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【三作目・完結済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
エピローグ:終わらない巡礼

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第47話:贖罪の旅路

 季節が、二度、巡った。

 俺が、名もなき巡礼者として、あてのない旅を始めてから、二年という月日が流れていた。

 太陽に焼かれ、風雨に晒された俺の顔には、かつての勇者としての面影は、もうほとんど残っていない。伸び放題になった銀髪は埃で汚れ、着ている旅人の服は、擦り切れて、ぼろぼろだった。


 人々は、俺のことを、物好きな放浪者か、あるいは、何か重い罪を背負った巡礼者として、遠巻きに見ていた。誰も、俺が、かつて世界を救ったとされる、伝説の勇者リアンだとは、気づかない。

 それで、よかった。俺は、もう、誰からも、忘れ去られた存在でいたかった。


 この二年、俺は、ゼノンが残してくれた地図を頼りに、エリアと共に辿った道を、忠実に、逆走していた。

 彼女と出会った、あの魔王城があった場所から、南へ。

 俺たちが、振りまいてしまった、災厄の跡を、一つ、一つ、その目に焼き付けるために。


 その旅は、俺が想像していた以上に、過酷で、そして、心を抉るものだった。

 エリアの魔力汚染によって、不毛の地と化した森。

 原因不明の病に苦しみ、活気を失った村。

 俺の、あまりにも大きな力によって、半壊したまま、復興の目処も立たない、ドワーフ・フォートの街。

 その、すべての悲劇が、俺の、たった一つの選択によって、引き起こされたのだ。


 俺は、それらの場所を訪れるたびに、正体を隠し、名もなき旅人として、復興の作業を手伝った。

 瓦礫を運び、畑を耕し、井戸を掘る。

 勇者の力も、聖剣の力も失った俺にできることは、限られていた。それは、ただの、一人の人間としての、ささやかな労働に過ぎない。

 だが、俺は、黙々と、働いた。

 誰かに、感謝されるためではない。

 ただ、そうしなければ、俺自身の心が、張り裂けてしまいそうだったからだ。


 人々は、そんな俺を、奇異な目で見ていた。

 金も求めず、名も名乗らず、ただ、黙々と働き、そして、数日が経つと、風のように、去っていく。

 気味悪がられ、石を投げられたことも、一度や二度ではなかった。

 そのたびに、俺は、何も言わず、その場を立ち去った。

 当然の、報いだと思った。


 そして、その日。

 俺は、旅の途中で、ある村の前に、立っていた。

 フォルト村。

 エリアが、初めて、人間の祭りに触れ、リンゴ飴を頬張って、無邪気に笑った、思い出の場所。

 そして、俺たちが、「魔女とその手下」として、村人たちから、憎悪と敵意を向けられた、因縁の場所でもあった。


 村の様子は、二年前とは、様変わりしていた。

 活気に満ちていた収穫祭の賑わいは、どこにもない。畑は荒れ、家々の壁は、ところどころが、崩れている。

 俺たちがもたらした、魔力汚染の後遺症が、今も、この村を、深く、蝕んでいるのだ。


 俺は、フードを目深に被り、村の中へと、足を踏み入れた。

 村人たちの目は、暗く、澱んでいる。誰もが、疲弊しきっていた。

 俺は、村の中央広場へと向かった。

 かつて、エリアと立ち寄った、あの井戸。

 その周りには、今も、魔除けの注連縄が、固く、張られていた。

 井戸は、もう、涸れてしまっているらしかった。


 俺は、近くで農作業をしていた、一人の老人に、声をかけた。

「……何か、手伝えることは、ないだろうか」

 老人は、訝しげに、俺の顔を見上げた。

「……あんたは、旅人か? 見ない顔だな。……悪いが、よそ者に、構っている暇はねえんだ」

「……井戸を、掘ろうと思う」

 俺は、静かに、言った。

「……この村には、水が、足りていないのだろう。俺が、新しい井戸を、掘る。見返りは、いらない」


 老人は、俺の言葉を、信じられないというように、呆気に取られていた。

 だが、他に、頼るあてもなかったのだろう。

 彼は、やがて、諦めたように、ため息をついた。

「……好きにしな。……どうせ、この村も、もう、終わりだ」


 その日から、俺の、孤独な作業が、始まった。

 村人たちは、誰も、俺を手伝おうとはしない。

 ただ、遠巻きに、不審な目で、見ているだけだった。

 俺は、そんな視線を、気にも留めず、ただ、黙々と、地面を掘り続けた。


 つるはしを、振り下ろす。

 固い、乾いた大地に、刃が、食い込む。

 手のひらの皮が、すぐに、剥けた。

 血が、滲み、豆が、潰れる。

 だが、俺は、手を止めなかった。

 この、肉体的な痛みが、俺の心の痛みを、ほんの少しだけ、和らげてくれるような、気がしたからだ。


 日中は、穴を掘り、夜は、村はずれの馬小屋で、眠る。

 食事は、エリアの両親が持たせてくれた、なけなしの保存食を、少しずつ、齧るだけ。

 そんな日々が、何日も、続いた。


 それは、まさしく、自分自身に、罰を与えるための、苦行だった。

 俺が、ここにいる理由を、誰も知らない。

 俺が、何のために、こんなことをしているのかを、誰も、理解しない。

 それで、よかった。

 これは、俺と、そして、今はもういない、エリアとの、二人だけの、対話なのだから。


 ――エリア。見ているか。

 俺は、こうして、償っている。

 お前と、俺が、残してしまった、罪を。

 この、空っぽになった体で、俺に、できる、たった一つの、方法で。


 俺は、泥まみれになりながら、ただ、ひたすらに、つるはしを、振り下ろし続けた。

 乾いた大地が、俺の流した、汗と、血を、静かに、吸い込んでいく。

 まるで、この土地そのものが、俺の贖罪を、受け入れているかのようだった。

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