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第81話 やわらぐ雪と、ほどけない並び

朝、空は白く霞んでいた。

 雲は薄いが、光がやさしく広がっている。

 冷えは少し弱い。


 縁側に出る。


 小さな雪玉は、昨日より丸みを失っていた。

 表面に水が浮き、輪郭がゆるくなっている。


 それでも、まだそこにある。


 「やわらいだな」

 みーちゃんが言う。

 「うん」


 台所で湯を沸かす。

 火の音が静かに広がる。

 味噌桶の蓋を開けると、匂いが変わらず立つ。


 戻る。


 雪玉の横に、小さな足跡。


 タマのものだ。


 昨日の夜についたらしい。


 少しだけ笑う。


 「増えてる」


 そう言うと、みーちゃんが目を細める。


 坂の下で戸の音。


 足音が一つ。


 少し遅れて、もう一つ。


 佐伯さんと、あの子ども。


 いつものように坂を上がってくる。


 縁側の前で止まる。


 「おはようございます」

 佐伯さん。


 「おはよう」


 子どもはすぐに雪玉を見る。


 近づく。


 しゃがむ。


 指でそっと触る。


 少し崩れる。


 「やわらかい」


 小さく言う。


 「溶けてるね」


 それだけ返す。


 子どもが足跡を見る。


 タマの跡。


 その横に、自分の指を並べる。


 少しだけ考えてから、

 また雪を集め始める。


 でも今日は、うまくまとまらない。


 雪が水っぽい。


 丸めても崩れる。


 何度か試す。


 それでも崩れる。


 少しだけ眉が下がる。


 「今日は、難しいね」


 言うと、子どもがうなずく。


 少し沈黙。


 それから、小さな雪をそのまま置く。


 丸くはない。

 でも、白い形。


 「これでいい」


 ぽつりと言う。


 「いいね」


 そのまま返す。


 形は違う。

 でも、置くことはできる。


 佐伯さんが少し笑う。


 「毎日違いますね」


 「雪だから」


 それで十分だった。


 タマが縁側へ出てくる。

 崩れた雪の横を通る。


 新しい足跡。


 子どもがそれを見る。


 少しだけ笑う。


 「また増えた」


 「増えたね」


 みーちゃんが静かに言う。


 「ほどけても、並ぶ」


 「うん」


 丸い形は崩れる。

 雪も溶ける。


 でも、並んだものは消えない。


 「入っていいですか」


 佐伯さんが言う。


 「どうぞ」


 戸は開いている。


 靴をそろえる音。


 居間へ。


 炬燵。

 湯気。

 いつもの場所。


 今日は、三人。


 子どもが炬燵へ入る。

 動きが、もう迷わない。


 湯を三つ用意する。


 湯気が重なる。


 外の雪はほどけていく。

 でも、中の並びは崩れない。


 子どもが湯飲みを持ちながら言う。


 「また変わる」


 「変わるね」


 それだけ返す。


 「でも、ここ」


 小さく続ける。


 「ここ」


 もう一度。


 「うん、ここ」


 そのまま返す。


 場所は残る。


 並びも残る。


 冬は、

 形を変えながら、

 続いていく季節だった。

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