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【三作目・完結済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
エピローグ:終わらない巡礼

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第50話:再会と赦し

 修道院の、裏手にある、小さな菜園。

 俺とカサンドラは、古びた木のベンチに並んで腰掛け、静かに、言葉を交わしていた。

 夕暮れの、柔らかな光が、俺たち二人を、優しく、包んでいる。


「……本当に、生きていたんだな」

 俺は、まだ、目の前の現実が、信じられないというように、呟いた。

 カサンドラは、穏やかに、微笑んだ。

「ええ。あの時、私は、最後の力を振り絞って、ゼノンさんの嵐を破壊しましたが、その代償で、聖女としての力のほとんどを、失ってしまいました。……気を失った私が、森の中で倒れているのを、この修道院の院長様が、助けてくださったんです」


 彼女は、聖女の力を失った。

 俺が、勇者の力を失ったように。

 俺たちは、かつて、世界を救うと期待された、特別な存在だった。

 だが、今は、もう、ただの、名もなき人間に、過ぎない。


「……あなたこそ、ご無事で、本当によかった」

 カサンドラは、俺の、傷だらけの手を、そっと、見つめた。

「……リアン。あなたの旅のことは、風の噂で、聞いていました。……名もなき旅人が、各地で、人助けをしている、と。……それが、あなたなのだろうと、すぐに、分かりました」

「……人助け、などではない」

 俺は、自嘲気味に、首を振った。

「……ただの、自己満足だ。俺が、犯した罪への、償いにすら、なっていない」


 俺は、この二年間の旅で見てきた、悲劇の数々を、カサンドラに、ぽつりぽつりと、語った。

 俺の、独善的な選択が、どれだけの人々を、不幸にしたか。

 そして、その罪悪感が、今も、どれだけ、俺の心を、苛んでいるか。


 俺の話を、黙って聞いていたカサンドラは、やがて、静かに、口を開いた。

「……リアン。あなたは、本当に、罪を犯したのでしょうか」

「……当たり前だ」

「いいえ」

 彼女は、静かに、首を振った。

「あなたは、ただ、一人の、大切な人を、命を懸けて、守ろうとしただけです。……それは、決して、罪などでは、ありません。……それは、愛、です」


 愛。

 その言葉に、俺は、ハッとした。

 俺が、エリアに抱いていた、この感情。

 それは、ただの、同情や、責任感だけではなかった。


「……誰も、あなたを、責めたりはしません」

 カサンドラの声は、まるで、聖母の子守唄のように、優しかった。

「……エリアさんも、ゼノンも。……そして、私も。……誰も、あなたを、恨んだりなど、していない。……むしろ、感謝しているはずです。……あなたが、最後まで、諦めずに、戦い抜いてくれたことに」


 彼女は、そっと、俺の手に、自分の手を、重ねてきた。

「……だから、もう、いいんです、リアン。……あなたは、もう、十分に、苦しみました。……自分自身を、罰するのは、もう、おやめなさい」

「…………」

「エリアさんは、あなたが、そんな風に、自分を傷つけ続けることを、決して、望んではいません。……彼女は、あなたに、笑ってほしかったはずです。……心から、幸せになって、ほしかったはずです」


 その、温かい言葉が、氷のように固まっていた、俺の心を、少しずつ、溶かしていく。

 そうだ。

 エリアは、最後に、そう願っていた。

『リアンさんが、幸せになれますように』と。

 俺は、彼女の、その最後の願いにすら、背を向けて、生きてきたのだ。


「……俺は……」

 俺の声は、震えていた。

「……俺は、どうすれば、いいんだ……。……この、空っぽになった心で、どうやって、生きていけば、いい……?」

「……空っぽでは、ありませんよ」

 カサンドラは、優しく、微笑んだ。

「……あなたの心には、たくさんの、温かい思い出が、残っているはずです。……エリアさんと過ごした、かけがえのない時間。……私や、ゼノンと、共に旅をした、記憶。……それらは、決して、消えたりはしない。……あなたの、これからの人生を、照らしてくれる、大切な、道標になるはずです」


 彼女の言葉は、まるで、治癒魔法のように、俺の、荒れ果てた魂を、癒していく。

 俺は、重ねられた彼女の手に、自分の手を、そっと、乗せた。


「……ありがとう、カサンドラ」

 俺は、心の底から、そう言った。

「……あんたに会えて、よかった」

「……はい」

 カサンドラの瞳から、一筋、涙が、こぼれ落ちた。

 それは、悲しみの涙ではない。

 ただ、二年という、長い時間を経て、ようやく、再会できたことへの、安堵と、喜びの涙だった。


 俺は、その夜、修道院に、一晩だけ、泊めてもらうことにした。

 子供たちの、無邪気な寝顔。

 カサンドラの、穏やかな祈りの声。

 その、温かい空間の中で、俺は、この二年で、初めて、安らかな眠りに、つくことができた。


 夢を、見た。

 エリアが、花畑の中で、笑っている夢。

 ゼノンが、「仕方ないですね」と、呆れたように、笑っている夢。

 彼らは、俺に、何も言わなかった。

 ただ、優しい笑顔で、俺を、見守ってくれているだけだった。


 俺は、生まれて初めて、誰かに、自分の罪を、赦されたような、気がした。

 いや、違う。

 俺が、初めて、自分自身を、ほんの少しだけ、赦すことが、できたのかもしれない。

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