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【三作目・完結済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
最終章:約束の丘で

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第46話:旅立ち

 エリアが眠る丘に背を向け、俺は、彼女の故郷であるシオフキ村を後にした。

 西の空は、まだ、夕焼けの残光で、燃えるような茜色に染まっている。

 これから、どこへ向かうのか。

 俺には、行くべき場所も、帰るべき場所も、どこにもなかった。


 村の出口まで、エリアの両親が、見送りに来てくれた。

 母親が、一つの、大きな布包みを、俺に、差し出した。

「……リアンさん、これを持って行ってください。旅の、お供に」

 中には、数日分の保存食と、清潔な着替え、そして、なけなしの金貨が、数枚、入っていた。


「……こんな、ものまで……」

「いいんです。あなたは、もう、私たちの、息子も同然なのですから」

 父親が、ぶっきらぼうに、しかし、温かい声で、そう言った。

 俺は、何も言えずに、ただ、その包みを、強く、握りしめた。

 心の奥底が、じんわりと、温かくなる。

 俺には、家族なんて、いなかった。

 だが、この旅の最後に、俺は、確かに、温かい家族の情というものを、手に入れたのかもしれない。


「……行って、まいります」

 俺は、生まれて初めて、そんな言葉を、口にした。

 そして、二人にもう一度、深く頭を下げると、今度こそ、歩き出した。

 もう、振り返ることは、しなかった。


 夜の帳が、完全に、地上を覆う頃、俺は、村から続く、一本道を、ただ、黙々と歩いていた。

 腰には、力を失った、空っぽの聖剣。

 そして、エリアの両親がくれた布包み。

 背負った荷物は、それだけだった。

 ああ、いや、もう一つ。

 俺は、懐から、小さな、青いガラス細工の髪飾りを取り出した。

 ルナリアの街で、俺が、エリアに買ってやった、思い出の品だ。

 彼女の亡骸と共に、埋めてやるべきだったのかもしれない。

 だが、俺には、どうしても、それができなかった。

 これだけは、彼女の、生きた証として、俺が、持っていてやりたかったのだ。

 俺は、その髪飾りを、自分の外套の襟に、お守りのように、そっと、留めた。


 これから、俺は、どうすればいいのだろう。

 王都へ戻る道は、閉ざされた。

 英雄としての、リアンの人生は、終わったのだ。

 ならば、ただの人間として、どこかの村で、静かに暮らすか?

 エリアの母親が、言ってくれたように、俺自身の、幸せを、探すのか?


 ――違う。


 俺の心が、それを、はっきりと、拒絶した。

 俺に、そんな資格はない。

 俺が、エリアと共に旅をするという、たった一つの我儘を選んだことで、一体、どれだけの人が、不幸になった?

 フォルト村の、あの村人たち。

 廃教会で会った、憎しみに燃える、あの少年。

 そして、俺たちを匿ったことで、氷漬けにされた、ルナリアの街の人々。

 彼らの犠牲の上に、俺の、今の命は、成り立っている。


 その罪を、忘れて、俺だけが、幸せになっていいはずがない。

 俺は、償わなければならない。

 俺たちが、この世界に残してしまった、深い傷跡を。

 この目で、確かめ、この手で、できる限りの、償いをしなければ。


 俺は、懐から、もう一つ、古びた地図を取り出した。

 ゼノンが、残してくれた、思い出の地図。

 そこには、俺とエリアが通ってきた、旅の軌跡が、記されている。


 俺の、新たな旅の目的地は、決まった。

 この、地図に記された、過去を、もう一度、逆に、辿っていくのだ。

 俺たちが、振りまいてしまった、災厄の跡を、一つ、一つ、訪ね歩く。

 それは、決して、楽な道ではないだろう。

 人々から、石を投げられるかもしれない。

 罵声を、浴びせられるかもしれない。

 それでも、俺は、行かなければならない。


 それは、誰かに、強制されたわけではない。

 俺が、俺自身に課した、最初の、そして、最後の、試練。

 罰、と言っても、いいのかもしれない。

 俺の、終わりのない、贖罪の旅が、今、静かに、幕を開けた。


 俺は、夜空を見上げた。

 満天の星が、瞬いている。

 あの、星降りの高原で、エリアと、共に見上げた、星空と、同じだった。


「……見ていてくれ、エリア」

 俺は、誰に言うでもなく、呟いた。

「……俺が、どんな風に、生きていくのかを。……お前や、仲間たちが、命を懸けて、俺に遺してくれた、この未来を、どう、歩いていくのかを……」


 俺は、星空に背を向け、再び、歩き出した。

 北へ。

 俺たちが、始まった、あの場所へ。

 その足取りは、重く、しかし、迷いはなかった。

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