪の女の子。同じクラスのミラルダが、にこにこ笑って手を振っていました。


「あ、おはよー」

「ミラって、この道だったのー?」


 私が手を振り返すと、ミラルダが元気よく駆け寄ってきました。

 うわ、速い。

 見た目はお姫様みたいにきれいな子なのに、すごく活発で運動が得意なんだよね。


「うん。道を変えたの」


 先週まで通っていた道は、細い路地が多くて、女の子が一人で歩くのは危ないって言われたから――そう答えたら、うんうん、てミラルダはうなずきました。


「だよねー。シュシハ、だっけ? 変なのもいるしね」


 あ、種子派のこと知ってるんだ。王都でも誘拐とかしているのかな。


「してるよー。警察の人も手を焼いてるんだって」

「そうなんだ」

「ミラも気を付けてね。私たちみたいな、かわいい女の子ばかりねらってる、サイテーなやつらみたいだから」

「あ、うん」


 かわいい、て自分で言っちゃうんだ。

 ていうか、私()()、て。ミラルダはわかるけど、私は普通だよぉ。


「えー、ミラはかわいいよ」


 ミラルダが私の顔をじっと見て言いました。


「初めてミラを見たとき、なんかかわいい子が来た、て思ったもん。大きくなったら、絶対美人になると思うなー」

「そ、そうかなぁ」

「もちろん努力は必要けどね。どんなにいいソザイでも、磨かないとただの石ころだよ」


 素敵な笑顔でウィンクするミラルダ。こういうのを、茶目っ気たっぷり、て言うのかな?


「ねえミラ、一緒にお姫様目指さない? ミラならいけるよ。私もライバルがいたら張り合い出るし」

「ええっ、お姫様!? 私には無理だよお」

「大丈夫、いけるって。自分の可能性、信じよ!」


 信じよ、て言われても。

 私、おしゃれなんてよくわかんないし。無理だってばあ。


「おーい、おっはよー!」

「あー、ミラだー!」


 そんな話をしながら歩いていたら、ミラーズのみんなと合流しました。

 みんな、毎日一緒に学校へ行ってるんだって。道は広いし、人目は多いし、何より女の子の集団は目立つから安全なんだって。

 確かにそうかも。それに、友達と一緒にお話しながら学校へ行くの、とっても楽しいな。


「ねえミラ。明日からも一緒に行こうよ」

「うん!」


 みんなに誘われて。

 私は嬉しくて、すぐにうなずいてしまいました。


   ◇   ◇   ◇


 教室へ行ったら、私からユウガくんに話しかけてみよう。

 楽しい気分で登校したおかげで、よしやるぞ、て気持ちになっていました。でもユウガくんは、朝礼が始まる時間になっても来ませんでした。


「ユウガは、今日はお休みです」


 朝礼の時間、イザベラ先生は出席を確認した後でそう言いました。

 ちょっと拍子抜け。こういうのを、気合の空回り、ていうのかな?


「せんせー、なんでユウガお休みなのー? かぜー?」


 ミラルダがイザベラ先生に尋ねました。イザベラ先生はゆっくりと首を振って、笑顔になりました。


「遠くの町から親戚の方が訪ねてきたそうです。叔父さんに当たる方で、『魔王』との戦いの中で行方不明になっていたんですって。十八年ぶりの再会だそうですよ」


 へえー、て声があちこちで上がりました。

 十八年ぶりの再会かあ。きっと、再会を喜んで家族みんなでお祝いしているんだろうな。それはお休みでも仕方ないか。

 でも十八年もどこにいたんだろう。ちょっとだけ不思議に思ったけど――まあいいか。


 その日はお隣の席が空っぽのまま、一日の授業を終えました。

 ちょっと寂しかったな。ユウガくん、明日は学校に来るかな。ミラーズのみんなみたいに仲良くなって、休憩時間もお話しできたらいいんだけど。


「では、今日はここまで」


 なんだかあっという間に一日が終わって、帰りの時間になりました。


「ミラ、いっしょに帰ろー」

「うん、いいよ」


 ミラルダに声をかけられて、一緒に帰りました。朝は一緒に学校へ行っているミラーズだけど、帰りはバラバラなんだって。


「アルミラは授業が終わった後、先生のお手伝いしてるの。あの子、大人が読むような難しい本をスラスラ読んじゃうから、資料の整理とか手伝ってるんだって」

「えー、すごーい」


 私も本は好きだけど、リーゼお姉ちゃんが呼んでるような本は読めないなぁ。アルミラってすごいんだ。


「他の三人も、おうちの手伝いがあるから大急ぎで帰らなきゃいけないし。いっしょに帰れたら楽しいのになぁ」


 ミラルダの気持ち、わかる。先週は一人で行って、一人で帰ってたけど、ちょっと寂しかったもん。


「あの、じゃあ……明日からも、いっしょに帰ろ」

「え、ほんと!?」


 ドキドキしながら聞いてみたら、ミラルダがパッと笑顔になりました。


「帰る帰る! やったあ!」


 ミラルダがすごく嬉しそうだから。

 私も嬉しくなっちゃった。


   ◇   ◇   ◇


 その日から、朝はミラーズのみんなと学校へ行って、終わったらミラルダと一緒に帰るようになりました。

 みんなとどんどん仲良くなって、そしたら学校へ行くことが楽しくなってきて。友達ができたら楽しくなるよ、てリーゼお姉ちゃんが言っていたけど、ほんとだね。


 でも、ユウガくんとは仲良くなれないままです。

 だってユウガくん、学校に来ないから。

 十八年ぶりに叔父さんと再会して、みんなでお祝いしてるんだろうな、て思ってたけど、お祝いって何日もするものなのかな?


 ユウガくんが学校に来ないまま、とうとう一週間最後の土霊日(つちのひ)になり――その日の授業も終わってしまいました。


「ミラ、帰ろー」


 空っぽの隣の席を眺めていたら、ミラルダに声をかけられました。いけない、早く片付けなくちゃ。


「ユウガ、今週は来なかったね」

「うん、どうしたのかな」


 ひょっとしてカゼでも引いたのかな。ちょっと心配。


「ミラルダ、ミラ。私も一緒に帰っていいですか?」


 片付けをしていたら、アルミラがやってきました。

 アルミラは褐色の肌に、長い黒髪を三つ編みにした女の子。話し方が大人みたいで、とってもていねい。ミラルダも言っていたけど、大人が読むような本をスラスラと読む、クラスで一番の秀才なの。今日は先生のお手伝いがないから、一緒に帰れるんだって。


「もっちろーん!」

「うん、いっしょに帰ろ」


 大急ぎで片付けて、三人一緒に教室を出ました。


「あんた、いつもどんなお手伝いしてるの?」

「多いのは、図書室の本の整理ですね」


 それ以外にも、先生が授業で使う資料を用意したり、国に提出する資料の整理をしたりしているんだって。


「すごーい!」

「いえ、まあ……言われた通りにやるだけですので」


 私が思わず拍手したら、アルミラはちょっと顔を赤くしていました。

 あれ、照れているのかな?

 でも言われた通りにやるだけ、て――先生が使う資料とか、国に提出する資料を、だよ。私なら絶対できないよ。


「私のことはいいじゃないですか。それより……ユウガはどうしたんでしょうね」

「あいつが学校休むなんて、めずらしいよねー」

「父に聞いてみたんですが、何も聞いてないそうで。何事もなければよいのですが」


 アルミラ、すっごく心配そう。そうだよね、お友達がずっと休んでたら心配だよね。


「心配なら、家に行けばー?」

「そ、それは……十八年ぶりに再会したというご親族がいらっしゃるんですよ。お邪魔になったらどうするんですか」

「いいじゃない、いっそ親族公認の仲になっちゃえば?」

「ち、ちょっと、ミラルダ!」


 あわわわ、てアルミラが慌てました。ちらっと私を見たけれど、また顔が赤くなってます。

 どうしたのかな?


「うぷぷー、アルミラ、かーわいい」

「お、怒りますよ!」

「あはは、ごめんってば」


 ミラルダがペロッと舌を出しました。全然反省してなさそう。アルミラが「まったくもう」て頬を膨らませてます。

 二人はよくこんな感じで言い合ってる。でも仲が悪いわけじゃなくて、その逆。すっごく仲がいいから、こんなふうに言い合えるんだろうな。ちょっとうらやましいかも。


「そ、そんなことより」


 コホン、と咳払いをして、アルミラが私をまっすぐに見ました。


「ミラに聞きたいことがあります。その……ユウガと、何かあったのですか?」

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