11.神の乙女
精霊神の中で、一番偉いのはお日様の精霊神。
村に住んでいたとき、ゴン爺にそう教えてもらいました。
「でもね。ずっと昔、千年ぐらい前に大陸を統一した『帝国』ができるまでは、大地の精霊神が一番だ、て考えられていたのよ」
帝国が誕生する前は、神殿ごとに一番偉い精霊神が違っていた。その中で一番信じている人が多かったのが、大地の精霊神が一番だ、て考える神殿だった。
でも、だんだんと太陽の精霊神が一番だ、て信じる人が増えていった。
そして大きな戦争が起こって帝国が誕生したときに「教堂」もできて、太陽の精霊神が一番だ、て決められたんだって。
「でもね、大地の精霊神が一番だ、て考える人たちがいなくなったわけじゃないの」
教堂としてひとつになったけど、中にはいろいろな考え方をする人たちがいた。そういうのを区別するために、「○○派」て呼ぶようになった。
「で、太陽が一番だ、て考えるのを天輪派。大地が一番だ、て考えるのを大地派、て呼んでるんだ」
「天輪派が教堂の主流になったけど、大地派もそれなりの力を持っていてね。この二派は、どっちが正しいかって、ずっと争っていたのよ」
「ここまでが前置きな。オーケー?」
え、これ前置きなの?
うーん、なんだか難しそう。
「本題はこっからだ。実は大地派は、二十年前に壊滅している」
「原因は……ミラならわかるよね?」
「え?」
リーゼお姉ちゃんに問われて、私は首を傾げた。二十年前なんて、私はまだ生まれてないし、なんで私ならわかるって――あ、もしかして。
「『魔王』に滅ぼされたの?」
恐る恐る答えたら、リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんがうなずきました。
「『魔王』が現れたことにいち早く気づいた大地派の巫女が、『魔王』を封じ込めようとしたんだど、返り討ちにあったの。その仇を討とうと大地派の導師が総出で戦いを挑んだけど、それもやられてしまった。そう聞いているわ」
「そこから後は、お話にもなっているから知ってんな?」
「うん」
西の方にある大きな聖堂が「魔王」のお城になった。
「魔王」はそこからたくさんの魔物を出発させて、世界を滅ぼそうとした。
世界中の国が、教堂の導師と協力して「魔王」を倒そうとしたけれど、「魔王」はとても強くてかなわなかった。
このままじゃ世界が滅ぼされてしまうんじゃないか、て世界中の人が絶望しかけたとき――勇者ラドミール、私のお父さんが現れた。
王国の騎士だったお父さんは、仲間と共に「魔王」を倒す旅に出て、たくさんの困難を乗り越えて、ついに「魔王」を倒して世界に平和が戻った。
それが私の知っているお話。だけど――。
「『魔王』を封じ込めようとした巫女、なんて人がいたの?」
私が知っているお話だと、お父さんが魔王のお城へ乗り込むときに、道案内をしてくれた巫女はいる。
だけど、「魔王」を封じ込めようとした巫女なんて出てこない。そんな人がいるのなら、お話の最初に出てくるはずだよね?
「そうなの。なぜかその巫女のことは秘密にされているのよ」
「なんで?」
「わからないわ。でもたぶん……教堂にとって、不都合なことがあるのでしょうね」
「王国にとってもな。ミラ、その巫女のことは絶対外で言うなよ。師匠も、うかつに口に出すな、て言ってたからな」
コン兄ちゃんがちょっと怖い顔で言いました。私は、うん、とうなずいて約束します。
「つーわけで、大地派は壊滅し、『魔王』は勇者によって倒された。平和が戻り、教堂は天輪派の天下となった」
でもな、と。
コン兄ちゃんがため息をつきました。
「『魔王』出現は、大地派を壊滅させるために天輪派が仕組んだことだ、て言い出すやつらが現れてな。それが種子派だ」
精霊神は天輪派の悪だくみを許さず、その力を受け継ぐ御子をつかわして意思を表す――種子派の人はそう言って、天輪派の人たちを非難しているんだって。
「種子派の多くは、元大地派の導師か、その弟子よ。だから、彼らが言う精霊神は大地の精霊神。その御子というのは、大地にまかれた精霊神の種だ、と言っているの。だから種子派て呼ばれるようになったのよ」
「で、自分たちが正しいって証明するために、血眼になって御子を探してる、てわけだ」
御子が見つかれば、種子派が言っていることが正しいと証明され、天輪派の罪が明らかになる。
それをもって天輪派から主導権を奪い、教堂は種子派が正しい方向へ導く。それが、種子派の狙いなんだって。
「まあ、教堂のうちわもめなら、勝手にやってろって話だけどよ」
コン兄ちゃんが、またため息をつきました。
「種子派のやつら、やることが過激でな。あちこちで問題起こしてるんだ」
「問題?」
「精霊神の子じゃねえか、て思った子を、さらっていくんだよ」
え、それって誘拐だよね? 犯罪じゃないの?
「そうよ。立派な犯罪。何度も逮捕者が出て、王国でも警ら隊と軍が協力して取り締まってるわ。でも、なくならないの。それどころか、種子派の人は増えている、て話よ」
「そんなやつらに、ミラが勇者ラドミールの子だとバレたら……間違いなく、さらわれるぜ」
私は息を呑みました。
どうしてリーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんが怖い顔をしていたのか、やっとわかりました。さらわれて、どこか遠くのところに連れて行かれるなんて絶対いやだよ。
「大丈夫よ、私たちが守るから」
震え出した私を、リーゼお姉ちゃんがギュッと抱きしめてくれました。
「ごめんね、ちょっと怖いよね。でも大丈夫、私たちが絶対に守るからね」
「そーだぜ。それに安心しな、ミラはまるで魔力がねえからな。『神の乙女』にはなれねえよ」
「……神の乙女?」
「大地の精霊神に仕える特別な巫女のことを、大地派の人はそう呼んでたんだよ」
大地の精霊神は女神。だから、仕える神官も一番偉いのは巫女、ていうのが伝統なんだって。
「種子派は大地派の流れを汲む一派だ、探してるのは『神の乙女』になりうる子だぜ」
強い魔力を持ち、精霊神の声が聞こえる人。神の乙女として選ばれるには、それが最低条件になるんだって。
だったら私は――選ばれないよね。魔力はないし、精霊の声はもちろん、姿すら見えないんだもん。
「お師匠様も、めったなことはないだろう、ておっしゃってたわ。でも、用心はしてね」
お師匠様がそう言っていたのなら、大丈夫だよね。
魔力がなくてよかった、て――私はそう思って、ほっと息をつきました。




