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第75話 降り始めの雪と、集まる温度

昼前、空がゆっくり白くなっていった。

 雲が厚く重なり、光がぼやける。

 冷えが、少しずつ深くなる。


 台所で味噌を溶いていると、

 外でぱさりと音がした。


 最初の雪。


 縁側に出る。

 白い粒が、静かに落ちてくる。


 まだ積もらない。

 でも、続きそうだ。


 「来たな」

 みーちゃんが言う。

 「うん」


 そのまま見ていると、

 坂の下で戸の音。


 足音が二つ。


 少し早い。


 佐伯さんと、あの子ども。


 雪を避けるように、坂を上がってくる。


 縁側の前で止まる。


 「雪、降ってきましたね」

 佐伯さん。


 「降ってるね」


 子どもが空を見る。


 「積もる?」


 「多分」


 それだけでいい。


 「入っていいですか」


 「どうぞ」


 戸は半分開いている。

 そのまま入る。


 靴をそろえる音。

 少しだけ急いでいる。


 居間へ。


 炬燵。

 湯気。

 いつもの場所。


 今日は、三人。


 タマが布団の中で動く。

 子どもがすぐに潜り込む。


 「つめたい」


 小さく言う。


 「すぐあったまる」


 短く返す。


 佐伯さんも座る。

 少し息が上がっている。


 湯を三つ用意する。


 湯気が強い。


 外の冷えを押し返すように。


 子どもが両手で湯飲みを持つ。

 今度は、すぐに顔をしかめない。


 慣れてきている。


 雪が強くなる。

 戸の向こうで、音が変わる。


 しん、とした音。


 「静かになりますね」


 佐伯さんが言う。


 「雪だから」


 その通りだった。


 音が吸われる。


 外の世界が、少し遠くなる。


 家の中の温度が、はっきりする。


 子どもがぽつりと言う。


 「ここ、あったかい」


 何度目かの言葉。


 でも、今は少し違う。


 外の冷えを知った後の言葉。


 「そうだね」


 それだけ返す。


 みーちゃんが縁側の方で言う。


 「集まったな」


 「うん」


 外の雪が、

 人を内へ寄せる。


 それは自然なこと。


 しばらく三人で座る。


 言葉は少ない。


 でも、温度は十分。


 やがて雪が少し弱くなる。


 子どもが立ち上がる。


 「行く」


 佐伯さんも立つ。


 「また来ます」


 「どうぞ」


 二人が出ていく。


 白くなり始めた坂。


 足音が二つ、残る。


 縁側に戻る。


 雪が、静かに積もっていく。


 家の中は変わらない。


 でも、外が変わることで、

 内の温度が、はっきりする。


 冬は、

 こうして人を集める季節だった。

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