12.いっしょに登下校
次の日から、学校へ行く道を変えることにしました。
先週使っていた道は細い路地が多かったし、途中に聖堂もあったから。種子派の聖堂、てわけじゃないけれど、やっぱりちょっと気になるよね。
いったん南に向かって、大きな道に出たらまっすぐ西へ。ちょっと遠回りになっちゃうけど、人通りが多いから、種子派のことがなくてもこっちの方が安全なはずです。
「あっれー、ミラだー。おっはよー!」
急ぎ足で歩いていたら、元気な声に呼ばれました。
声の方を見たら、亜麻色のふわふわした長い髪の女の子。同じクラスのミラルダが、にこにこ笑って手を振っていました。
「あ、おはよー」
「ミラって、この道だったのー?」
私が手を振り返すと、ミラルダが元気よく駆け寄ってきました。
うわ、速い。
見た目はお姫様みたいにきれいな子なのに、すごく活発で運動が得意なんだよね。
「うん。道を変えたの」
先週まで通っていた道は、細い路地が多くて、女の子が一人で歩くのは危ないって言われたから――そう答えたら、うんうん、てミラルダはうなずきました。
「だよねー。シュシハ、だっけ? 変なのもいるしね」
あ、種子派のこと知ってるんだ。王都でも誘拐とかしているのかな。
「してるよー。警察の人も手を焼いてるんだって」
「そうなんだ」
「ミラも気を付けてね。私たちみたいな、かわいい女の子ばかりねらってる、サイテーなやつらみたいだから」
「あ、うん」
かわいい、て自分で言っちゃうんだ。
ていうか、私たち、て。ミラルダはわかるけど、私は普通だよぉ。
「えー、ミラはかわいいよ」
ミラルダが私の顔をじっと見て言いました。
「初めてミラを見たとき、なんかかわいい子が来た、て思ったもん。大きくなったら、絶対美人になると思うなー」
「そ、そうかなぁ」
「もちろん努力は必要けどね。どんなにいいソザイでも、磨かないとただの石ころだよ」
素敵な笑顔でウィンクするミラルダ。こういうのを、茶目っ気たっぷり、て言うのかな?
「ねえミラ、一緒にお姫様目指さない? ミラならいけるよ。私もライバルがいたら張り合い出るし」
「ええっ、お姫様!? 私には無理だよお」
「大丈夫、いけるって。自分の可能性、信じよ!」
信じよ、て言われても。
私、おしゃれなんてよくわかんないし。無理だってばあ。
「おーい、おっはよー!」
「あー、ミラだー!」
そんな話をしながら歩いていたら、ミラーズのみんなと合流しました。
みんな、毎日一緒に学校へ行ってるんだって。道は広いし、人目は多いし、何より女の子の集団は目立つから安全なんだって。
確かにそうかも。それに、友達と一緒にお話しながら学校へ行くの、とっても楽しいな。
「ねえミラ。明日からも一緒に行こうよ」
「うん!」
みんなに誘われて。
私は嬉しくて、すぐにうなずいてしまいました。
◇ ◇ ◇
教室へ行ったら、私からユウガくんに話しかけてみよう。
楽しい気分で登校したおかげで、よしやるぞ、て気持ちになっていました。でもユウガくんは、朝礼が始まる時間になっても来ませんでした。
「ユウガは、今日はお休みです」
朝礼の時間、イザベラ先生は出席を確認した後でそう言いました。
ちょっと拍子抜け。こういうのを、気合の空回り、ていうのかな?
「せんせー、なんでユウガお休みなのー? かぜー?」
ミラルダがイザベラ先生に尋ねました。イザベラ先生はゆっくりと首を振って、笑顔になりました。
「遠くの町から親戚の方が訪ねてきたそうです。叔父さんに当たる方で、『魔王』との戦いの中で行方不明になっていたんですって。十八年ぶりの再会だそうですよ」
へえー、て声があちこちで上がりました。
十八年ぶりの再会かあ。きっと、再会を喜んで家族みんなでお祝いしているんだろうな。それはお休みでも仕方ないか。
でも十八年もどこにいたんだろう。ちょっとだけ不思議に思ったけど――まあいいか。
その日はお隣の席が空っぽのまま、一日の授業を終えました。
ちょっと寂しかったな。ユウガくん、明日は学校に来るかな。ミラーズのみんなみたいに仲良くなって、休憩時間もお話しできたらいいんだけど。
「では、今日はここまで」
なんだかあっという間に一日が終わって、帰りの時間になりました。
「ミラ、いっしょに帰ろー」
「うん、いいよ」
ミラルダに声をかけられて、一緒に帰りました。朝は一緒に学校へ行っているミラーズだけど、帰りはバラバラなんだって。
「アルミラは授業が終わった後、先生のお手伝いしてるの。あの子、大人が読むような難しい本をスラスラ読んじゃうから、資料の整理とか手伝ってるんだって」
「えー、すごーい」
私も本は好きだけど、リーゼお姉ちゃんが呼んでるような本は読めないなぁ。アルミラってすごいんだ。
「他の三人も、おうちの手伝いがあるから大急ぎで帰らなきゃいけないし。いっしょに帰れたら楽しいのになぁ」
ミラルダの気持ち、わかる。先週は一人で行って、一人で帰ってたけど、ちょっと寂しかったもん。
「あの、じゃあ……明日からも、いっしょに帰ろ」
「え、ほんと!?」
ドキドキしながら聞いてみたら、ミラルダがパッと笑顔になりました。
「帰る帰る! やったあ!」
ミラルダがすごく嬉しそうだから。
私も嬉しくなっちゃった。
◇ ◇ ◇
その日から、朝はミラーズのみんなと学校へ行って、終わったらミラルダと一緒に帰るようになりました。
みんなとどんどん仲良くなって、そしたら学校へ行くことが楽しくなってきて。友達ができたら楽しくなるよ、てリーゼお姉ちゃんが言っていたけど、ほんとだね。
でも、ユウガくんとは仲良くなれないままです。
だってユウガくん、学校に来ないから。
十八年ぶりに叔父さんと再会して、みんなでお祝いしてるんだろうな、て思ってたけど、お祝いって何日もするものなのかな?
ユウガくんが学校に来ないまま、とうとう一週間最後の土霊日になり――その日の授業も終わってしまいました。
「ミラ、帰ろー」
空っぽの隣の席を眺めていたら、ミラルダに声をかけられました。いけない、早く片付けなくちゃ。
「ユウガ、今週は来なかったね」
「うん、どうしたのかな」
ひょっとしてカゼでも引いたのかな。ちょっと心配。
「ミラルダ、ミラ。私も一緒に帰っていいですか?」
片付けをしていたら、アルミラがやってきました。
アルミラは褐色の肌に、長い黒髪を三つ編みにした女の子。話し方が大人みたいで、とってもていねい。ミラルダも言っていたけど、大人が読むような本をスラスラと読む、クラスで一番の秀才なの。今日は先生のお手伝いがないから、一緒に帰れるんだって。
「もっちろーん!」
「うん、いっしょに帰ろ」
大急ぎで片付けて、三人一緒に教室を出ました。
「あんた、いつもどんなお手伝いしてるの?」
「多いのは、図書室の本の整理ですね」
それ以外にも、先生が授業で使う資料を用意したり、国に提出する資料の整理をしたりしているんだって。
「すごーい!」
「いえ、まあ……言われた通りにやるだけですので」
私が思わず拍手したら、アルミラはちょっと顔を赤くしていました。
あれ、照れているのかな?
でも言われた通りにやるだけ、て――先生が使う資料とか、国に提出する資料を、だよ。私なら絶対できないよ。
「私のことはいいじゃないですか。それより……ユウガはどうしたんでしょうね」
「あいつが学校休むなんて、めずらしいよねー」
「父に聞いてみたんですが、何も聞いてないそうで。何事もなければよいのですが」
アルミラ、すっごく心配そう。そうだよね、お友達がずっと休んでたら心配だよね。
「心配なら、家に行けばー?」
「そ、それは……十八年ぶりに再会したというご親族がいらっしゃるんですよ。お邪魔になったらどうするんですか」
「いいじゃない、いっそ親族公認の仲になっちゃえば?」
「ち、ちょっと、ミラルダ!」
あわわわ、てアルミラが慌てました。ちらっと私を見たけれど、また顔が赤くなってます。
どうしたのかな?
「うぷぷー、アルミラ、かーわいい」
「お、怒りますよ!」
「あはは、ごめんってば」
ミラルダがペロッと舌を出しました。全然反省してなさそう。アルミラが「まったくもう」て頬を膨らませてます。
二人はよくこんな感じで言い合ってる。でも仲が悪いわけじゃなくて、その逆。すっごく仲がいいから、こんなふうに言い合えるんだろうな。ちょっとうらやましいかも。
「そ、そんなことより」
コホン、と咳払いをして、アルミラが私をまっすぐに見ました。
「ミラに聞きたいことがあります。その……ユウガと、何かあったのですか?」




